ウクライナ・イスラエル・台湾支援やTikTok規制など盛り込んだ米緊急予算法案が成立

(米国、ウクライナ、ロシア、イスラエル、台湾)

ニューヨーク発

2024年04月25日

米国連邦議会は4月23日までに、ウクライナとイスラエル、台湾への支援などを定めた国家安全保障に関する緊急追加予算法案(H.R.815)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを可決した。ジョー・バイデン大統領が24日に署名し、同法案は成立した。これらの国・地域に対する支援については、上院で2月にいったん可決(ウクライナ支援600億ドル、イスラエル支援141億ドル、人道支援91億5,000万ドル、紅海での米国活動費用24億4,000万ドル、台湾などインド太平洋支援48億3,000万ドル)されていたものの、下院ではウクライナ支援に対して懐疑的な共和党保守派を中心に同法案採決に否定的な声が上がっていたことから、代替策が模索されていた。

下院で取られた手法は、内容面で一部修正(注1)を加えているものの、2月の上院案とほぼ同規模、同内容の支援を前提に、ウクライナ支援法案(H.R.8035:608億4,000万ドル)、人道支援を含むイスラエル支援法案(H.R.8034:260億ドル)、台湾などインド太平洋支援法案(H.R.8036:81億2,000万ドル)の3つの法案に分割するとともに、ロシアの凍結資産の活用や、TikTok規制(2024年4月25日記事参照)、イラン関連制裁など共和党保守派の主張に配慮した事項をまとめた「21世紀平和強化法案」(H.R.8038)を別途立て、この4つを個々に採決して可決後に再度1つの法案として統合するというもの。

この手法の下、下院で4月20日に採決が行われ、ウクライナ支援は賛成311、反対112(うち共和党保守派40、共和党中道派72)、イスラエル支援は賛成366、反対58(うち共和党保守派18、共和党中道派3、民主党中道派4、民主党進歩派33)、台湾などの支援は賛成385、反対34(うち共和党保守派26、共和党中道派8)、21世紀平和強化法案は賛成360、反対58(うち共和党保守派21、共和党中道派4、民主党中道派3、民主党進歩派30)でいずれも可決された(注2)。ウクライナ支援法案に関しては共和党保守派が、イスラエル支援法案に関しては民主党進歩派がそれぞれ中心となって反対票を投じたものの、支援対象を切り分けることで反対票を拡散させ、成立にこぎつけたかたちだ。

下院が可決した同法案は上院に送付され、4月23日に賛成79、反対18で可決された後、翌24日にバイデン大統領が署名した。ウクライナ支援については、バイデン大統領が「今週からウクライナへの武器や装備の支援を開始できるようにする」と述べており、早期に着手される見込み。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、米国からウクライナに対して行われた財政的・軍事的支援は累計で750億ドル程度とされる(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版2023年12月12日)。今回の支援法案に盛り込まれた金額はこれに迫る大きさであることから、11月の大統領選までの間はウクライナ支援を巡る財政面での駆け引きは収束する可能性が高そうだ。

他方、同法案に盛り込まれたTikTokの売却やロシアの凍結資産の活用については、依然として実施に課題が残っており、これらがどのように扱われていくのかは引き続き注目だ。同法案の議論の過程で争点となっていた国境警備対策の強化や自由貿易協定(FTA)非締結国向けの液化天然ガス(LNG)輸出認可の一時停止措置(2024年1月30日記事参照)の撤廃などについては今回盛り込まれておらず、大統領選に向けた論点として持ち越されることになりそうだ。

(注1)例えば、ウクライナ支援法案では、大統領に対して、米国がウクライナに提供した経済支援や関連費用に関し、ウクライナによる返済に関する取り決めを締結するよう求める条項や、当該債務の帳消しに係る規定などが盛り込まれている。

(注2)反対票の内訳は「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版(4月20日)の分析に基づく。

(加藤翔一)

(米国、ウクライナ、ロシア、イスラエル、台湾)

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