イタリア元首相、EU単一市場の統合深化を目指す提言発表

(EU)

ブリュッセル発

2024年04月25日

イタリアのエンリコ・レッタ元首相は4月17日、EUの単一市場の将来や長期的な競争力強化に関する提言をまとめた報告書を公表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州理事会(EU首脳会議)が2023年6月に、単一市場の将来に関する独立したハイレベル報告書の提出を求めていた。6月の欧州議会選挙後にはEU新体制で2028年以降の次期中期予算計画(MFF)が話し合われる予定で、報告書が議論の材料になるとみられる。

報告書はまず、米国や中国の企業との競争に打ち勝つために、EUの大企業の規模拡大を支援すべきとする。金融、エネルギー、電気通信分野の統合が進んでいないことから、統合を進めるべく、EUレベルの監督権限の強化を求めた。EUの競争力については、域内の競争環境を重視するあまりEU企業の合併は進まず、また、世界的な競争力を有するEU企業が育っておらず、単一市場は域外の巨大企業に圧倒されていると指摘。域外企業との競争を前提にしたEU競争法の運用が必要だとした。

資本市場同盟の実現とEU予算の大幅拡大を提言も、実現可能性は未知数

報告書は、脱炭素化やデジタル化といったEU目標にEU産業界を適応させるには、官民の大規模投資が必要だとする。民間投資については、金融分野の市場統合が不完全なため、域内の巨額の民間資金が米国に流出していると指摘。域内の民間資金を域内投資に結び付けるとともに、域外からも民間資金を呼び込むべく、資本市場同盟の議論をさらに推し進め、域内の金融サービスを完全に統合する「貯蓄・投資同盟」の実現を求めた。

公的支援に関しては、EUレベルの財政支援の拡大を提案する。EU予算による支援に対し、加盟国による国家補助の比重が高まっている現在の公共投資の在り方は、単一市場内の競争条件のゆがみを生むとして(2023年8月2日記事2023年12月15日付地域・分析レポート参照)、加盟国が国内資金の一部をEUレベルの投資資金に充てるメカニズムの創設が必要だとした。その上で、米国のインフレ削減法に対抗するために、27加盟国の個別の産業戦略の集合体ではなく、EUレベルの大規模な公共投資のためのEU産業戦略を策定すべきとした。

ただし、こうした提言の実現に向けた政治的なハードルは高い。資本市場同盟を巡る議論は10年以上進展していない(2024年4月23日記事参照)。また、今期MFF後半のEU予算についても、倹約派加盟国の反対によりわずかな増額にとどまった(2024年2月15日記事参照)。欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長は、EU加盟国の首脳の多くは報告書を支持したと述べたが、報告書の提言がどこまで実現するかは未知数だ。

(吉沼啓介)

(EU)

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