インドの開発力活用で世界水準のイノベーション目指せ -IoT分野における「インド×日本」投資促進セミナー開催-

2016年6月

ジェトロは2016年6月15日、IoT分野におけるインドのR&D能力を取り込み、対印・対日投資促進を図るためのセミナーを、ジェトロ東京本部内で開催しました。「日印・IoT投資イニシアティブ『インド×日本』が創るイノベーション」と題した本セミナーは、2015年12月に日印両国政府が合意したIoT分野における協力の一環として、日本企業のインド進出を支援するとともに、在日インド企業のマッチング機会創出を目的として、インドで16年2月に開催した「対日投資セミナー」に引き続き開催したものです。本セミナーには、インドへの投資やIT/IoT分野における日印協業に関心のある日本企業から164名、在日インドIT関連企業から68名の計232名が参加しました。

セミナー講演者には、NASSCOM(インド全国ソフトウェア・サービス企業協会)日本委員会委員長の武鑓行雄(たけやり・ゆきお)氏をはじめ、インドにおける開発実績やインド企業との協議経験がある日本企業3社(株式会社日立製作所、株式会社NTTデータ、株式会社JALインフォテック)からの代表が、インドにおけるIT産業の現状、インドと連携した各社のビジネス事例などについて紹介しました。
 またパネルディスカッションでは、日本に拠点を置くインドIT関連企業4社(株式会社HCLジャパン、インフォシス・リミテッド、ミューシグマジャパン株式会社、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社)の代表がパネリストとして登壇、在日インド系外資系企業が提供するソリューションサービスの活用法、インド企業と協業する際に留意すべきビジネス文化の違い、などについて議論が展開されました。

セミナー冒頭の挨拶に立ったジェトロの前田茂樹理事は、わが国と中国との経済連携と比較した場合、日印の経済連携は未だ発展途上段階にあると指摘した上で、今後は日本企業もインド国内市場向けビジネスだけでなく、輸出主導型の製造業やICTを活用したサービス・イノベーションといった分野を含む、より多角的な分野へのインド向け投資が期待される、と述べました

インドITナレッジ活用の薦め

セミナー講演者として最初に登壇した武鑓氏は、インドではシリコンバレーと同時進行するほど先進的研究開発が行われており、インドから米国への「リバース・イノベーション」も生起していると述べ、インドIT産業の先進性を強調しました。また日本以外の先進国やアジアの企業がインドに開発拠点を構え、現地の優秀な若手エンジニアを大量に採用している一方、日本企業によるインド国内への開発拠点進出事例はまだ少なく、世界の流れに遅れているとも指摘しました。
インフォシスのスリラム氏は、インド企業に対してコスト削減を目的とする垂直分業の相手という意識をもつ傾向が強い日本企業は、インド企業を経営ツールとしての水平分業ないし先端技術の協業先とは見ていない、と述べました。航空宇宙分野ではグローバルトップ5社のうち4社、製薬では10社のうち8社がインフォシスの能力を活用していると述べ、日本企業は考えを改める必要がある、と呼びかけました。
ミューシグマの三谷氏は、ビッグデータの解析を通して欧米企業の意思決定を支援する優れたデータアナリストが、同社には3,500人いると述べ、今後は日本企業も、より上流の経営プロセスから協働する意識をもつ必要がある、とのメッセージを伝えました。

インドにおけるR&D拠点がもたらす可能性

インドにR&D拠点を設置する日本企業からは、インドを活用するメリットについての指摘がありました。日立製作所の岡本氏は、同社が拠点を置くベンガルールには、向上心が高く英語を話すIT人材が豊富にいると述べ、英語を媒体にしたシステム開発にはこうしたインドの人材活用が有益である、と述べました。
またNTTデータの杉山氏は、インドのリーダー達が、グローバル・プロジェクトに必要な強いリーダーシップ、柔軟なマネジメント、粘り強さなどの素質を兼ね備えていると述べた上で、世界的にはインドを単なるオフショアでなくテクニカル・センターの拠点として評価する傾向が強まっているとして、インドに拠点を持っていることが案件受注要因の一つになっている、と強調しました。

文化の違いを認識した上での協業が必要

インドと協業してシステム開発に取り組むJALインフォテックの宮下氏は、協業にあたって意識すべきポイントについて述べました。日本では設計仕様書の段階で細かくチェックする開発手法が取られているのに対し、インドでは詳細な仕様書よりもすぐに設計に着手し、テストしながら修正していく開発手法が取られていると述べ、日印両国企業関係者は、こうした両国のビジネス手法や文化の違いを認識した上で協業する必要があると強調しました。
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズの垣原氏は、インド企業の活用が上手い欧米企業に触れ、彼らは業務をインド企業に依頼する際も「何をしたいのか」という最終目的を明確にし、開発手法に関しても(インドと同様)、低コストの実証実験を頻繁に行って検証する手法を取っていると強調、日本企業もこうした手法を取り入れることを考えるべきだと呼びかけました。
HCLジャパンの中角氏は、欧米ならびにインドの企業が開発に着手するスピードの速さについて指摘し、プロジェクト着手段階からインド企業と意見交換すれば、日本企業も素早いイノベーションが可能になる、と述べました。

ネットワーキング・セクションでは、在日インドIT関連企業約20社が加わり、日本企業と積極的な情報交換を行いました。参加者からは、「インド企業とネットワークを築くきっかけとなった」「インドのIT企業の実力が想像以上に高いことを知った」「インド企業との協業の障壁を改善するヒントになった」などの声が聞かれました。


前田理事挨拶


在日インド企業らによるディスカッション


会場風景

開催日時 2016年6月15日(水曜)14時00分~18時00分
会場 ジェトロ本部 5階 展示場
主催 ジェトロ
共催 NASSCOM(全国ソフトウェア・サービス企業協会(インドにおける業界団体))
ICIJ - IT Forum(在日インド商工協会・IT 関連企業フォーラム)
来場者 232名(インドIT企業:68名、日本・その他国籍企業:164名)
プログラム概要
<第1部>インドと組む日本企業の最新ケーススタディ
主催者挨拶 ジェトロ 理事 前田茂樹
講演 NASSCOM 日本委員会 委員長  武鑓行雄氏
株式会社日立製作所 ICT事業統括本部 担当部長  岡本周之氏
株式会社NTTデータ グローバル事業本部ビジネス開発部 Global Delivery担当 部長  杉山恭子氏
株式会社JALインフォテック 旅行業界ソリューション事業部長 執行役員  宮下律江氏
<第2部>在日インド企業を活用したイノベーション
講演 ジェトロ・ベンガルール(旧:バンガロール)事務所  ディーパク・アナンド
パネルディスカッション NASSCOM 日本委員会 委員長  武鑓行雄氏
株式会社エイチシーエル・ジャパン リージョナルセールスディレクター  中角広氏
インフォシス・リミテッド 日本最高顧問/在日インド商工協会(ICIJ)理事  ベンカタラマン・スリラム氏
ミューシグマジャパン株式会社 日本代表  三谷宏幸氏
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社 取締役 副社長  垣原弘道氏
ジェトロ 対日投資部 外資系企業支援課長  中島丈雄
<第3部>ネットワーキング