進出日系企業の脱炭素化取り組みが加速

(スペイン、ポルトガル、日本)

マドリード発

2024年03月29日

スペイン、ポルトガルに進出する日系企業のネットゼロの取り組みが急速に進展している。「2023年度 海外進出日系企業実態調査(欧州編)」では、脱炭素化への取り組みに「すでに取り組んでいる」と回答した企業が7~8割と、北欧諸国並みに高い割合となった。

再生可能エネルギー(再エネ)利用や、省エネ設備導入、エネルギー消費管理などの取り組みは既に主流化している。特に多いのが再エネの活用で、自家発電用ソーラーパネルの設置例が多い。直近ではバンドー化学が2月に、同社バルセロナ拠点の建屋屋上に自社使用電力の約6割を賄う太陽光発電システムを設置した。2023年6月には、ブリヂストンがブルゴス工場の屋上に9.2メガワット(MW)の大規模な発電システムを稼働させたほか、ヤンマー傘下のヒモインサがムルシア工場の屋上に同様のシステムを設置したと発表。また、再エネ熱利用では、花王が2023年7月、バルセロナ工場に自家消費用のバイオマス熱利用プラントを新設すると発表した。従来の天然ガス・コージェネレーションプラントとの入れ替えにより、同工場の二酸化炭素(CO2)排出を95%削減する。

製造プロセスや設備の改善を通じた脱炭素化も広く行われている。カゴメは2024年にポルトガル工場で蒸気回収やエネルギー管理システム導入に着手する予定だ。カヤバは2023年2月、デジタルツイン技術(注)をナバラ工場の製造ラインに活用するプロジェクトを現地企業とともに立ち上げた。これはより持続可能な製造工程を実現するもので、同州の研究開発助成を受けている。

ジェトロは3月20~22日、一部のスペイン進出日系企業を対象にヒアリングを実施した。いずれも現地のCO2や大気汚染物質の排出規制の厳しさを指摘し、揮発性有機化合物(VOC)の排出が自治体により常時モニタリングされている事例もあった。企業グループ内の排出削減の取り組みだけでなく、取引先からライフサイクルアセスメント(LCA)の実施や、スコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出)の削減目標達成の取り組みが求められる場合も多くあり、外部評価機関のサステナビリティー認証を取得する動きが広がりつつある。また、組織内の企業活動に独自に炭素価格を用いる「インターナルカーボンプライシング」を導入している企業もあり、プロジェクトの意思決定の段階で排出量を考慮し、炭素価格込みでの収益性を検討しているという。

(注)デジタルツインとは、「デジタル上の双子」の意で、物理的なモノと空間をデジタル上に再現し、シミュレーションや管理などを行う技術。

(伊藤裕規子、小野恵美)

(スペイン、ポルトガル、日本)

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