知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国特許庁に初の女性庁長が就任

2022年07月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.166)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

2022年5月31日、韓国特許庁に第28代目となる新庁長が就任しました。初の女性、かつ、初の民間出身の庁長です。新庁長はどのような人物なのでしょうか。また、今後の知的財産政策にどのような影響があるのでしょうか。

1.尹錫悦政権はソ・オ・ナム人事?

韓国行政府は18部5処18庁からなっており、その長である長官や庁長は、大統領の就任とともに交代するのが常となっています。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は実力主義を掲げ、主要ポストの人事を発表しましたが、ソウル大学出身の50代の男性(ソ・オ・ナム)ばかりという批判がありました。
この批判を受けてか、尹錫悦大統領は、参謀に、残る部処の長官・次官を任命する際は女性を優先的に考慮し、候補がいなければ男性を起用するよう指示したと報じられており、2022年5月26日には、社会副首相兼教育部長官、保健福祉部長官、食品医薬品安全処長(次官級)の3ポストには、いずれも女性が指名され、そして少し遅れて同年5月29日、新しい韓国特許庁庁長として、李仁實(イ・インシル)新庁長が内定したと大統領室から発表がありました。
韓国特許庁第28代目となる新庁長の就任は、内定の発表から2日後の2022年5月31日、第27代までの庁長はいずれも官僚出身の男性でしたので、女性が就任するのも、民間出身者が就任するのも初めてという異例の人事となりました。

2.新庁長の経歴

李仁實新庁長は、釜山大学フランス語フランス文学科を卒業後、ストラスブール大学国際知的財産権研究センター(CEIPI)、梨花女子大学校大学院法学科、ワシントン大学法学修士課程で学び、高麗大学大学院で法学博士を取得しており、弁理士としては、1985年に弁理士試験に合格し、当時、釜山大学出身の初めての弁理士、韓国で3人目の女性弁理士であり、以来知的財産の専門家として、長く活躍しています。
また、韓国女性弁理士会会長、国家知識財産委員会委員、専門職女性(BPW)韓国連盟会長、大統領直属の規制改革委員会民間委員、大韓弁理士会副会長、(社)韓国女性発明協会会長等、公職も含めてさまざまな役職を歴任しています。
今回の新庁長への就任は、弁理士としての長年のキャリアと、公職も含めた多くの経験が高く評価されたものと考えられます。

3.今後の知的財産政策への影響

以前の本欄で、「尹錫悦政府の110大国政課題」での知的財産施策に関する言及が少ないこと、2021 年12月末に、「第3次知識財産基本計画(2022-2026)」、「第1次不正競争防止および営業秘密保護基本計画(2022~2026)」という、知的財産政策上重要な2本の5カ年計画が策定されたばかりであることから、新政権は従来の政策を踏襲するのではないかと予想しました。
上記の基本計画中で既に認識されている課題だけでも、知的財産行政には、デジタルトランスフォーメーション時代への対応、中小・スタートアップ企業の支援、知的財産侵害への対応強化、営業秘密の保護強化、知的財産専門人材の育成、知的財産分野の国際協力、など、多くの課題があります。
まだ、新庁長が就任したばかりですので、その手腕はこれから明らかになるところですが、知的財産行政の課題に果敢に取り組まれ、新しい風が吹くことに期待したいと思います。


ご紹介した2本の5カ年計画については、弊所ウェブサイトにて和訳を提供しておりますので、ご興味のある方はご覧ください。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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