電力部門のバッテリー導入は前年比2倍以上に、IEA報告

(世界)

調査部国際経済課

2024年05月02日

国際エネルギー機関(IEA)は4月25日、「バッテリーと安全なエネルギー移行」に関する特別レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。輸送部門や電力部門など主要市場の見通しや投資動向、サプライチェーンなど、製造、使用、リサイクルに至るバッテリーのエコシステムの全体像をIEAが初めて包括的に分析したものとなる。

同レポートはまず、2023年の電力部門におけるバッテリー導入容量が前年比で2倍以上となる130%増と報告した。これは、世界全体で42ギガワット(GW)の増加となる。IEAによると、バッテリーは短時間(1~8時間)の蓄電により、電力需要のピークに合わせて供給を確保する電力事業者を支えるのに優れ、気候条件に左右されやすい太陽光・風力発電などの再生可能エネルギー普及の鍵を握る。国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍にすることが約200カ国で合意されている(2024年2月5日付地域・分析レポート参照)。これを含むネットゼロ実現への取り組みを軌道に乗せる上で、バッテリーが果たす役割の重要性をIEAは強調している。

バッテリー用途の大半を占める電気自動車(EV)向けの導入は、2023年に前年比40%増加した。2023年だけでEV(新車、乗用車のみ)約1,400万台に搭載されている。IEAが4月23日に発表した「世界EV見通し2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、中国がEV販売台数の60%近くを占める (2024年4月30日記事参照)。世界のバッテリー製造能力が過去3年で3倍に増加する中、中国は2023年時点で、約85%の製造シェアを有する。一方、発表済みの(バッテリー製造)投資計画の4割は、米国やEUなどの先進国に集中している。計画が実行されれば、欧州および北米地域がそれぞれ15%にシェアを伸ばし、国内のバッテリー需要を満たすのに十分な製造能力を持つ見通しだ。

また、バッテリーのコストは、15年足らずの間に、90%以上削減された。今後についても、化学・製造分野のイノベーションにより、2030年にはリチウムイオン電池のコストはさらにコストが40%(2023年比)削減され、同電池よりも安価なナトリウムイオン電池も市場投入されるという。IEAは、バッテリーの世界的普及には、一層のコスト削減が求められる、と分析している。

IEAは、エネルギー安全保障の観点から、バッテリー製造に加えて、バッテリーに使用される重要鉱物の採掘や加工を含めた、サプライチェーンの多元化の必要性を指摘する。主要国では、米国のインフレ削減法(IRA)(2024年4月2日記事参照)やEUのネットゼロ産業法案(2024年2月14日記事参照)、インドの生産連動型奨励策(PLI)(2024年2月7日記事参照)などの産業政策を通じた取り組みが進展している。

(板谷幸歩)

(世界)

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