【中国・潮流】変化が著しい中国経済
ベンチャー企業の台頭と日系企業を取り巻く環境

2018年8月17日

2017年本欄に執筆した際は、4年のブランクを置いて北京での駐在を始めたばかりで、その間の変化に驚かされたことについて報告した。それから約1年、中国の変化は今も目まぐるしい。

移り変わりの激しさが中国の活力の源泉

昨年の本欄(2017年11月1日記事参照)では、スマホ(スマートフォン)決済と並んで、シェアリング自転車の普及について記述した。スマホ決済については、その後も順調に利用者が増加(報道によれば、2018年上半期において、利用者は8億9,000万人)している。天津市では、アリペイを通じて、スマホ上に身分証明書などの情報を表示できるサービスを開始するなど、利用範囲が拡大している。北京駅のある窓口では、高齢者が現金での支払いを断られているのを目にした。地下鉄でも、QRコードを改札機にかざして乗車するシステムが既に北京で導入されている。

一方、シェアリング自転車は曲がり角を迎えている。企業が乱立し、事業を継続できなくなる会社が続出するとともに、デポジットが返還されない問題や、車両再配置要員のリストラなどが報じられた。最近では、最大手の一角を占める企業が、別のベンチャー企業に買収された。デポジットの運用は、かつてシェアリング自転車の運営企業にとって重要な利益の源と言われていたが、利用者獲得競争が激化する中、デポジット免除・返還の流れが急速に進んでいる。

そうした中で、中関村のインキュベーション施設には、多くのスタートアップ企業が集まっている。筆者が訪れた創業2年程度の企業は、日本からの投稿動画を配信するサービスを提供しており、既に日本法人を立ち上げ、さらなる事業の拡大を目指している。移り変わりの激しいのが中国経済の活力の源泉であるとも言える。

「中国経済と日本企業2018年白書」の発刊

日系企業が中国で直面する問題も、変わってきている。6月に、「中国経済と日本企業2018年白書」が発刊された。中国経済の現状を分析するとともに、中国各地の日系企業が直面する課題を中国政府への建議としてとりまとめたもので、中国日本商会が発行元であり、ジェトロ・北京事務所が編集作業を担っている。

今回赴任して、北京の大気の質の改善には感銘を受けたが、その一方で、事業の実態を考慮しない一律かつ突然の取り締まりが経済活動に与える懸念(突然立ち入り検査に来て、工場の操業停止を指示するなど)や、石炭から天然ガスへの転換を指示するものの、天然ガス供給が不足して対応できない地域が存在すること、廃棄物処理業者の管理が厳しくなった結果、同業者の廃業が相次ぎ、産廃処理能力に問題が出ていることなど、矢継ぎ早の規制強化にインフラ整備が追いつかないという現状についての報告が寄せられている。中国政府は、環境、貧富の格差、金融リスクなど直面する問題を解決するために急ピッチで対策を進めているが、そのことが別のところで問題を生んでいる実態がうかがわれる。また、同白書では、行政手続きのペーパーレス化が急速に進む半面、頻繁に行われる更新のたびに、システムが不安定になって手続きが遅延するという問題も指摘されている。このほか、中国企業と外国企業との間の公平な待遇、制度改正に当たっての準備期間の設定や、運用の統一、透明性の向上を求めたりする声が目立った。

執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 所長
堂ノ上 武夫(どうのうえ たけお)
1987年、通商産業省入省、在中国大使館書記官(1996~1999年)、通商産業省貿易局輸入課長補佐(1999~2001年)、九州経済産業局総務課長(2001~2003年)、在中国大使館参事官(2003~2007年)、経済産業省国会担当参事官(2007~2009年)、日中経済協会北京事務所長(2009~2011年)、在中国大使館公使(2011~2013年)、特許庁総務課長(2013~2014年)、特許庁総務部長(2014~2015年)、経済産業省大臣官房審議官(2015~2017年)等を経て、2017年から現職。