知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)尹錫悦新政権の知的財産政策は?

2022年06月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.165)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

2022年5月10日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が就任し、新政権が発足しました。今回は、新政権の発足により、今後韓国の知的財産政策がどうなるのか、占ってみたいと思います。

1.大統領選挙の争点

2022年3月9日投開票の大統領選挙に当たり、尹錫悦候補(当時)の公約は、以下のようなものでした。

  1. コロナ克服のための緊急救助およびポストコロナプランの準備
  2. 持続可能な良質な雇用の創出
  3. 需要に合致する住宅250万戸以上を供給
  4. デジタル・プラットフォーム政府の実現と大統領室の改革
  5. 科学技術の追従国から源泉技術を先導する国へ
  6. 出産準備から産後ケア、育児まで国の責任強化
  7. 国民が共感する公正社会の実現
  8. 堂々とした外交、堅固な安保
  9. 実現可能な炭素中立と原発強国の実現
  10. 公正な教育と未来の人材育成、誰もが享受する文化・福祉
    (出典:大統領公約書の「尹錫悦の10大ビジョン」)

韓国では、新型コロナウイルスによる社会経済への影響、高い若年失業率、特に首都圏における住宅事情の悪化等、日々の暮らしに直結する問題が顕在化しており、大統領選公約でも生活に身近な内容が意識されました。
その影響か、知的財産政策が大統領選の争点となることはなく、国民の力「第20代大統領選挙政策公約集」(全174ページ)にも、知的財産政策に関する言及はありませんでした。

2.尹錫悦政府の110大国政課題

尹錫悦新大統領の当選後、大統領職引き継ぎ委員会が発足、全政策領域の施策が精査され、2022年5月3日、その成果物として、「尹錫悦政府の110大国政課題」が発表されました。全186ページにわたる文書の内容を確認したところ、知的財産に関する言及はタイトルと本文とを合わせ3行だけありました。

課題22:需要者向け産業技術R&Dイノベーションおよび知的財産保護の強化(産業通商資源部)
「秘密特許制度の導入、技術奪取防止など海外知的財産紛争支援の強化とAI・ビッグデータ技術を活用した特許行政イノベーションを推進」

韓国では、既に秘密特許制度が導入されているため(韓国特許法第41条)、「秘密特許制度の導入」の意図するところは不明ですが、それ以外の項目については、これまでの施策の延長線上といえます。

3.まとめ

公開情報で見る限り、新政権の知的財産政策に関する変更点はほとんどなく、新政権は従来の政策を踏襲するものと考えられます。
折しも、2021年12月末には、「第3次知識財産基本計画(2022-2026)」、「第1次不正競争防止及び営業秘密保護基本計画(2022~2026)」という、知的財産政策上重要な2本の5カ年計画が策定されたばかりであり、当面の知的財産政策はこれらにのっとって推進されるものと思われます。
一方、新政権の発足により、2024年までの約2年間にわたって政権と国会の「ねじれ」状態が続くことになり、この影響で知的財産関連法案に限らず、法案審議に時間がかかる可能性は考えられます。


ご紹介した2本の5カ年計画については、弊所ウェブサイトにて和訳を提供しておりますので、ご興味のある方はご覧ください。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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