バイデン米政権、ビジネスと人権などに関する行動計画を更新

(米国、日本)

ニューヨーク発

2024年03月28日

米国国務省は3月25日、責任ある企業行動(Responsible Business Conduct)に関する国家行動計画の第2版を公開外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。主にビジネスと人権に関して米国政府が今後取り組む施策や、米国政府が企業に期待する人権デューディリジェンス(人権DD、注1)の取り組みなどを示した。

今日、ビジネスのグローバル化に伴って、自社のビジネスが国内外の人権にもたらす影響に配慮することが重要になっている。国際的にはこれまで、国連人権理事会で2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則(国連指導原則)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が採択され、政府は人権を保護する義務を負い、企業は人権を尊重する責任を負い、被害者は救済を受けられるべきと定めた。OECDも同年の責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの改定に際して、人権尊重に関する章を追加したほか、ILOは2017年に多国籍企業宣言外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの改定に際して、政府や企業の人権保護の義務や責任を明記した。米国でも、これら国際基準に即してオバマ政権下の2016年に行動計画の第1版を発表しており、今回公開の第2版はこれの更新版に当たる。行動計画の内容は大きく次の3点だ。

○米国政府の方向性、企業に期待する人権DDの取り組み:米国政府の人権重視の方向性を強調。1930年関税法(注2)やウイグル強制労働防止法(UFLPA、注3)などを通じて、企業の人権DDを促進させてきたとした上で、企業に上記の国際基準に従って人権DDを実施することを奨励。具体的な人権DDの取り組みは、人権リスクが深刻なケースを優先して対処すること、状況の継続的なモニタリングを行うこと、苦情処理メカニズムなどを通じて関係者とのコミュニケーションを図ること、これら取り組み内容や結果を広く共有することなど。

○米国政府が今後取り組む4つの施策:(1)責任ある企業行動に関する諮問委員会を設立し、利害関係者による政策提言などにつなげる、(2)連邦調達規則(FAR)の施行を強化し、政府調達での人権保護を強化する、(3)OECD多国籍企業行動指針で定める連絡窓口(NCP)の機能を強化するなどして、被害者が確実に救済を受けられるようにする、(4)「責任ある企業行動・労働権情報ハブ(RBC and Labor Rights Info Hub)」をオンライン上に設け、企業が十分な情報を得た上で方針や慣行を策定できるようにする。

○上記4施策に加えて米国政府が取り組む技術、労働者の権利、環境・気候、腐敗防止などの分野の施策を列挙。

今回の更新版では、既存法令の確実な執行や利害関係者とのコミュニケーション強化など、バイデン政権のビジネスと人権の促進に向けた姿勢を今一度示したかたちだ。米国でビジネスを行う企業はビジネスと人権に即したガバナンスがあらためて求められているといえよう。

なお、日本政府も2020年に行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを、2022年には企業の人権DDの指針としてガイドライン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表したほか、2023年には同ガイドラインの取り組み実施に向けた作業シートなどを含む実務参考資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表している。

(注1)企業活動における人権への負の影響を調査・評価し、それを防止、停止、軽減させる一連の取り組み。

(注2)1930年関税法(307条)は、強制労働を用いて製造された製品の輸入を禁止する米国法。

(注3)UFLPAは、主に中国の新疆ウイグル自治区が製品のサプライチェーンに関与する場合に、ウイグル族などの強制労働を用いて製造されているとの推定の下、1930年関税法に基づいて製品の輸入を禁止する米国法。UFLPAの輸入者向け運用ガイダンス(ジェトロ調査レポート参照)では、同法への確実な対応に際して企業が参考すべき資料として、本行動計画、国連指導原則、OECD多国籍企業行動指針、ILO多国籍企業宣言などを列挙している。

(葛西泰介)

(米国、日本)

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