米国務省、サイバー・デジタル分野の戦略発表、外交的関与を拡大

(米国)

ニューヨーク発

2024年05月10日

米国国務省は5月6日、サイバー空間・デジタル国際政策戦略を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、「デジタルの連帯(digital solidarity)」のコンセプトの下、中国やロシアなどによるサイバー攻撃やデジタル技術固有の課題に対処しつつ、開発途上国に対する支援提供や国際規範の策定などを通じて、デジタル分野のグローバルな連携体制の構築を目指すとした。

具体的には、国際人権法などの国際的ルールに基づいたデジタル技術が普及することで、世界中の人々が自身の考えを自由に伝え合う開かれた社会に参加することができ、包摂的な経済成長を推進する未来につながるとのビジョンを提示し、その実現に向けて外交手段を適切に用いるなどの指針を定めた。一方で、中国、ロシア、北朝鮮、イランによるサイバー攻撃の脅威が高まっているほか、人工知能(AI)技術の急速な発展や普及によって個人の権利の侵害につながるなど、デジタル技術固有の脅威があるなどとして、課題認識も示した。

デジタル技術を通じて包摂的な経済成長を推進しつつ、その課題に対処するため、(1)安全なデジタルエコシステムを世界中で構築、(2)「権利を尊重する」デジタルガバナンスのアプローチをパートナー国と連携して推進、(3)サイバー攻撃の脅威にパートナー国と連携して対抗、(4)パートナー国のサイバー・デジタル分野の能力構築の支援など、米国の外交的関与を拡大する4つの行動分野を示した。

アントニー・ブリンケン国務長官は同日、カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたサイバーセキュリティー分野のイベントで同戦略について講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ブリンケン長官は、AIなどの次世代の基盤技術(注1)が世界をあらゆる側面で変えつつあることや、デジタル技術が現代生活のあらゆる側面に存在するなどデジタルと現実の区別がなくなりつつあること、次世代技術を構成するハードウエアからソフトウエアまであらゆる段階で米国が競争力を持つ必要があることを指摘した。これらの理由から、「技術革新は地政学的競争相手との競争の核心にある」「安全、安定、繁栄はもはやアナログ的な問題だけではない」と述べ、国家安全保障や外交面でのデジタル技術の重要性を強調した。

ブリンケン長官はまた、同戦略について「デジタル技術だけでなく、全ての重要な基盤技術に対するわれわれのアプローチに通じるものだ」と指摘した。実際に、半導体について、安全保障上の観点からCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づいて米国内の半導体産業の振興を図るほか、同法で規定する5億ドルの「国際技術安全保障・イノベーション(ITSI)基金」を通じて、メキシコ、コスタリカ、パナマ、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどのパートナー国と連携してシリコンのサプライチェーンの強靭(きょうじん)化に取り組んでいると説明した(注2)。「このような信頼できる技術エコシステムの考え方を未来の技術にも応用する必要がある」と述べ、デジタル分野の今後のアプローチを説明した。

なお、バイデン政権は2023年3月に公表した国家サイバーセキュリティー戦略の中で、柱の5つ目にパートナー国との国際連携強化を掲げている(2023年3月14日記事参照)。

(注1)講演では、マイクロエレクトロニクス、先進コンピューティングと量子技術、AI、バイオテクノロジーとバイオマニュファクチャリング、先進通信技術、クリーンエネルギー技術を列挙した。

(注2)商務省は3月にメキシコ政府とのITSI基金を通じた連携を発表している(2024年4月2日記事参照)。また、4月に開催された日米比首脳会談では、3カ国が半導体や重要鉱物のサプライチェーン強靭化で連携することなどで合意している(2024年4月15日記事参照)。

(葛西泰介)

(米国)

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