ジェトロ 2021年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)

2022年01月13日

調査結果のポイント

在中東日系企業の営業利益回復が鮮明に ―湾岸諸国の脱炭素化に高い関心―
  1. 営業利益見通し/今後の事業展開
    • 2021年は黒字企業の割合がすべての国で増加して過去5年間で最も高い65.2%に。前年減の反動や新型コロナに起因する売上増により前年比改善を見込む企業が増加。今後の事業展開は、拡大が約4割で前年比7.0ポイント増となった。
  2. 中東の投資環境
    • 中東のビジネス環境について約5割が市場規模・成長性を評価。一方で、5割以上が突然の制度導入や変更、法制度の未整備・不透明性を課題と回答。イラン・イスラエル・トルコでは不安定な政治・社会情勢、UAEやイスラエルでは不動産賃料の高騰を挙げる声も多かった。
  3. 有望ビジネス分野
    • 有望分野は資源・エネルギーが最多で、再生可能エネルギーや水素、アンモニアなどの脱炭素関連が高い割合を占めた。今後の注目国については、サウジアラビアが1位、UAEが2位で、その理由を「脱炭素化」とする回答も多かった。

本調査について

  • ジェトロは2021年9月1~30日、中東10カ国に拠点を有する日系企業255社を対象にアンケート調査を実施。230社より有効回答(有効回答率90.2%)。
    (内訳:UAE106社、トルコ45社、サウジアラビア24社、イスラエル13社、カタール10社、イラン13社、ヨルダン10社、クウェート5社、バーレーン2社、オマーン2社)
  • 設問項目:
    1.営業利益見通し 2.今後の事業展開 3.中東の投資環境 4.有望ビジネス分野 5.イスラエル国交正常化の影響

調査の結果概要

1.営業利益見通し

  • 営業利益見込みは、新型コロナの影響を受け、前年は「黒字」が5割を下回り、「均衡」と「赤字」がそれぞれ3割弱だったが、2021年は「黒字」と回答した企業の割合が前年比20.1ポイント増の65.2%となった。同割合は、世界全体の62.6%を上回った。「赤字」企業も前年から11.9ポイントの減少で、14.3%となった。
  • すべての国で、「黒字」と回答した企業が増加。UAEは7割以上、トルコは6割以上、サウジアラビア・イスラエルは5割以上となった。特にサウジアラビア・カタール・クウェートの黒字企業は、前年比30ポイント以上の増加。

営業利益見込み推移

営業利益見込みの推移は、新型コロナの影響を受け、2020年は「黒字」が5割を下回り、「均衡」と「赤字」がそれぞれ3割弱だったが、2021年は「黒字」と回答した企業の割合が前年比20.1ポイント増の65.2%となった。同割合は、世界全体の62.6%を上回った。「赤字」企業も前年から11.9ポイントの減少で、14.3%となった。

2021年営業利益見込み

2021年の営業利益見込みは、すべての国で「黒字」と回答した企業が増加。UAEは7割以上、トルコは6割以上、サウジアラビア・イスラエルは5割以上となった。特にサウジアラビア、カタール、クウェートの黒字企業は、前年比30ポイント以上の増加となった。
  • 前年比でみると、2021年は「改善」(35.0%)が「悪化」(9.9%)を大きく上回った。2022年の見通しは、半数以上が「横ばい」を見込むも、「改善」を見込む企業の割合が40.7%に拡大し、「悪化」の割合もさらに減少する見通し。
  • 業績改善見込みの理由として、2021年・22年とも「現地での売上増」「輸出拡大による売上増」が上位となったが、その要因として、2021年は「前年の新型コロナによる売上減の反動」が過半を占めた。他方、悪化見込みの理由は、2022年は「調達コストの上昇」(50.0%)が「現地での売上減」(43.8%)を上回り、新型コロナ等がもたらした国際物流の混乱の影響が今年も続くとする回答が多い。
  • 新型コロナ前後となる2019年/21年比で比較すると、「横ばい」が約5割で最多。「改善」が34.7%、「悪化」が17.1%となった。

2.今後の事業展開

  • 今後の事業展開は、「現状維持」が前年比約4ポイント減も56.3%で最多。「拡大」は前年から7ポイント増の40.2%となった。
  • 国別では、トルコ・バーレーン・ヨルダンでは約5割の企業が「拡大」と回答。サウジアラビア・イスラエルが前年比で14ポイント台の減少を示す一方、UAEは約14ポイント増で41.5%と大きく増加した。
  • 事業拡大の理由は、7割以上の企業が「現地での売上増加」、4割以上が「輸出拡大による売上増加」と回答。ただし、「成長性・潜在力の高さ」(32.6%)は前年比では23ポイント減となった。拡大する機能は「販売機能」が7割超であった。

今後1~2年の事業展開

今後の事業展開は、「現状維持」が前年比約4ポイント減も56.3%で最多。「拡大」は前年から7ポイント増の40.2%となった。

3.中東の投資環境

  • 中東の投資環境の魅力としては、「市場規模、成長性」が50.4%で最多。「対日感情が良い」も44.3%で続くが、前年の回答率と比べると約9ポイント減少した。
  • 一方の課題は、「突然の制度導入や変更」が55.7%で最多。「法制度の未整備・不透明性」も53.9%で続く。また、「不動産賃料の高騰」が前年比で9.7ポイント増に。
  • 魅力を国別にみると、UAEでは「駐在員の生活環境」「フリーゾーン/経済特区などのメリット」など、多数挙げられた。サウジ・トルコ・イランでは「市場規模、成長性」が最多。
  • 課題を国別にみると、多くの国で法制度面が最多の回答となるなか、イラン・イスラエル・トルコでは「不安定な政治・社会情勢」が上位に挙がった。UAEやイスラエルでは「人件費の高騰」「不動産賃料の高騰」も上位。

投資環境の魅力(複数回答可)

中東の投資環境の魅力としては、「市場規模、成長性」が50.4%で最多。「対日感情が良い」も44.3%で続くが、前年の回答率と比べると約9ポイント減少した。

投資環境の課題(複数回答可)

中東の投資環境の課題としては、「突然の制度導入や変更」が55.7%で最多。「法制度の未整備・不透明性」も53.9%で続く。また、「不動産賃料の高騰」が前年比で9.7ポイント増の21.5%になった。

4.有望ビジネス分野

  • 全体では「資源・エネルギー」(53.0%)が最多。「インフラ」(42.3%)、「消費市場」(29.3%)と続くが、前年比でみると回答率は全般的に低下。
  • 国別に見ると、イスラエルでは75.0%の企業が「新産業」と回答。カタールは「資源・エネルギー」が突出、イランでは「資源・エネルギー」「インフラ」「消費市場」に高い期待。
  • 資源・エネルギーの内訳を見ると、「再生可能エネルギー」「水素」「燃料アンモニア」などの脱炭素関連を有望視。トルコ、UAE、サウジアラビアでは特に「再生可能エネルギー」への期待が最大となった。
  • インフラでは「電力」が最多だが、トルコでは「病院」、UAEでは「都市開発」、サウジでは「水」も高い期待を集める。
  • 消費市場では「食品」が最大の回答。サービス業では「医療・保健」が最多。新産業では「Eコマース」「電気自動車(EV)」が上位となったが、イスラエルでは「スタートアップ」が約9割、「サイバーセキュリティ」が約7割となった。
  • 今後の注目国は、サウジアラビア(59.4%)、UAE(50.5%)、イラン(40.1%)が上位に。特にサウジアラビアやUAEでは、注目するポイントとして「脱炭素化」を挙げる企業が目立った。

今後駐在国もしくは中東市場で有望視するビジネス分野(複数回答可)

有望視するビジネス分野を国別に見ると、イスラエルでは75.0%の企業が「新産業」と回答。カタールは「資源・エネルギー」が90.0%で突出、イランでは「資源・エネルギー」が90.9%、「インフラ」が81.8%、「消費市場」が81.8%と、期待が高い。

5.イスラエル国交正常化の影響

  • イスラエル国交正常化がビジネスに与える影響については、「影響なし」が58.1%で最多。「メリット」は23.6%にとどまったが、イスラエルでは69.2%の企業が「メリット」と回答し、UAEでの28.3%を大きく上回るなど、特にイスラエル側での期待値が高い結果となった。メリットの理由は「ビジネス機会の拡大」が約7割で最多。

ジェトロ海外調査部(担当:米倉、佐藤)
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