米上院議員、自動車サプライチェーン調査報告書を公表、人権リスク懸念

(米国、中国)

ニューヨーク発

2024年05月22日

米国連邦議会上院の財政委員会のロン・ワイデン委員長(民主党、オレゴン州)は5月20日、自動車サプライチェーンと中国での強制労働との関係に関する報告書を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

ワイデン委員長は2022年12月以降、米国で事業展開する大手自動車メーカー(OEM)や、そのティア1サプライヤーの自動車部品メーカーに質問状を送付するなどして、中国の新疆ウイグル自治区などで強制労働を利用して製造された自動車部品が米国に輸入されていないか調査を行っていた(2022年12月26日記事2023年3月30日記事参照)。今回公表された報告書は、同調査の一環に位置付けられる。米国では、強制労働を利用して製造された物品の輸入を禁止する1930年関税法307条や、新疆ウイグル自治区で生産された物品または特定企業が製造に関与した物品は強制労働を利用して製造されていると推定し、その輸入を禁止するウイグル強制労働防止法(UFLPA)が施行されている。ただし、今回の報告書には、UFLPAに基づいて自動車分野で輸入を差し止めるなどの法的な強制力はない。

報告書では、大手自動車OEMのBMW、フォルクスワーゲン(VW)、ジャガー・ランドローバーの3社が、2023年12月に「UFLPAエンティティー・リスト」に指定された中国の四川経緯達科技(JWD、2023年12月12日記事参照)が製造した部品を間接的に調達し、強制労働を利用して製造されたと推定される部品や、それら部品を含む車両を米国に輸入していたと結論付けた。3社は既にUFLPAの執行を担う米国税関・国境警備局(CBP)に自主的に情報開示を行ったが(注1)、報告書はJWDがUFLPAエンティティー・リストに指定されるまで3社が対処できていなかった点を問題視している。また、報告書では、3社を含む自動車OEMの多くは、人権デューディリジェンスでサプライヤーに対するアンケートや、サプライヤーからの自主的な通報、サプライヤーの限定的な監査などに圧倒的に依存しているとし、これらの取り組みでは中国のサプライチェーンでの強制労働の実態把握には不十分だと問題視した。米国当局側の対応についても、UFLPAエンティティー・リストへの追加指定が時機を逸しており、十分に有効なものではないと指摘した。

報告書では、これら問題を踏まえて、CBPを所管する国土安全保障省(DHS)に対して、UFLPAの執行強化と透明性確保の必要性を強調している。具体的には、(1)UFLPAエンティティー・リストへの企業の追加指定の取り組み強化、(2)UFLPAで優先的に執行を行う分野(注2)の追加指定、(3)より詳細なUFLPAの執行データの公開、(4)輸入者が自主的に情報開示する手続きなどに関して「輸入者向けの運用ガイダンス」(注3)も適時更新などを勧告している。

(注1)英国「フィナンシャル・タイムズ」紙は2024年2月、VWグループの自動車がUFLPAに基づいて米国への輸入を差し止められたと報道した(2024年2月16日記事参照)。米国法律事務所ケリー・ドライ・アンド・ウォーレンのパートナーのジョン・フート氏は自身のオンライン記事で、VWは米国への輸入に先立ってCBPに自主的に情報開示を行い、CBPと協力の上で保税地域内に隔離し、問題の部品を交換する措置を講じたとしている。

(注2)DHSは2022年6月に公表したUFLPA執行戦略で、強制労働の懸念が大きい優先執行分野にアパレル、綿、ポリシリコン、トマトの4分野を示している。また、DHSは2023年8月に同戦略を更新し、NGOなどが特定した強制労働が潜在的に懸念される分野として自動車部品やバッテリーなどの8分野を示している(2024年1月11日付地域・分析レポート参照)。

(注3)ジェトロはUFLPA執行戦略、輸入者向けの運用ガイダンス、適法性審査に関する追加ガイダンスなどの日本語訳を特集ページ「ウイグル強制労働防止法」で公開している。

(葛西泰介)

(米国、中国)

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