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トルコへの食品輸出 実務上の課題と注意点〔後編〕 -厳しい遺伝子組み換え食品規制-

(トルコ)

イスタンブール事務所発

2019年02月11日

前編に引き続き、昨今のトラブル事例を基に日本企業が直面する代表的な手続き上の課題を紹介する。本稿では、日本企業とのビジネスにおいていま最も大きな課題といえる遺伝子組み換え食品に関する規制を取り上げる。

厳しい遺伝子組み換え食品への規制

トルコへの食品輸出に当たり、いま最も対応が困難な課題は遺伝子組み換え食品規制への対応である。トルコ政府は、食品に対する遺伝子組み換え作物(GMO)の使用を認めていない。GMOの流通や表示に関する何らかの規則を持つ国は多く、トルコが加盟交渉を進めるEUでも管理や表示義務があることから、規則があること自体は特殊ではない。しかし、トルコではその規制が特に厳しいといえる。実際、GMO検出を理由に市場から消えたとされる食品の事例があり、2015年頃に市場から消えた韓国産インスタント麺や、昨今、日本食レストランで不足しているカレールーがその例といわれている。

表1:輸入過程でGMO検査の対象となる商品および検査頻度
No 商品名 リスク国(原産地) (検査頻度100%) リスク国以外の
検査頻度
1 トウモロコシおよび
トウモロコシ製品
米国、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、中国、コロンビア、
エジプト、EU(28カ国)、ホンジュラス、インドネシア、日本、マレーシア、メキシコ、
ニュージーランド、パナマ、パラグアイ、フィリピン、ロシア、南アフリカ、韓国、
スイス、台湾、タイ、ウルグアイ、ウクライナ、キューバ
20%
2 大豆および
大豆製品
米国、アルゼンチン、オーストラリア、ボリビア、ブラジル、カナダ、チリ、
コロンビア、コスタリカ、EU(28カ国)、インドネシア、日本、マレーシア、メキシコ、
ニュージーランド、パラグアイ、フィリピン、ロシア、南アフリカ、韓国、スイス、台湾、タイ、
ウルグアイ、ウクライナ、インド
20%
大豆ミール、
大豆レシチン、
大豆タンパク
産地を問わず検査率100%
3 菜種または
菜種製品
米国、オーストラリア、カナダ、チリ、中国、EU(28カ国)、日本、メキシコ、
ニュージーランド、フィリピン、南アフリカ、韓国、ウクライナ、ロシア
20%
4 綿製品 米国、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、ブルキナファソ、カナダ、チリ、
コロンビア、コスタリカ、EU(28カ国)、インド、日本、メキシコ、ミャンマー、
ニュージーランド、パキスタン、パラグアイ、フィリピン、南アフリカ、
韓国、スーダン
20%
5 パパイヤおよび
パパイヤ製品
米国、カナダ、中国、日本、タイ、ベトナム、台湾 20%
6 コメおよび
コメ製品
米国、オーストラリア、カナダ、中国、コロンビア、イラン、日本、メキシコ、
ニュージーランド、フィリピン、ロシア、南アフリカ、パキスタン、香港、
インド、EU(28カ国)、ベトナム、タイ、台湾、スイス
10%
7 小麦および
小麦ふすま
米国、オーストラリア、コロンビア、ニュージーランド 0%
8 トマおよび
トマト製品
米国、カナダ、チリ、メキシコ 10%
9 サトウキビおよび
サトウキビ製品
米国、オーストラリア、カナダ、チリ、コロンビア、EU(28カ国)、日本、メキシコ、
ニュージーランド、フィリピン、ロシア、韓国
10%
10 ジャガイモおよび
ジャガイモ製品
米国、オーストラリア、カナダ、EU(28カ国)、日本、メキシコ、ニュージーランド
、ロシア、フィリピン、韓国
10%

(出所)本文末尾の(注4)に同じ

食品における「遺伝子組み換え食品」の使用は不可

トルコの遺伝子組み換え食品に関する規則によると、トルコ政府が認可したGMOについては使用および輸入が認められている(注1)。しかし実際に認可されたGMOを確認すると、飼料用途では存在するが、食品用途で認可されているGMOがない(注2)。そのためトルコへのGMOを含む食品の輸入は実質的に禁止されているとみてよい。具体的には、トルコへの食品輸入時に作物および原産地に応じてGMO検査(注3)が実施され、その結果、「GMO検出」となった場合にはその数値に関わらず「輸入不可」となる。日本はほとんどの作物についてリスク国とされており、大豆、トウモロコシ等の作物、あるいはこれらに由来する食品を使用している場合には、輸入時に毎回検査が実施される(注4)(表1)。通関においては、あくまでトルコ到着後の検査結果のみが有効であり、外国検査機関の検査データは商談時の参考にしかならない。 

「意図せざる混入」も不可

一般にGMOについては、原料段階や輸送、製造等の流通過程で、偶発的あるいは技術的に避けられないGMOの「意図せざる混入」が発生し得るとされている。そのため、EUや日本では遺伝子組み換え作物不使用(Non GMO)の表示に当たっては一定の許容値が認められている(ただし、認可されたGMOに限る)。混入率の許容値はEUでは0.9%未満、日本では同5%以下と定められており、これらの範囲内では条件を満たせば「意図せざる混入」と扱われ、Non GMOを表示することができる。

トルコの規則はEU準拠であり、「意図せざる混入」の許容値はEU同様、混入率0.9%未満とされている。しかし、そもそも食品に関して認可されたGMOが存在しないため、この「意図せざる混入」は実質的に適用されず、微量のGMO検出すら許されないことになる(注5)。そのため、GMOの観点では「検出」「不検出」の2択のみで輸入の可否が判断されている。

トルコの政府系検査機関のGMO検査責任者は「他国と比べても、食品については厳しい基準を採用し、厳密に検査を実施している」とし、また、大手輸入業者は商談時に「食品に関するGMO検出の基準値は0.01%と考えてほしい」と説明している(注6)。なお、輸入時のGMO検査でGMOが検出された場合、商品は輸入不可となって廃棄または返送扱いとなることから、その損害は非常に大きい。

輸入者はGMO不検出の保証を要求

このような厳しいGMO規制を背景に、多くのトルコ側輸入業者は各国の輸出者または製造業者に対して、「GMOの不使用・不検出」を保証するよう求める。さらに、輸入時の検査でGMO検出となった場合の廃棄・返送費用は輸出側負担とすることをビジネスの条件とする場合が多い。

これに対し、日本企業のNon GMO対応食品は、GMO不使用を前提に製造や物流が管理されているものの、多くの場合はEUや日本の基準を前提としている。そのため「意図せざる混入」により微量のGMOが検出され、トルコには輸入ができない可能性がある。また、高度な加工や発酵処理がされた食品の場合には、製造の過程で遺伝子組み換えDNAが分解されることから、仮に商品に微量の「意図せざる混入」があったとしてもGMO検出は難しく、輸入実務上は問題とならない可能性もある。しかしGMO不使用・不検出を保証するとなると、日本企業はためらわざるを得ない。 

検討可能な対応策

このような状況を踏まえ、現状では日本企業が取り得る対策は限られている。ビジネスを考えると現実的でないものも含まれるが、過去の商談で実際に検討された対策案としては表2のようなものがある。ただし、これらの対策のすべてを講じたとしても、GMOを完璧に分別することは現実的に難しい。トルコ市場の開拓に取り組もうとする日本企業は、このような対策にかかるコストや手間と、あり得るGMO検出リスク、およびビジネスとしての期待度等を総合的に勘案し、ビジネス判断しているのが実態である。

GMOについて頭を悩ませているのは日本企業だけではない。過去には欧州の世界的大手食品メーカーの検査担当者もトルコの政府系検査機関を訪れて、遺伝子組み換え食品検査についてヒアリングを行ったようである。筆者が同検査機関を訪れた際には、英国企業の大豆製品が事前検査のために大量に運び込まれていた。トルコのける「遺伝子組み換え食品規制」はトルコ市場を開拓するに当たり世界各国企業が対応に苦労している共通課題といえよう。

表2:過去にみられたGMO規制への対策例
ポイント 対策
1 商品選定
段階
原材料や製造工程が複雑になればなるほどリスク管理が難しいことから、
原材料の少ないシンプルな商品に絞って商談を行う。
2 原料・
製造段階
GMO混入リスクのなるべく少ない産地からNon GMO原料を仕入れ、
GMOを含む可能性がある食品とは製造ラインを分けることで
「意図せざる混入」リスクを下げる
(例えば、国産原料のみを使用し、輸入原料を使わない工場で製造する。
米国産原料は使用しない等)。
3 出荷前
(日本側)
原料の仕入れ後や商品製造後等に日本で遺伝子組み換え食品の検査を実施し、
可能な限り「意図せざる混入」の有無を事前に把握する。
4 出荷前
(トルコ側)
輸入業者と協議の上、出荷予定商品を製造ロットごとに事前送付し、
トルコ側の検査機関で自主検査する。
5 その他 輸入業者とのリスク分担に関する協議や、万が一の事態に備えた
保険付保を模索する。

(出所)ジェトロとりまとめ

果敢に参入し、市場を奪うアジア企業

「前編」「後編」の2回にわたり日本企業がトルコへの食品輸出を目指す際に直面する課題を紹介した。もちろん、紹介した点に加えEU規則に準拠する汚染物質、添加物、残留農薬等の規制も考慮する必要がある。また、価格への強いこだわり、代金回収リスク、さらにはトルコの消費者が食に対して保守的であるということも忘れてはならない。

しかし、世界における日本食ブームがトルコに到来する兆しがあり、トルコを「人口8,000万人の未開拓市場」と捉えると、市場ポテンシャルはある。トルコの輸入業者は「日本勢がためらっている間に、残念ながら品質が高いとはいえない他国産の日本食品が市場の需要を満たしている。このままだとトルコ人はこの品質・価格が当たり前だと思ってしまう」と現状を危惧する。アジア各国の企業は、トルコ市場が未開拓のいまを商機と考え、「衛生証明書」や「Non GMO保証」に対応し、積極的に売り込みを仕掛けている。豊富とはいえないが、高級スーパーマーケットに行くと中国企業の麺類やわさび、香港企業の各種調味料が棚に並ぶ。韓国企業はトルコとのFTAによる関税メリットを生かして参入を図っている。

「前編」「後編」を通じて本リポートで紹介したとおり、トルコとのビジネスには短期的には実務上の課題が多く、難易度の高い市場といわざるを得ない。しかし、東日本大震災の影響による放射性物質全ロット検査は2018年に撤廃され、今後は日本・トルコEPA交渉も加速すると予想されており、ビジネス環境の改善が期待できる。この機を逃さすことなくトルコの市場性を中長期的な視点で検討しておく価値は十分にあるだろう。検討に当たっては、欧州や中東への出張機会を利用し、まずはトルコに立ち寄ってみてほしい。市場規模や経済水準に対して日本食ビジネスが非常に少なく、まだまだ先行者として市場開拓する余地があることをお分かりいただけるだろう。

最後に、本リポートは、多くの日本企業の皆様と共にトルコ向け輸出に向けて取り組んだ中で得られた現場の情報に基づいて執筆した。この場を借りて、関係各位に御礼を申し上げる。

  • (注1)根拠条文は次のとおり(規則等のタイトルの日本語訳はジェトロ仮訳。法規制などの原文はすべてトルコ語。注4についても同じ)。「遺伝子組み換え作物および遺伝子組み換え食品に関する規則」 原文はGENETİK YAPISI DEĞİŞTİRİLMİŞ ORGANİZMALAR VE ÜRÜNLERİNE DAİR YÖNETMELİK(2010年8月13日付官報27671号)
    https://www.mevzuat.gov.tr/Metin.Aspx?MevzuatKod=7.5.14203&MevzuatIliski=0&sourceXmlSearch=genetik%20yap外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
  • (注2)バイオセーフティー委員会ウェブサイト(トルコ語)。公表されている認可されたGMOは飼料用途のみ。
    http://www.tbbdm.gov.tr/OnayliGDO2.aspx外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
  • (注3)ISOやEU等の国際的な規格に従ってGMO検査が実施される。
  • (注4)バイオセーフティー規則の適用に関する実施指示(仮訳)。原文はBİYOGÜVENLİK MEVZUATI UYGULAMA TALİMATI(トルコ語。2016年6月17日付)
  • (注5)EUに関する遺伝子組み換え食品規制については次のリポート参照。
    https://www.jetro.go.jp/world/reports/2016/02/35fb3fc599809788.html
  • (注6)いずれもジェトロのヒアリングによる。 

(中村 誠)

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(トルコ)

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Tel:03-3582-5186
E-mail:afa-research@jetro.go.jp