新たな福祉年金基金の創設法案、下院を通過

(メキシコ)

メキシコ発

2024年04月24日

メキシコ下院は4月22日の本会議で、新たに福祉年金基金を創設し、個人年金口座にある未受給の資金を同基金に移管する法案を賛成252票、反対212票、棄権4票で可決した。70歳以上の社会保険庁(IMSS)加入の民間正規労働者や、75歳以上の公務員社会保険庁(ISSSTE)加入の公務員が所有する個人年金口座の未受給資金が同基金への移管の対象となる。

同法案の内容は、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が2月5日に国会に提出した20の憲法・法律の改正案(2024年2月7日記事参照)の中に含まれていた年金改革制度(2024年2月14日記事参照)の一部だ。憲法改正案の中で、全ての正規労働者に退職時給与の100%(注)を保証するため、その年金補填財源として大蔵公債省が福祉年金基金を創設することを明記した。その初期の財源として、受給手続きを行わずに10年以上個人年金口座に放置された資金が含まれていた。今回の法案では、10年以上放置された休眠口座ではなく、70歳以上の正規労働者で、年金未受給の個人年金口座が対象になる。ただし、70歳以上を過ぎても労働をしている場合は、対象外としている。また、福祉年金基金に一度移行された資金でも、本来の口座所有者が正式な手続きを行えば、運用で発生した利息とともに年金が支給されるとしているが、具体的な手続きの方法は定められていない。

野党は「国民が持つ資金の窃盗だ」と痛烈批判

AMLO大統領は4月23日の記者会見で、同法案の下院通過に関して「年金受給者は退職時給与の100%を受給できるようになり、既に退職し、退職時給与の100%が支給されていない場合、この基金からその補填(ほてん)を行う」と語った(大統領府記者会見録4月23日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

一方で、野党・市民運動(MC)のマリア・フェルナンダ・フェリックス議員は「この改革は進歩ではなく、逆に権利を侵害し、不安と恐怖を生み、労働者の権利を後退させるものだ」と非難した。また、制度的革命党(PRI)のヨランダ・デ・ラ・トーレ議員は「この法案について最高裁に(違憲訴訟を)提訴する予定だ。なぜなら、明らかに憲法違反であり、ある者から金を取り上げて、他の者に渡そうとすることはできないからだ」と主張しており、国が国民の資金を接収するように見える行為を批判した(「レフォルマ」紙4月22日)。

なお、福祉年金基金に移管されるもののうち、メキシコで社会保険料を納めた日本人を含む外国人の個人年金口座も含まれる。メキシコでは60歳以上から年金支給資格があるため、70歳になる前に早めに年金受給手続きを行うことが推奨される。

(注)ただし、社会保険庁(IMSS)加入正規労働者の平均賃金(月額)を上限とする。

(阿部眞弘)

(メキシコ)

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