ルーマニアの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年の実質GDP成長率は4.7%、前年から減速も高水準を維持。
  • 輸出額は前年比23.1%増、輸入額は28.1%増で、貿易赤字は過去最高額。
  • 対内直接投資は前年比2割増。自動車、再生可能エネルギーの案件が目立つ。
  • 対日貿易は加熱式たばこの輸出が大幅増、貿易黒字を拡大。
  • 日系企業の投資は、ソフトウエア、インフラ、電子部品製造などを展開。

公開日:2023年10月26日

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マクロ経済 
民間消費と公共投資が成長をけん引

2022年の実質GDP成長率は4.7%と、前年の5.8%から鈍化したものの高い水準を維持した。GDPを需要項目別にみると、最終消費支出と国内総固定資本形成がプラス成長に大きく貢献した。最終消費支出では、民間最終消費支出が5.3%増と好調だったが、これは法定最低賃金引き上げによる所得増に伴う消費拡大に支えられた。国内総固定資本形成も、公共投資の拡大で8.0%増と成長に寄与した。財貨・サービスの輸出は9.6%増、同輸入は9.9%増となった。

GDPを産業別にみると、最も寄与度が高かったのが情報通信で20.0%増と高い伸びを示した。背景には、豊富な技術者を活用したITベンダーによるオフショア開発の活発化がある。サービス業も13.1%増と好調だった。農林水産業は、深刻な干ばつの影響で主要作物であるトウモロコシなどの生産量が大幅に減少し、11.6%減と押し下げ要因となった。

一方、2022年の企業倒産は前年比8.2%増の6,649社となり、失業率も5.6%と前年から横ばいで、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年(3.9%)の水準には戻っていない。消費者物価上昇率は13.8%と急上昇した。ロシアのウクライナ侵攻による世界的なエネルギー価格上昇を受けインフレ傾向が強まり、中でも砂糖、バター、食用油、マーガリンなど必需品の値上げが続いた。ルーマニア政府は2022年9月、エネルギー価格高騰から国民生活や経済活動を守るため、政府緊急指令で2022年4月~2023年3月末までを対象としていた光熱費補助を2023年8月末まで継続すると決定した。

同政府は、2023年の実質GDP成長率を2.8%と見込んでいる。

表1 ルーマニアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 5.8 4.7 1.6 0.7 1.0 1.0 0.1
階層レベル2の項目民間最終消費支出 7.5 5.3 1.5 0.3 1.4 3.5 0.8
階層レベル2の項目政府最終消費支出 0.0 4.8 1.2 △ 1.5 2.2 3.8 △ 0.4
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 1.9 8.0 6.3 4.0 3.4 △ 0.5 2.1
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 12.6 9.6 2.5 1.0 6.5 △ 5.2 △ 2.6
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 14.9 9.9 4.5 △ 0.3 11.7 △ 9.4 0.5

〔注〕四半期の伸び率は前期比。季節調整済み。
〔出所〕ルーマニア国家統計局

貿易 
燃料価格高騰で輸出入ともに鉱物性製品が大幅増

2022年の貿易は、輸出が前年比23.1%増の919億5,300万ユーロ、輸入が28.1%増の1,260億5,400万ユーロとなり、ともに前年の水準を大幅に上回った。貿易赤字は341億100万ユーロとなり、過去最高額となった。

輸出を品目別にみると、ほぼ全ての品目で前年から増加した。最大の輸出品目である機械・電気機器(構成比26.3%)は前年比12.2%増となった。その内訳は、電気機器および部品(16.4%)が14.8%増、原子炉・ボイラー・機械類(9.8%)が8.0%増だった。次に輸出額が大きい輸送用機器(15.6%)は18.1%増で、うち乗用車(6.4%)が23.6%増と好調だった。その他、世界的な燃料価格の高騰を受け、鉱物性製品(8.0%)が2.6倍に増大し輸出額全体を押し上げた。

輸出を国・地域別にみると、全体の7割強を占めるEU(構成比72.3%)は前年比22.8%増で、主要各国いずれも2桁台の伸びを示した。最大の輸出先であるドイツ(19.8%)は19.0%増、次いでイタリア(10.1%)は18.4%増だった。中・東欧各国向けの輸出も拡大し、中でもハンガリー(7.4%)が60.0%増と大幅に増加したほか、ポーランド(3.8%)が17.6%増、ブルガリア(3.9%)が22.1%増、チェコ(2.9%)が13.7%増と続いた。EU域外では、最大の輸出先であるトルコ(3.1%)は7.5%増にとどまったが、米国(2.5%)が45.3%増、モルドバ(2.5%)が74.1%増、ウクライナ(1.7%)が2.2倍と好調だった。一方、中国(1.2%)は4.5%減、ロシア(0.4%)は60.5%減となった。

輸入を品目別にみると、最大の輸入品目である機械・電気機器(構成比24.3%)は、電気機器および部品(14.3%)の前年比24.5%増にけん引され、全体で18.7%増となった。次に輸入額が大きい輸送用機器(8.7%)は23.0%増だった。内訳は自動車・トラクター部品(3.5%)と乗用車(2.6%)がそれぞれ26.6%増、24.0%増となった。また、鉱物性製品(12.7%)が95.8%増と前年のほぼ倍となり、輸入額全体の伸びに寄与した。

輸入を国・地域別にみると、全体の7割強を占めるEU(構成比70.9%)が前年比25.4%増だった。最大の輸入元であるドイツ(17.8%)が14.4%増、続くイタリア(8.2%)が17.1%増となった。またブルガリア(7.0%)が2.2倍と大きく伸びた。EU域外では、最大の輸入元である中国(5.9%)が18.9%増、次ぐトルコ(4.8%)が37.0%増と好調だったほか、カザフスタン(2.6%)が2.2倍に拡大した。

2023年上半期(1~6月)の貿易は、輸出が前年同期比5.9%増の474億2,590万ユーロ、輸入が0.8%増の607億4,950万ユーロとなった。貿易赤字は133億2,360万ユーロで、前年同期から21億4,900万ユーロ縮小した。品目別では、輸出入ともに最大品目は機械・電気機器で、輸出が12.8%増、輸入が11.6%増だった。ロシアのウクライナ侵攻に伴う価格高騰で前年同期に急増した鉱物性燃料および鉱物油は、輸出が0.1%増でほぼ横ばい、輸入は24.0%減となった。

表2 ルーマニアの主要品目別輸出入(単位:100万ユーロ、%)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・電気機器 21,520 24,138 26.3 12.2 25,858 30,682 24.3 18.7
階層レベル2の項目電気機器および部品 13,170 15,122 16.4 14.8 14,478 18,026 14.3 24.5
階層レベル2の項目原子炉・ボイラー・機械類 8,349 9,016 9.8 8.0 11,380 12,655 10.0 11.2
輸送用機器 12,112 14,302 15.6 18.1 8,895 10,944 8.7 23.0
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 5,557 6,376 6.9 14.8 3,522 4,459 3.5 26.6
階層レベル2の項目乗用車 4,729 5,845 6.4 23.6 2,649 3,285 2.6 24.0
卑金属・同製品 7,904 9,103 9.9 15.2 10,892 13,469 10.7 23.7
階層レベル2の項目鉄鋼 3,281 3,299 3.6 0.5 3,876 4,907 3.9 26.6
鉱物性製品 2,777 7,316 8.0 163.5 8,162 15,980 12.7 95.8
階層レベル2の項目鉱物性燃料および鉱物油 2,637 7,095 7.7 169.0 7,443 15,427 12.2 107.3
植物性生産品 5,431 6,746 7.3 24.2 3,178 4,376 3.5 37.7
階層レベル2の項目穀物 3,627 4,301 4.7 18.6 679 967 0.8 42.4
プラスチック・ゴム製品 4,611 5,545 6.0 20.3 7,320 8,437 6.7 15.3
繊維 3,244 3,705 4.0 14.2 4,862 5,853 4.6 20.4
調製食料品・飲料・たばこ 2,781 3,439 3.7 23.7 4,489 4,489 3.6 0.0
雑製品 2,810 3,287 3.6 17.0 2,526 2,959 2.3 17.2
化学品 2,636 3,197 3.5 21.3 10,928 13,829 11.0 26.5
合計(その他含む) 74,705 91,953 100.0 23.1 98,379 126,054 100.0 28.1

〔注〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕 ルーマニア国家統計局

表3 ルーマニアの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 54,095 66,455 72.3 22.8 71,266 89,334 70.9 25.4
階層レベル2の項目ユーロ圏 40,345 48,122 52.3 19.3 50,205 59,926 47.5 19.4
階層レベル3の項目ドイツ 15,335 18,250 19.8 19.0 19,607 22,430 17.8 14.4
階層レベル3の項目イタリア 7,814 9,253 10.1 18.4 8,802 10,305 8.2 17.1
階層レベル3の項目フランス 4,771 5,528 6.0 15.9 4,154 4,894 3.9 17.8
階層レベル3の項目オランダ 2,567 3,233 3.5 25.9 3,890 5,022 4.0 29.1
階層レベル3の項目スペイン 2,227 2,853 3.1 28.1 2,460 3,224 2.6 31.1
階層レベル3の項目オーストリア 1,888 2,205 2.4 16.8 3,142 3,990 3.2 27.0
階層レベル3の項目スロバキア 1,592 1,787 1.9 12.3 1,979 2,396 1.9 21.1
階層レベル3の項目ベルギー 1,589 1,884 2.0 18.6 2,426 3,022 2.4 24.6
階層レベル2の項目非ユーロ圏 13,750 18,333 19.9 33.3 21,061 29,409 23.3 39.6
階層レベル3の項目ハンガリー 4,246 6,794 7.4 60.0 6,807 8,194 6.5 20.4
階層レベル3の項目ポーランド 2,978 3,502 3.8 17.6 6,149 7,441 5.9 21.0
階層レベル3の項目ブルガリア 2,927 3,575 3.9 22.1 4,056 8,809 7.0 117.2
階層レベル3の項目チェコ 2,338 2,658 2.9 13.7 2,815 3,395 2.7 20.6
トルコ 2,623 2,820 3.1 7.5 4,414 6,047 4.8 37.0
英国 2,150 2,633 2.9 22.4 888 986 0.8 11.0
米国 1,560 2,267 2.5 45.3 927 1,346 1.1 45.1
モルドバ 1,302 2,266 2.5 74.1 722 1,113 0.9 54.1
ウクライナ 707 1,544 1.7 118.6 1,324 2,200 1.7 66.1
中国 1,134 1,084 1.2 △ 4.5 6,205 7,379 5.9 18.9
日本 394 661 0.7 67.8 359 396 0.3 10.5
ロシア 1,019 402 0.4 △ 60.5 3,160 3,883 3.1 22.9
韓国 370 402 0.4 8.7 517 674 0.5 30.5
カザフスタン 16 51 0.1 209.3 1,474 3,220 2.6 118.4
合計(その他含む) 74,705 91,953 100.0 23.1 98,379 126,054 100.0 28.1

〔注〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕ルーマニア国家統計局

対内・対外直接投資 
自動車、再生可能エネルギー分野で大型投資

ルーマニア国立銀行によると、2022年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比19.7%増の107億500万ユーロと増加傾向が続いた。2023年第1四半期は22億5,300万ユーロとなった。

2022年末時点の対内直接投資残高は1,079億4,400万ユーロで、2021年末(1,002億8,800万ユーロ)比で7.6%増加した。国・地域内訳をみると、ドイツ(14.9%)、オーストリア(10.7%)、フランス(9.7%)、イタリア(7.8%)、米国(6.7%)、オランダ(5.3%)の順となった。日本からの対内直接投資残高は18億1,300万ユーロ(1.7%)で前年から1億200万ユーロ増加した。グリーンフィールド投資の対象地域は、全体の62.7%が首都圏であった。

2022年1月~2023年3月発表の主な対内直接投資案件は、自動車・同部品を中心とする製造業分野や再生可能エネルギー分野が目立った。自動車用、産業機械用タイヤメーカーのノキアンタイヤ(フィンランド)は2022年11月、ルーマニア北西部のハンガリー国境に近いオラデアに6億5,000万ユーロを投じ、タイヤ業界としては世界初の二酸化炭素(CO2)排出ゼロ工場を設立すると発表した。2025年初頭に商用生産を開始し、中欧向けの大口径乗用車用タイヤを中心に年間生産能力600万本を備え、約500人を新規雇用する予定だ。また、米国フォードとトルコ財閥コチ・ホールディングの合弁企業であるフォード・オトサンは同年7月、フォード・ヨーロッパからフォード・ルーマニアのクラヨバ工場の所有権を取得し、商用車と電気自動車(EV)の生産拡大を目指し、今後3年間で4億9,000万ユーロを投資すると発表した。

再生可能エネルギー分野では、ドイツのAEソーラーが2023年3月、10億ユーロを投じてソーラーパネル工場を建設する計画を政府に表明した。初期フェーズでは2ギガワット(GW)の生産規模を予定している。将来的には10GWまで拡大予定で、実現すれば欧州委員会が2025年までの目標に掲げる欧州での生産目標30GWの3分の1に相当する規模になるとした。イスラエルのノファール・エナジーは、ルーマニアで2021年から9,800万ユーロの建設費を投じて進めている155メガワット(MW)のソーラーパネルの設置を2023年中に完了する。同社は2022年7月に255MWのソーラー事業に参入することを発表するなど、ソーラー事業を拡大している。

ルーマニア国立銀行によると、2022年の対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は10億7,800万ユーロと、前年の1億1,900万ユーロから大幅に増加した。2022年末時点の対外直接投資残高は44億2,400万ユーロで、前年末から58.4%増加した。通信サービス会社ディジの子会社でケーブル事業を手掛けるRCS&RDSは2022年6月、ベルギーのITグループ・セゲカの子会社シティメッシュと共同で、ベルギーにおける第5世代移動通信システム(5G)周波数オークションを1億1,400万ユーロで落札した。不動産開発会社フォーティ・マネジメントは2023年4月、中・東欧初のカーボンニュートラル都市開発プロジェクト「ラグーンシティ」をブカレストで開始し、続いてブタペスト、ワルシャワ、プラハにも同プロジェクトを推進することを発表した。投資額は各都市1億4,000万~1億9,000万ユーロとなる見込みである。

表4-1 ルーマニアの主な対内直接投資案件(2022年~2023年3月)[M&A以外]
業態 企業名 国籍 時期 投資額 概要
再生可能
エネルギー
AEソーラー ドイツ 2023年3月 10億ユーロ ドイツのAEソーラーは、年間10ギガワット相当の生産規模に上るソーラーパネル工場を建設するとルーマニア政府に表明した。
ゴム製品 ノキアンタイヤ フィンランド 2022年11月 6億5,000万
ユーロ
自動車用、産業機械用タイヤメーカーのノキアンタイヤは、ルーマニア北西部のハンガリー国境に近いオラデアに、タイヤ業界としては世界初の二酸化炭素排出ゼロ工場を設立すると発表した。2025年初頭に商業生産を開始し、年間600万本のタイヤ生産を目指す。
再生可能
エネルギー
ノファール・エナジー イスラエル 2022年7月 1億3,500万ユーロ イスラエルのノファール・エナジーは255メガワットの大規模太陽光発電所を建設すると発表。
エネルギー マス・グループ・ホールディング イラク 2022年12月 9,100万ユーロ ヨルダンの発電、セメント・鉄鋼製造業のマス・グループの発電部門が、ルーマニア西部ミンティアの旧石炭発電所の買収完了を発表。最新鋭かつ安価なグリーンエネルギー生成工場への転換を図り、2026年末までに800メガワットの再生可能エネルギーを含む1,290メガワットの発電を目指す。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

表4-2 ルーマニアの主な対内直接投資案件(2022年)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
自動車 フォード・ルーマニア フォード・
オトサン
(フォルデ・オトモティブ・サナイー)
トルコ 2022年7月 4億9,000万
ユーロ
フォード・オトサン(フォードとトルコ財閥コチ・ホールディングとの合弁企業)は、フォード・ヨーロッパからフォード・ルーマニアのクラヨバ工場の所有権を取得し、今後3年間、商用車と電気自動車の生産拡大を目指して4億9,000万ユーロを投資すると発表した。
再生可能
エネルギー
LJG グリーン・ソース・エナジー・アルファ グリーンボルト ポルトガル 2022年5月 8,300万ユーロ ポルトガルの再生可能エネルギー企業であるグリーンボルトは、サムスンC&T他との間で、ルーマニア南部の太陽光発電施設(LJGグリーン・ソース・エナジー・アルファ)の買収契約に署名したと発表。
フィンテック ゾイドペイ・テック・ソリューションズ GEMデジタル バハマ 2022年11月 7,500万ドル バハマの新興国に特化したデジタル資産投資会社のGEMデジタルが、ルーマニアの暗号資産ソフトウエアのスタートアップ企業ゾイドペイの次世代金融サービスへの投資を発表。
再生可能
エネルギー
ジェイド・パワー・トラスト エネリー・
パワー
オーストリア 2022年11月 非公表 エネリー・パワーは、クリーンエネルギーの開発、供給を行うカナダのジェイド・パワー・トラストから、同社がルーマニアで所有する再生可能エネルギー施設を取得したと発表。
鉄鋼 タルゴビステ特殊鉄鋼 AFVアチャエリエ・ベルトラーメ イタリア 2022年3月 3,830万ユーロ イタリアの鉄鋼大手のAFVベルトラーメが、タルゴビステ特殊鉄鋼の工場買収を完了したと発表。今後4年間、さらに1億ユーロをかけて機械設備の刷新を図る。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

表5-1 ルーマニアの主な対外直接投資案件(2022年~2023年4月)[M&A以外]
業態 企業名 国籍 時期 投資額 概要
不動産 フォーティ・マネジメント ハンガリー
チェコ
ポーランド
2023年4月 4億2,000万
~5億7,000万
ユーロ
中・東欧初のカーボンニュートラル都市の開発プロジェクト「ラグーンシティ」をブカレストで開始している不動産開発会社フォーティ・マネジメントは、ブカレストに続いて、ブタペスト、プラハ、ワルシャワにも同プロジェクトを展開すると発表した。
情報・通信 RCS & RDS ベルギー 2022年6月 1億1,400万
ユーロ
通信サービス会社ディジ(Digi)の子会社でルーマニアのケーブル事業を手掛けるRCS&RDSは、ベルギーのIT企業セゲカ(Cegeka)傘下の通信会社シティメッシュと共同で、ベルギーにおける5Gネットワーク構築のため、5Gの周波数オークションを1億1,400万ユーロで落札したと発表。
ソフトウエア wbe.トラベル 米国 2022年4月 非公表 欧州の旅行関連ソフトウエア企業wbe.トラベルは、米国の旅行会社にサービスを提供するためのテクノロジーハブをラスベガスに開設したと発表した。
運輸・倉庫 ポスタ・ロマーナ モルドバ 2022年12月 非公表 「ルーマニア物流拠点」プロジェクトの一環として、ルーマニア国営郵便は初の海外子会社をモルドバのキシナウに設立したと発表した。これは2022年4月にルーマニア政府によって承認されたルーマニア国営郵便のデジタル化、自動化、ロボット化、テクノロジー(D.A.R.T.)戦略の出発点という位置付け。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

表5-2 ルーマニアの主な対外直接投資案件(2022年)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業態 企業名 国籍
アロブス・
トランシルバニア・ソフトウェア
ソフトウエア アロブス・
ソフトウェア・
モルドバ

アロブス・
トラックGPS
モルドバ 2022年12月 347万ユーロ ブカレストの証券取引所最大のテクノロジー企業であるアロブス・トランシルバニア・ソフトウェアは、モルドバの2つの企業(アロブス・ソフトウェア・モルドバとトラックGPS)の買収を完了したと発表した。アロブス・ソフトウェア・モルドバはモルドバ労働市場における有名企業で、大学等教育機関や専門団体との連携によりビジネスエコシステムを展開し、120人以上のエンジニアやソフトウエア開発者が在籍。トラックGPSは、「テレマティックス技術」を有し、あらゆる業界の企業に向けたフリート管理(法人車両の管理)の豊富な経験を持つ。この買収によりアロブスのフリート管理部門は、「テレマティクス技術」のトップ5に入り、中・東欧における存在感を高めることを期待している。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

対日関係 
たばこ製品の輸出増で貿易黒字が拡大

2022年の対日貿易は、輸出が前年比67.8%増の6億6,100万ユーロ、輸入が10.5%増の3億9,600万ユーロとなり、前年に引き続き対日貿易収支は黒字で、黒字額は2億6,500万ユーロと前年の3,500万ユーロから大幅に増加した。

対日輸出を主要品目別にみると、最大品目のたばこ・たばこ製品(構成比59.8%)のほぼ全量を占める加熱式たばこが前年比約3.0倍の大幅増となった。木材・木炭(26.8%)は6.8%減、電気機械・電気機器(4.8%)は4.6%増だった。原子炉・ボイラー・機械類(2.0%)は4.3倍と大幅に増えた。また、天然蜂蜜(0.6%)は2.4倍に増加した。EU域外では、日本が天然蜂蜜の最大の輸出先となり、EU域外の総輸出額の57.1%が日本向けに出荷された。 対日輸入を主要品目別にみると、最大品目である輸送用機器(構成比28.2%)が前年比4.1%増だった。そのうち、乗用車(23.3%)は35.5%増と好調だったが、自動車・トラクター部品(3.3%)は61.8%減と大幅に減少した。その他、電気機械・電気機器(19.3%)が22.5%増、鉄鋼(6.7%)が76.0%増と好調だった。

日系企業はインフラや電子部品製造に投資

日系企業による2022年の主な投資事例としては、日立製作所の米国グループのデジタルエンジニアリング企業であるグローバルロジックが2022年11月、ルーマニア北西部クルージュ・ナポカに本社を置く地場大手ソフトウエア企業のフォーテックを買収する契約を締結した。フォーテックは2003年設立で、クルージュ・ナポカ本社のほか、ルーマニア北東部のヤシ、北西部のオラデア、中部のブラショフに拠点を有し、エンジニア約1,000人、顧客200社超を擁す。インフラ開発では、IHIインフラシステムがイタリアの建設会社ウィビルドとの合弁で建設を進めていた、ドナウ川下流ブライラ県の吊り橋が2023年7月に開通した。ルーマニア道路インフラ公社から2018年1月に設計と建設を一括で請け負う形で受注していた。全長1,974メートル、橋を支えている主塔間の距離である中央径間はルーマニア国内では最長で、EU域内では3番目の長さとなる。2023年5月には、自動車や電子機器用のトランスやリアクタなど電子部品、接合材や絶縁材など電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所が、ルーマニアのヤロミツァ県フェテシュティに生産子会社を設立したと発表した。進出の理由として、欧州における電子部品事業のチャージャー(充電器)をはじめとするモジュール製品の需要拡大に対応するためとしている。2024年11月の商業生産開始を目指す。

二国間関係では、クラウス・ヨハニス大統領が2023年3月に訪日し、岸田文雄首相との間で両国の戦略的パートナーシップ確立に関する共同宣言に署名した。ルーマニアにとって、アジアとの同パートナーシップ締結は韓国に次いで2カ国目となる。外交政策と安全保障、経済協力と開発援助、文化・科学技術・イノベーション・研究開発の3分野での協力強化が盛り込まれた。日本が協力する最先端のインフラやエンジニアリングの一例として、小型モジュール炉(SMR)、グリーン水素、高出力レーザーなどに期待が寄せられた。

表6-1 ルーマニアの対日主要品目別輸出(FOB)
[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
たばこ・たばこ製品 132 395 59.8 200.1
木材・木炭 190 177 26.8 △ 6.8
電気機械・電気機器 30 31 4.8 4.6
原子炉・ボイラー・機械類 3 13 2.0 327.1
光学機器・精密機器 8 11 1.7 35.7
ゴム・ゴム製品 5 7 1.1 40.9
衣類・衣類付属品(編んでいない物) 4 4 0.6 △ 2.3
乳製品、卵、蜂蜜、動物由来の食用製品 2 4 0.6 140.0
階層レベル2の項目天然蜂蜜 2 4 0.6 140.0
輸送用機器 3 3 0.4 △ 24.3
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 2 2 0.2 △ 17.7
家具、その他 2 3 0.4 27.3
プラスチック・プラスチック製品 2 3 0.5 88.2
衣類・衣類付属品(編み物) 2 1 0.2 △ 35.6
合計(その他含む) 394 661 100.0 67.8

〔出所〕 ルーマニア国家統計局

表6-2 ルーマニアの対日主要品目別輸入(CIF)
[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 107 112 28.2 4.1
階層レベル2の項目乗用車 68 92 23.3 35.5
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 34 13 3.3 △ 61.8
電気機械・電気機器 63 77 19.3 22.5
原子炉・ボイラー・機械類 59 53 13.3 △ 10.0
鉄鋼 15 27 6.7 76.0
ゴム・ゴム製品 18 23 5.8 30.4
鉄鋼製品 21 19 4.7 △ 12.2
プラスチック・プラスチック製品 13 13 3.3 0.4
光学機器・精密機器 13 12 3.0 △ 5.1
医薬品 9 9 2.2 △ 4.0
その他の化学製品 5 6 1.4 4.8
卑金属のその他の物品 6 5 1.3 △ 8.8
フェルト、不織布および特殊糸 3 4 0.9 12.3
合計(その他含む) 359 396 100.0 10.5

〔出所〕 ルーマニア国家統計局

基礎的経済指標

人口
1,905万人(2023年1月)
面積
23万8,397平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
1万5,851米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 3.7 5.8 4.7
消費者物価上昇率 (%) 2.6 5.1 13.8
失業率 (%) 5.0 5.6 5.6
貿易収支 (100万ユーロ) △ 18,942 △ 23,122 △ 32,309
経常収支 (100万ユーロ) △ 10,979 △ 17,473 △ 26,571
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 45,889 45,821 49,772
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ、期末値) 126,807 136,585 142,721
為替レート ( 1 米ドルにつき、ルーマニアレイ、期中平均) 4.24 4.16 4.69

注:
人口、1人当たりGDP:推定値
消費者物価上昇率:年平均
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)、暫定値
経常収支:国際収支ベース、暫定値
対外債務残高(グロス):暫定値
外貨準備高(グロス):金を除く
出所:
人口、面積、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:ルーマニア国家統計局
1人当たりGDP:IMF「世界経済見通し(2023年4月)」
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):ルーマニア国立銀行
外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF