モロッコのアフリカ投資とエネルギー戦略

2017年10月16日

製造業や金融業の発展が目覚ましいモロッコは、有望な投資先として注目を集める。一方で、モロッコからアフリカへの投資も年々拡大しており、実はアフリカへの主要投資国としての一面を持つ。同国のアフリカ域内ネットワークは、ビジネスと政治の両面で広がりを見せている。これらのネットワークは、日本企業にとっても、アフリカ展開の足掛かりとして期待が高まっている。また、資源輸入国であるモロッコでは、エネルギー政策が重要な位置づけにある。石油依存からの脱却を図るべく、天然ガスや再生エネルギーへのシフトを国が推進。新たなエネルギー関連プロジェクトが稼働する中、日本企業にも商機がありそうだ。

対アフリカ投資国としてのモロッコ

モロッコは近年、アフリカへの投資を拡大している。世界の対アフリカ投資の8割以上はサブサハラアフリカで占められる。加えて、アフリカ大陸13億人の消費市場は「最後のフロンティア」と呼ばれるほど世界中が注目している市場であり、モロッコも参画を狙う国のひとつだ。モロッコは、アーンストアンドヤングによる2016年アフリカ投資魅力度ランキングで1位に輝くなど、アフリカで主要な「投資受け入れ国」として注目されているが、実はアフリカへの投資国としても存在感を表しはじめている。

モロッコ為替局によると、モロッコの対外投資構成比(2016年)はフランス26.5%、コートジボワール15.3%、アラブ首長国連邦(UAE)9.9%、サウジアラビア9.0%、ベナン8.5%、カメルーン8.2%でアフリカ向けは合計で44.5%。とりわけコートジボワールへの投資が目立ち、2016年の投資額は約1億2,000万ドル (約11億モロッコ・ディルハム、MAD、1ドル=0.1MAD)。2015年においては、モロッコがフランスを追い越して同国最大の投資国だった。

図1:2016年モロッコ対外投資構成比
フランスが26.5%で最大。次いでコートジボワール15.3%、アラブ首長国連邦9.9%、サウジアラビア9.0%、ベナン8.5%、カメルーン8.2%、モーリシャス4.43%、スペイン3.5%、英国3.0%、ギニア1.8%、その他アフリカ6.4%、その他3.3%。アフリカ諸国を合せると44.6%にのぼる。

出所:モロッコ為替局
注:暫定値

図2:モロッコの対アフリカ投資額推移
(単位:100万モロッコ・ディルハム)
2013年から2016年にかけてのモロッコの対アフリカ投資額(単位:100万モロッコディルハム)の推移を示す。アフリカ合計では拡大傾向で15年から16年まで順にそれぞれ、2049.7、1411.2、3030.4、3194.8。 コートジボワールは、15年から16年まで順にそれぞれ436.9、 305.7、 616.0 、1096.7。ベナンは14年83.4、16年608.8、13年と15年はデータなし。カメルーンは13年から16年まで順にそれぞれ66.1、19.1、35.5、585.8 。モーリタニアは13年から16年まで順にそれぞれ85.1、82.4、1094.7、317.6 。ギニアは13年から16年まで順にそれぞれ61.6、8.7、4.9、129.8 。セネガルは13年から16年まで順にそれぞれ4.4 、244、181.4、102.6 。

出所:モロッコ為替局
注:2016年は暫定値

従来モロッコは言語と宗教の共通点が有利に働き、コートジボワールをはじめとしたフランコフォニ―と呼ばれる仏語圏の国やイスラム圏の国を中心に進出していた。しかし今ではケニアやタンザニアなどの東アフリカや南部アフリカにも積極的に展開している。例えば、モロッコ最大手のアティジャリワハ銀行(Attijariwafa Bank)は、アフリカ24カ国におよそ4,000支店を持つ。特に西アフリカで高いプレゼンスを持ち、今後は東アフリカや南部アフリカへの事業をさらに積極的に展開する見通しだ。また保険大手のサハム(SAHAM)は西部や中部の国のみならず、ケニアやマダガスカルにも進出するなど、モロッコの民間金融セクターの強みが認識されはじめている。そのほか、製薬会社のファーマサンク(Pharma5)は、コートジボワールに製造拠点を設立する予定で西アフリカ周辺国への販売強化を狙う。また、モロッコ・テレコムをはじめとした通信企業が広域展開しているほか、航空会社のロイヤル・エア・モロッコがアフリカに35路線就航し、便数も拡大傾向にある。

これらのモロッコ企業が有するアフリカ内のネットワークは、日本企業からもアフリカ進出の足掛かりとして連携が期待されている。具体的には、住友商事が2017年9月にアティジャリワハ銀行とMOUに署名した。両者の連携の下で、自動車製造、インフラ、化学品製造、鉱業、農業を中心にビジネス展開をしていく見込みだ。また、日本政府は「アフリカ貿易・投資促進官民合同ミッション」を2017年5月に派遣しており、ナイジェリアとモロッコを訪問した。民間企業の参加社数は16社にのぼり、関心の高さがうかがえる。モロッコをアフリカ進出の拠点とする日本企業はこれからも増えそうだ。

また、政治面でもモロッコは積極的にアフリカとの関係強化を図っている。2017年にはアフリカ連合(AU)に再加盟を果たした。西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)への加盟申請も原則合意を得て、2017年12月にトーゴのロメで開催されるECOWAS首脳会議で正式加盟が認められる見通しだ。

エネルギー分野に商機あり

資源輸入国であるモロッコは石化燃料の輸入負担が大きく、貿易赤字の原因になっている。また、2015年7月から国内唯一の石油精製会社であったサフィール社が財政問題を抱えて実質的な経営破綻状態にあり、石油精製施設が稼働していない状況が続いている。そのため、原油の輸入ができなくなり、精製した石油のみの輸入となっていることから、貿易赤字へのさらなる負担が懸念されている。これらの状況を踏まえても、安定的なエネルギー確保はモロッコにとって重要な政策課題だ。そこで、将来的に石油への依存度を減らしていくべく、「エネルギーミックス計画」を国は推進している。同計画は2030年までに原油・石炭による発電を総発電量のうちの23%まで低下させ、代わりに再生可能エネルギー52%、天然ガス23%の比率にそれぞれ高めるものだ。同計画は官民パートナーシップ(PPP)で実施されている点が最大の特徴であり、すなわち日本企業にも参画の機会があるということだ。また、モロッコでは産業の発展に伴って増えている電力需要に対して供給が追い付いておらず、不足分をスペインからの電力輸入で賄っている状況であることから、新たな発電所建設の需要は高い。

そのような状況下で注目を集めるのが「Gas to Power Project」と呼ばれる液化天然ガス(LNG)開発の国家プロジェクトだ。同プロジェクトでは、LNGターミナルの建設、400キロにわたるパイプラインの敷設(中西部のジョルフ・ラスファールから、カサブランカ、首都ラバト、ケニトラ等主要都市を結ぶ)、2,400メガワット(MW)規模の火力発電所建設を予定している。現状ではモロッコはアルジェリア―スペイン間のガスパイプラインを通じてLNGを輸入している。しかし、アルジェリアとのLNG輸入協定は2021年までに失効するため、代替策をたてることが急務となっていた。完成すれば、2025年までに約70億立方メートルのLNG輸入が受け入れ可能になる。同プロジェクトの最終的な投資額は約46億ドルとアフリカ最大規模で、国際入札では日本企業も参加を表明している。日本政府は2016年9月にモロッコのエネルギー・鉱山・水利・環境大臣(当時)を招へいし、国を挙げて同プロジェクトへの期待を表明した。入札案件のみならず、同プロジェクトによる川下産業の発展など波及効果が得られる分野は多いとされている。現状では電力輸入国であるが、将来的には電力輸出国に転換するのを目標に、既存のスペインやアルジェリアとの間の送電網に加えて、周辺国へも送電網を整備する計画をしている。

また、同国の再生エネルギー分野も着実に成長しており、モロッコは風力発電で2万5,000MW、太陽エネルギーで2万MWのポテンシャルがあると言われている。実際に日本企業も同国の再生エネルギー分野に参入している。三井物産が北部のタザで風力発電事業に参加している。また、ジョルフ・ラスファールで石炭火力発電を建設、同じく中西部のサフィで石炭火力発電でも環境に優しいとされる超々臨界圧発電の発電所建設を進めている。また、住友電工は太陽エネルギー庁との契約のもと、中部のワルザザート市で集光型太陽光発電プラントの運用実証実験に取り組んでいる。

治安リスクの懸念も

モロッコの治安は総じて良好とされている。しかしながら、最近では2017年8月にスペインで発生したISIS(イラクとシャームのイスラム国)によるテロで、実行犯グループがモロッコ系移民であったことが判明。幼いころに移住した世代や2世による犯行で、モロッコ国内の治安に直接影響はないが、同国とテロのイメージが図らずとも結びついてしまった。しかし、モロッコ国内でもテロ対策を強化し、スペインと強固な協力体制を築いて水際対策をしているとの報道もある。

さらに、モロッコ国内の不安材料としては、経済開発が遅れている地域への対策だ。北部のアルホセイマでは、2016年10月に魚売りの男性が売り物の魚を押収・廃棄処分しようとした地元当局者と口論になった末、ごみ収集車に巻き込まれて死亡した事件を発端に住民の不満が高まって断続的にデモが発生していた。同地域は少数民族のベルベル人が暮らす地域で、経済発展の恩恵を受けていない層が多いとされている。その影響から、国王主導で同地域への経済対策が打ち出され、閣僚が現地を訪問して投資計画を発表している。

現状ではマグレブ諸国の中でもモロッコは圧倒的に治安が良く、ここ5年以上国内でのテロ発生件数はゼロだ。しかし、上述のように潜在的なリスクがあることを踏まえ、国内外の動向を引き続き注視していく必要がありそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
清水 美香(しみず みか)
2010年、ジェトロ入構。産業技術部産業技術課/機械・環境産業部機械・環境産業企画課(当時)(2010~2013年)を経て現職。