米USTRタイ代表、2026年のUSMCA見直しでは「変化に確実に対応できるように」

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2024年03月08日

米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は36日、米国シンクタンクのブルッキングス研究所が主催したイベントで、北米3カ国が加盟する貿易協定の米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の展望について講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

写真 講演するUSTRのタイ代表(左)(ジェトロ撮影)

講演するUSTRのタイ代表(左)(ジェトロ撮影)

タイ代表は冒頭、USMCAの前身の北米自由貿易協定(NAFTA)について、特に農業、鉄鋼、自動車の3分野で3カ国の産業を強力に統合してきたと振り返った。その上で、現在の米国のこれら産業はNAFTAやUSMCAの上に成り立っていることを理解しなければならないとして、協定が果たしてきた役割を強調した。他方で、USMCA発効後に新型コロナウイルスのパンデミックや気候変動への対応、中国との関係などの課題が顕在化してきたとして、NAFTAが協定発効後約25年を経てUSMCAに生まれ変わったように、2026年7月のUSMCA見直しのタイミング(注1)では、「気楽に話し合うようなかたちにはしたくない」「周囲で起きている変化に確実に対応し続けられるように、USMCAの再評価を続ける」との姿勢を示した。

また、タイ代表は、中国で過剰生産された電気自動車(EV)やEV用バッテリーが今後北米にも波及した場合には、北米の自動車産業の存続の危機につながり得ると課題感を示した。これに対して、米国のインフレ削減法(IRA)でEVの税額控除適用のために北米での最終組み立て要件を設けたことや(2023年4月3日記事参照)、USMCAに基づく特恵関税を適用するために原産地規則(ROO)を厳格化して生産拠点を消費地の近隣国に移転するニアショアリングと信頼できる同盟・パートナー国との間でサプライチェーンを多様化するフレンドショアリングを図っていることを挙げ、米国が技術革新と貿易政策でメキシコとカナダとともに先導しているとその意義を強調した。また、自動車分野のROOの解釈が米国とメキシコ・カナダの2カ国の間で分かれ、USMCAの紛争解決パネルを通じて解決が試みられていることを念頭に(注2)、「3カ国が同時に影響を受ける環境変化に対応するために歩調を合わせなければいけない」「紛争解決の仕組みは3カ国を政治的解決に導くという観点で考えたい」と述べた。紛争解決の仕組みだけで解決できない場合には、協定がどのように機能しているか本質的に再評価する2026年のタイミングに併せて解決を図る必要があるだろうと述べ、仕組み自体の見直しの必要性を主張した。

イベントは、ブルッキングス研究所が3月5日に公表したUSMCAに関する年次報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの公表に併せて開催された。同研究所は、見直しで協定の有効期限の更新が合意されなければ、北米全域の貿易投資が大きく減少すると警告し、報告書をUSMCAの重要性を明確に理解するためのデータと分析結果を提供するものと位置付ける。報告書では、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化やデリスキングの観点でUSMCAの重要性が浮き彫りになったと総括している。

(注1)USMCAには、協定発効から16年後(2036年7月1日)に失効するサンセット条項が組み込まれている。ただし、協定発効6年目に3カ国で見直しの協議を行い、全加盟国が同意すれば、さらに16年の延長が可能となる。

(注2)完成車全体の域内原産割合(RVC)が純費用方式で75%以上、また、エンジンなど特定の自動車部品(コアパーツ)が全て域内原産品などの厳格なROOが設定されている。完成車全体のRVCを算出する際に、コアパーツに非原産材料が含まれていてもRVCを満たしていれば、コアパーツ全体の価格をRVCとして計上できるか否かで、できると主張するメキシコ・カナダと、できないと主張する米国とで解釈が分かれている。2023年1月に公表されたパネルの最終報告では、米国の主張が認められず、メキシコとカナダの解釈が支持された(2023年1月13日記事参照)。一方で、米国がパネルの裁定に従う様子はみられず、今回のタイ代表の政治的解決につながる紛争解決の仕組みを求める発言につながる。ROO詳細は2023年8月8日付地域・分析レポート参照

(葛西泰介)

(米国、メキシコ、カナダ)

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