年次教書演説、産業振興のための高度人材育成と技術主権を強く意識

(ロシア)

調査部欧州課

2024年03月12日

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月29日、年次教書演説を行った。社会・経済分野では、製造業の振興とそれを支える高度人材の確保に力点が置かれ、実現のため5つの新たな国家プロジェクト(注1)の創設が盛り込まれた。

演説において、大きく時間が割かれたのは社会対策だ。労働力人口の維持を念頭に、出生数増加、生活の基盤となる所得の引き上げを含む地域対策、児童や生徒向けの新教育システムの導入など、多くの項目が盛り込まれた。教育関連では、労働力人口の確保を念頭とした人材育成とそれを支える教育システムの刷新が提起された。航空、造船、医薬品、電機、防衛分野では、産学協力により2028年までに100万人の専門人材を養成する意向だ。

産業の基盤となる科学技術の振興については、2030年までに基礎分野を含め研究開発投資を官民合わせて現在の2倍となるGDP比2%まで引き上げるとした。その背景には、技術主権(注2)の確立を急ぐ考えがある。生産性向上にはデジタル化の一層の推進と人工知能(AI)の活用が不可欠とし、多面的なデジタルプラットフォームの構築と、生成AIや大規模言語モデルなど人工知能のアルゴリズムの国産化に意欲を示した。

輸送・交通関連では、南北輸送路(注3)、北極海航路、シベリア鉄道およびバム鉄道改修に加え、国産航空機の開発や石油タンカー、液化天然ガス(LNG)船などの自国での改修の体制整備について言及した。

プーチン大統領は、これらの施策の実施には巨額の資金が必要になると指摘。それを補うための税制改革について言及し、企業や個人の収入・所得水準に応じた累進課税方式への変更を検討するよう議会と政府に指示した。

内外情勢認識では、西側諸国が自分たちに都合の良い状況をつくり出そうとして世界中で紛争を引き起こしていると強く非難し、その文脈でNATOによるウクライナへの派兵の議論を強く牽制する発言もあった。他方で、2024年1月1日から加盟国が増えたBRICS(2024年1月5日記事参照)をはじめとした「友好国」との協力による物流網、金融システムの構築を進め、欧米諸国などが課す経済制裁措置に対応する姿勢を示した。

(注1)2019年2月12日記事参照。既存の16分野に加え、家族、長寿・健康、青年、人材、データ・エコノミーが年次教書で提示された。

(注2)世界的なサプライチェーンからの切り離しなどで、ロシア国内での生産が停止したことなどを背景に、特に西側諸国を中心とした外国からの技術や部品供給に頼らない独自の開発やサプライチェーンの構築を目指す動き。

(注3)イランなどを経由して、インドとロシアを結ぶ複合輸送網。

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