米超党派議員団、上下両院でメキシコの鉄鋼製品に232条関税を賦課する法案を提出

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2024年03月15日

米国連邦議会で通商を所管する上院財政委員会と下院歳入委員会の超党派議員団(注1)は3月12日、メキシコからの鉄鋼製品の輸入に対し、1962年通商拡大法232条(以下、232条)に基づく関税を賦課することを求める法案(S.3917外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますH.R.7638外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)をそれぞれ提出した。

232条は、特定製品の輸入が米国の国家安全保障に影響を及ぼすと判断される場合に、大統領に関税賦課など輸入制限措置を発動する権限を認めている。措置発動に先立って、商務省が事実確認の調査を行い、調査報告書を通じて大統領に輸入制限措置の発動を勧告する。232条に基づき、ドナルド・トランプ前大統領は2018年3月に、鉄鋼・アルミニウム製品に対してそれぞれ25%、10%の追加関税の賦課を開始した。鉄鋼・アルミ製品の米国内生産は安全保障上不可欠だとした上で、輸入増加および中国を中心とした過剰生産により米国内産業が損害を受けていることを理由としている。232条措置は301条措置(注2)などと異なり、原則として全ての貿易相手国からの輸入が対象になる。ただし、米国は国・地域によって適用除外措置を講じており、メキシコからの輸入に対しては2019年5月に、メキシコが輸出を適切に監視するなどの条件の下、適用除外措置が講じられていた(2019年5月20日記事参照)。

法案は、メキシコからの鉄鋼の輸入が急増しているとの懸念に基づき、商務長官に対して、232条関税で定められた25%の関税を少なくとも1年間賦課することを指示するもの。また、大統領に対して、輸入急増があった製品に数量割り当てまたは関税割り当てを課す権限を認める。さらに、商務長官と米国通商代表部(USTR)に対して、再度関税を引き下げまたは撤廃する際に、メキシコが輸出を適切に監視していることを議会に証明する義務を課す。トム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)は法案提出に際して声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、「メキシコが米国との2019年の(232条)関税撤廃の合意をほごにしたことで、米国に鉄鋼製品が大量に流入し、労働者を苦しめ、安全保障を損なっている。交渉が必要だった段階は過ぎ去った」として、具体的な措置の必要性を強調した。

なお、議会に加えて、バイデン政権側でもUSTRのキャサリン・タイ代表が2月16日に、メキシコのラケル・ブエンロストロ経済相と会談を行い、輸入急増に関する懸念や、第三国原産の鉄鋼製品についてメキシコが十分な情報を提供していないなどとの懸念を示し、232条関税を賦課する可能性を示唆していた。これに対し、ブエンロストロ経済相も、追加関税が課された場合に報復措置を講じる可能性を示している(2024年3月4日記事参照)。

(注1)上院では、トム・コットン議員(共和党、アーカンソー州)、シェロッド・ブラウン議員(民主党、オハイオ州)ら10人が共同提出。下院では、フランク・ムルバン議員(民主党、インディアナ州)、リック・クロフォード議員(共和党、アリゾナ州)ら9人が共同提出した。

(注2)1974年通商法301条は、外国の通商慣行が貿易協定に違反している場合や、不合理・差別的で米国の商業に負担または制限を与えている場合に、大統領の指示に従って米国通商代表部(USTR)に追加関税などの輸入制限措置を発動する権限を認めている。措置発動に先立って、USTRは事実確認の調査を行い、調査報告書を作成する。調査の結果、米国の商業に負担または制限を与えていると判断される場合に、措置を発動する。USTRは3月12日、中国の海事・物流・造船分野での行為・政策・慣行に対する、301条に基づく措置の請願書を受理したと発表している(2024年3月13日記事参照)。

(葛西泰介)

(米国、メキシコ)

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