米下院歳入委、一般特恵関税(GSP)やデミニミスなどの通商関連法案を可決

(米国、中国)

ニューヨーク発

2024年04月22日

米国連邦議会下院で通商を所管する歳入委員会は4月17日、開発途上国向け特恵関税の復活や、通関手続きが簡素化される少額貨物輸入の対象を中国を念頭に厳格化するなど、計6本の通商関連法案(注1)を可決した。

今回可決された6本の法案のうち、法案(H.R.7986)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は一般特恵関税制度(GSP)に関するもの。GSPは開発途上国を原産地とする輸入に特恵税率を適用する国際的な仕組みだが、米国では2020年末に失効している(注2)。同法案はこれを2030年末まで復活させ、失効期間中の輸入にも特恵税率を遡及(そきゅう)適用する。また、GSP対象品目の原産地規則の段階的な厳格化や、GSP受益国からの中国の除外、中国などと経済的・軍事的関係を深める場合や国際的に認められた人権を侵害する場合などに受益国から除外するなど、対象品目・国の要件を変更する。歳入委員会の投票では賛成25票、反対17票だった。仮に法案が成立した場合、米国でビジネスを行う企業は特恵関税分の輸入コスト削減や、遡及適用による関税還付などのメリットが見込まれる。

また法案(H.R.7979)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、非課税基準額(デミニミス)ルールに関するもの。米国では輸入貨物の申告額が800ドル以下の場合、関税が賦課されないとともに、原産地などの情報を申告せず簡易的に輸入可能だが、議会からは、中国企業がデミニミスルールを用いて本来支払うべき関税を回避しているなどと指摘する声が上がっていた(2023年6月26日記事参照)。同法案は、米国が中国原産品に対して1974年通商法301条に基づき賦課する追加関税(301条関税)などの貿易制限措置(注3)を講じている製品について、デミニミスルールの適用対象外とする。歳入委員会の投票では賛成24票、反対18票だった。法案概要によれば、仮に法案が成立した場合には、現在デミニミスルールが適用される中国からの輸入の半数以上が適用対象外となる。本法案については、4月16日の議会公聴会(2024年4月18日記事参照)で米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表が「消費者向けに製品を生産・販売する国内事業者を中心に、デミニミスが競争力に大きな懸念をもたらすと聞いている」と述べるなど、関税の支払いを免れた外国製品が米国企業の脅威になり得ると批判していた。

各法案は歳入委員会を通過したが、投票では民主党議員の多くが反対票を投じており、超党派の合意を得るには至っていないもようだ。例えばGSP法案については、米国企業の実質的負担を軽減し得ることからその必要性は超党派で認識されつつも、民主党議員は貿易拡大によって雇用を失った労働者に対して連邦政府が援助を行う貿易調整支援(TAA、注4)法案と併せて提出することを求めていたとされる(通商専門誌「インサイドUSトレード」4月17日)。このため、今後、共和党が多数派を占める下院本会議で審議・可決されたとしても、その次のステップである民主党議員が多数派を占める上院でこれら法案が実際に審議・可決されるかについては不透明さが残る。各法案ともに米国でビジネスを展開する企業への影響が想定され得る内容だけに、今後の法案審議の動向が注目される。

(注1)全6法案については歳入委員会ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

(注2)米国のGSP動向については、2023年5月22日付地域・分析レポートも参照。

(注3)同法案では、301条関税のほか、1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税、アンチダンピング税(AD)および補助金相殺関税(CVD)、1974年通商法201条(セーフガード)に基づく追加関税が挙げられている。

(注4)TAA(Trade Adjustment Assistance)は、貿易拡大を理由に雇用を失った労働者に対して連邦政府が所得支援、職業訓練、再就職支援などを提供するプログラム。TAAに基づく新規支援は2022年7月から失効状態が続いている。

(葛西泰介)

(米国、中国)

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