加速する都市化、整備が進むコロンボの交通インフラ・住宅(スリランカ)
スリランカ都市開発の展望(前編)

2018年6月20日

スリランカの最大都市コロンボ近郊で2017年4月、ごみ山が崩れ、住宅100棟ほどが全半壊し、住民ら32人が死亡した。ごみ処分場で100メートルの高さにまで積み上がったごみ山が崩壊したのだ。経済が発展する中で、都市インフラが不十分なコロンボへの人口増加が見込まれている。スリランカ都市開発の現状と展望を紹介する。

増加する人口に追い付いていない都市インフラ

一般的に経済が発展する過程で、人口が都市部へと集中する「都市化」現象が起こる(注1)。都市部に住む人口の割合を示す「都市化率」について、国連のデータを基に比較したのが図1だ。これをみるとスリランカは他のアジア諸国と比較して、圧倒的に都市化率が低いことが分かる。主な要因としては、2009年まで26年間続いた内戦が長期にわたり人々の移動を妨げてきたことが挙げられる。しかし同図が示唆するように、スリランカでも2020年代ごろ以降から都市化の進行が加速することが予測され、今後コロンボ圏へのさらなる人口流入が見込まれている。

コロンボの現時点での人口は56万人と、一国の最大都市としては小規模だが、コロンボへ通勤通学をする流動人口を含めると100万人規模の都市といわれており、今後の成長を見込んで参入競争が過熱している。しかし都市化は労働力や消費力の集約を牽引し、経済発展の動力となり得る一方で、過剰な人口集中は交通渋滞やスラム形成などの社会問題を誘発する可能性もある。冒頭のごみ山の崩壊は増加する人口に都市インフラ整備が追い付いていない象徴だ。より深刻な都市問題を未然に防ぐためにも、また既に表出している課題を解決していくためにも、都市化が比較的緩やかに進行している現在のうちに、都市インフラを整備することが求められる。

図1:アジア各国の都市化率予測(1950~2050年)
2010年以降、スリランカの都市化率はアジア各国の中でも最も低い。
出所:
国連「World Urbanization Prospects, the 2014 Revision」を基にジェトロ作成

交通インフラ整備は急務

既に、コロンボの許容力が限界を迎えているのが交通インフラだ。特に中心部での渋滞は深刻で、通常であれば車で20分ほどの距離で、平日の通勤通学時間帯では1時間以上かかることも珍しくない。コロンボに通勤する人々の多くが公共バスあるいは自家用車を利用するが、市内には信号機の機能している交差点が少なく、平日の朝夕は警官が手信号で誘導するために効率が悪い。さらに運転マナーの教育も行き届いておらず、小競り合いや事故も頻発する。このような状況にスリランカ政府も危機感を抱き、交通量のピーク時間帯にはバス専用車線を設定するなど対策を講じているが、効果は限定的だ。今後、加速化する人口増に対応するためには、新たな交通インフラの導入が望ましい。

日本政府もこの流れに参画している。国際協力機構(JICA)を通じたODAで計画されているのが、コロンボでの軽量輸送システム(LRT)の導入だ(注2)。現在、スリランカでは英国植民地時代に敷設された線路がいまだ現役で活躍しているが、老朽化が激しい上に路線のカバーエリアも限定的だ。そこで、日本のODAプロジェクトではコロンボ中心地と、既存の路線が届かなかった内陸方面をつなげるルートを描き、通勤や通学により便利なLRT路線の敷設を目指している。現段階の計画では、コロンボ中心部のフォート駅からコロンボ郊外のマラベまで16キロをつなぎ、約1キロ間隔で駅を設置する想定だ(図2参照)。現在はFS調査の段階であり、実際の入札は2020年以降となることが予想される。その後の建設期間や試行運転期間にも数年かかる長期計画ではあるが、本プロジェクト完成の暁には、新たな公共交通機関のみならず、各駅の周辺開発などさまざまな経済効果を生むこととなる。また、フランスの援助機関が官民連携(PPP)の枠組みでフォートにターミナル駅を開発する計画を進行していたり、既存の鉄道路線についてもアジア開発銀行(ADB)が複線化や電化を目指して調査を進めていたりするなど、公共交通インフラを取り巻く開発は活発化している。

さらにJICAは、既存の交通インフラにおける渋滞や事故の緩和のために、高度道路交通システム(ITS)の導入が効果的という考えから、日本の取り組みや技術の認知活動を行っている。5月15日にはスリランカの政府関係者や研究者を招いたセミナーを開催し、JICA調査団によるスリランカの交通調査結果や、日本企業の先進技術を紹介した。新規の交通インフラ建設に加えて、情報技術を活用することでコロンボの都市機能向上を目指す。


朝のラッシュ時の渋滞。警官の手信号によってのろのろと進む(ジェトロ撮影)

バス専用レーンの導入区画は限られており、多くの場合は公共バスも渋滞に巻き込まれる(ジェトロ撮影)
図2:LRT敷設ルート予定図
現段階の軽量輸送システム導入計画は、コロンボ中心部のフォート駅からコロンボ郊外のマラベまで16キロを繋ぎ、約1キロ間隔で駅を設置する想定。
出所:
メガポリス西部開発省 (MMWD)提供

住宅供給も急ぐ

交通インフラに加えて重要なのが、住宅の整備だ。スリランカでは大家族文化が残り、都市周辺部でも昔ながらの一戸建ての住宅形式がいまだ主流だが、小規模世帯向けのアパート物件などの建設も徐々に進んでいる。一方で、周辺国に比べれば少数だが、一部スラムが形成されている地区もある。コロンボへの人口流入に際して、各社会階層向けに、それぞれのニーズに合致した住宅供給が必要となる。

スリランカの大手建設会社であるインターナショナル・コンストラクション・コンソーシアム(ICC)は、スリランカ各地で幅広く物件建設を手掛け、近年では特にコロンボ近郊に富裕層、中間層、貧困層それぞれを対象とした住宅物件を展開している。特に中間層と貧困層向けの集合住宅については政府も整備を急いでいるために、建設用の土地を政府が安価に提供したり、この政府提供の用地内で、中間層向け物件に併設して一部富裕層向けのデザイン物件も建設、販売することが許可されたりと、建設会社に対するインセンティブが用意されている。同社は、前述のLRTの終着駅となることが予定されているマラベでも大規模開発を行い、高級住宅300戸と約250部屋を備えるアパート物件を建設した。マラベはITシティーとも呼ばれ、大学も集積しているため、学生の需要も取り込みたい考えだ。

政府開発案件などの情報のチェックも欠かさない同社だが、ICCのナゴダビザネ取締役、ラナシンハ・ゼネラルマネジャーは「スリランカの建設業界では競争が激化している」と話す。最大の競合相手は中国企業で、地場のスリランカ企業でも中国企業にはコスト面で競り負けることも少なくないそうだ。都市の成長に伴って企業のチャンスも広がっているが、同時に競争も激化しているようだ。


ICCがマラベに建設した集合住宅のイメージ図
(ICCウェブサイトから)

ICCのV.S.ナゴダビザネ取締役(中央左)とパリサ・ラナシンハ・ゼネラルマネジャー(中央右)。両端は筆者(ジェトロ撮影)

このように、スリランカでは都市インフラ開発に関連した政府や援助機関のプロジェクトが多く進行している。これらプロジェクトを入り口として参入する外国企業も多く、スリランカ地場企業も巻き込んだ競争は過熱の一途だ。一方で、ジャパンブランドへの信頼が厚いスリランカだからこそ、都市の根幹に関わる分野で日本の技術や品質を歓迎する向きは多い。コスト競争力を強みとする他国企業といかに対抗できるかが、今後のカギとなりそうだ。


注1:
都市化とは、都市の人口比率が上昇することを指し、農村部から都市部への人口移動および都市部における人口の自然増(新生児の出生)の2要因によって起こる。
注2:
案件の概要は外務省発表資料参照。ただし路線の敷設予定ルートは本資料後の調査を経て変更されている点に注意。変更後のルートは本文中の図2のとおり。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2018年7月25日)
第2段落
(誤)2009年まで29年間続いた内戦が長期にわたり
(正)2009年まで26年間続いた内戦が長期にわたり
執筆者紹介
ジェトロ企画部地方創生推進課(元ジェトロ・コロンボ事務所)
山本 春奈(やまもと はるな)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部(2015~2017年)、ジェトロ・コロンボ事務所(2017年~2018年)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所
ラクナー・ワーサラゲー
2017年よりジェトロ・コロンボ事務所に勤務。