低い税率・コスト、ハイテクやスタートアップが盛ん(ブルガリア)
ジェトロがミッション派遣、23社が参加

2018年7月30日

2018年1月、安倍晋三首相が日本の首相として初めてブルガリアを訪問した。ブルガリアは2007年にEUに加盟し、2018年上半期には初めてEU理事会の議長国を務めた。日本企業の進出は限定的だが、低い税率や安価な労働コストなどにより、欧州を中心に多くの外資企業が進出している。経済も2015年以降は毎年3%台後半の成長率で推移している。ジェトロは在ブルガリア日本大使館と共にブルガリア政府の協力の下、6月25~27日にビジネスミッションを派遣した。食品、自動車、自動車部品、電子機器、ソフトウエア、金融、商社など23社から29人(日本からの出張者7人を含む)が参加した。

2017年のGDP成長率は3.6%と好調

ブルガリアの人口は705万人、面積は11万平方キロで、社会主義時代から親日国である。冷戦崩壊後、経済は長く低迷したが、リーマン・ショックの影響は相対的には小さく、GDPはここ10年連続で成長を続け、2017年の成長率は3.6%だった。また、緊縮財政と密輸取り締まりにより財政状況が改善し、政府債務残高の対GDP比率は25.4%とEU加盟国で3番目に低い。失業率は7.1%にまで低下、人口流出や出生率低下が課題となる中、中長期的には労働力不足が経済成長の制約要因になる可能性が高いと指摘されている。賃金は他のEU加盟国や一部の西バルカン諸国(EU未加盟国)と比べても低い水準にあるため、労働集約型を中心とする製造業が経済を支えるが、さらなる経済発展には産業構造の転換や人材育成、外資系企業の誘致や中小企業振興が必要となっている。

日本企業としては、矢崎総業と住友電装が大規模な自動車部品工場を操業しているほか、電流センサーの部品を製造、販売する中小企業の電気鉄芯工業(東京都)が工場の建設を検討中だ。

また、全農グループが冷凍ずしの製造と欧州内への輸出を始めたほか、セガ・グループがゲームの開発・制作拠点を設けている。ブルガリアが社会主義時代に大農業国であり、またソ連へのソフトウエア供給国であったことは、このような事例と無関係ではないかもしれない。

「在ブルガリア日本ビジネスフォーラム」設立

ミッション初日は、在日本大使館とジェトロが政治・経済勉強会を開き、翌日には「在ブルガリア日本ビジネスフォーラム」が主催する投資セミナーが開催された。同フォーラムは、日本とブルガリアの貿易・投資に関する相互の協力を促進するため、今回のミッション派遣中に渡邉正人駐ブルガリア大使とアレクサンダー・マノレフ経済省副大臣が設立文書に署名し、発足した。

フォーラムにおいては、トミスラフ・ドンチェフ副首相が冒頭にあいさつし、ブルガリアはEU5億人市場の一部であり、法人税(10%)をはじめ税負担が低いことに加え、IT、農業、エコツーリズムなどの産業や文化、観光でもさまざまなチャンスがあること、また、ブルガリア人の人柄も魅力だと語った。日EU経済連携協定(EPA)に関しては、貿易におけるメリットよりも、科学技術の交流を通じたイノベーションの促進が重要との見方を示した。 ブルガリア投資庁のスタメン・ヤネフ長官は、ブルガリアは業務のアウトソーシングに最適であること、欧州の自動車の80%にブルガリア製の部品が使われていることのほか、農業ではフランスを抜いて世界最大のラベンダー生産国になったこと、インターネットの接続速度は世界の10位に入りIT産業も盛んであること、ロシア、トルコ、中東市場との結びつきが強いことなどをブルガリアの強みとして挙げた。また、失業率が高い地域では進出企業に対し法人税率をゼロとするインセンティブがあることも紹介した。

さらに、2017年の主な投資国はオランダ、ドイツ、スイス、トルコ、ギリシアであり、重点分野は、自動車、農業、IT、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)などだと述べた。主な外資企業にはスイス重電ABB、ドイツ・ルフトハンザ航空傘下の整備会社ルフトハンザ・テクニック、ロシア向けに輸出している米国のコカ・コーラなどがある。

投資の許可を得るためには、新規に雇用を創出し、ハイテク産業を含む政府が定めた分野(明確な基準は示されなかったが、日本企業が得意とする分野はブルガリアが必要とする投資と思われる)である必要があるが、失業率が高い地域への投資は社会保障費や法人税の面での優遇措置が用意されていることが紹介された。例えば、5,000万ユーロ以上投資し、新規雇用者数が50~150人の場合、最優先クラスに指定され迅速な許認可審査を受けるとともに、研究開発(R&D)補助金が与えられる特典もある。

そのほか、国営工業団地会社(NCIZ)の代表者から全国10カ所で運営・建設中の工業団地(総面積728万平方メートル)について、また、首都ソフィアの南東150キロにあるプロブディフ市のトラキア経済地区(TEZ)からは、官民パートナーシップ(PPP)により建設・運営された7つの工業団地には745万平方メートルの空きがあることなどについて説明があった。

また、成功している日系企業として、ヨーグルトの明治、電力関係の東芝、冷凍ずし製造・輸出のJAPE(Japan Agriculture Production Europe)、ゲームソフトのセガが取り組みを紹介した。

ハイテク企業など5社を訪問

ミッションでは、電気機械を製造・輸出する外資系2社のほか、地元ハイテク企業3社を訪問した。

地元のエンジニアリング企業ボラコム(Volacom)は、ニッチな分野のエンジニアリング、研究開発に強い。製品としては、熱センサーで鳥を検知し音で追い払うバードストライク防止装置、5キロまでの積載量で40分飛行可能な監視用ドローン、ドローンの充電ドック(開発中)、通信機器(短波無線増幅装置)などがある。バードストライク防止装置は日本の空港に納入予定とのこと。


ドローンのドック(左)、バードストライク防止装置(右)(ジェトロ撮影)

監視用ドローン(ジェトロ撮影)

電力機器(太陽電池や風力発電用のインバーターなど)を製造するエレクトロインベント(Electroinvent)は、電子機器受託生産サービス(EMS)と開発試作が中心で、従業員は150人だが、売り上げの88%はスイス、ドイツ、英国、米国、中国、インドなど国外が占めており、日本の重電メーカーとも取引があるという。

医療系の電子機器開発・サービスのチェックポイント・カルディオ(Checkpoint Cardio)は、電極を胸に貼り付けてサーバーに生体データを転送し、診断する機器の製造と診断などの付随サービスを提供。生体データをオンラインで常時取得して患者をモニターするが、機器が携帯電話回線とつながっていることから、スマートフォンがなくても患者は随時医師と話したり、緊急時には連絡を取ったりできる。2013年の創業後、オーストリア、ドイツ、英国などで3万6,000人の患者をモニターし、2017年の売り上げは40万ユーロ、2018年は290万ユーロと予測。EUの各種研究プロジェクトにも参加している。

参加者からは、ブルガリア政府の熱意に感心したとの声、意外な分野で先行しているニッチ企業がある、また労働集約型の産業が価格競争力を維持していることを再認識した、などの感想が聞かれた。

執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所長
阿部 聡(あべ さとし)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。2016年7月より現職。