2019年10月までに施行予定のハラール製品保証法(インドネシア)
運用方針を管轄機関に聞く

2018年6月22日

インドネシアでは2014年にハラール(注)製品に関する新法が公布され、2019年10月までの施行を予定している。これにより飲食料品・化粧品のみならず、多くの製品に対してハラール取得が義務化される可能性が出ている。他方、政府内では全ての製品やサービスに対してはハラール取得を義務化しない方向で議論が進んでいるようだ。運用の詳細を示す実施細則の制定については、現時点でめどが立っていない。ジェトロはハラール製品保証実施機関(BPJPH)のスコソ長官らに、運用の方向性について聞いた。

ハラール製品保証実施機関が17年10月に発足

ハラール製品保証法(ハラール製品保証に関するインドネシア共和国法2014年33号)は、国家が国民の利用する製品のハラール性の保護および保証をする目的で、前ユドヨノ政権時代の2014年10月17日に公布された。同法は、科学技術の発展により高次化した製品の加工によって、故意か否かにかかわらず、ハラールなものとハラーム(禁忌)なものが混ざる可能性が高まったことや、国内で流通する全ての製品にハラール性が保証されているわけではないことを制定の背景としている。

ハラール製品保証法によって、従来、インドネシア・ウラマー評議会(Majelis Ulama Indonesia:MUI)が有していたハラール認証発行の権限は、宗教省大臣の直下に新設のハラール製品保証実施機関(Badan Penyelenggara Jaminan Produk Halal:BPJPH)に移管されることが定められている(第1条)。これにより、BPJPHは2017年10月に発足式を実施し、スコソ氏が初代長官に就任した。ハラール検査機関(Lembaga Pemeriksa Halal:LPH)が検査・試験業務を担い、MUIが対象製品がハラールであるかを判断するなど両機関が連携することとなった。MUIは認証権限を失うが、製品がハラールであるか否かの重要な判断を継続して担う。各機関の役割と審査手順は図のとおり。

図:ハラール製品保証法に基づく各機関の役割と審査手順
  1. 申請者による申請内容は、事業者のデータ、製品の名称・種類、原材料リスト、製品加工プロセスなどを提出。
  2. BPJPHがLPHに検査実施を指示。BPJPHは、書類が整ったことを確認し、5営業日以内にLPHに指示を出す。
  3. LPH監査人が製品を検査する。原則、製品検査は製造場所で行われる。
  4. LPHは 検査結果をBPJPHに提出する。
  5. BPJPHは、MUIに対しLPHからの製品結果検査に基づくファトワの決定を求める。
  6. MUIは、ファトワ審議委員会でハラール性のステータスを決定し、ハラール/非ハラールをBPJPHに表明:検査結果一式取得から30営業日以内
  7. ファトワの結果がハラールと表明された場合、BPJPHはハラール認証状を発行する。MUIよりハラールのファトワ表明を受け取ってから7営業日以内。
出所:
「ハラール製品保証法」よりジェトロ作成

なお、ジェトロ・ジャカルタ事務所が2018年5月、BPJPHのハラール協力・標準化管理センター部門長のモハンマド・ゼン氏に聞いたところ、BPJPHはいまだ対外業務を実施していないため、「現時点でMUIがハラール認証の発行機関」となっている。今後、図のフローが適用されるのはハラール製品保証法が施行されてからとなる見込みだ。

ハラール認証の対象範囲はいまだ不明瞭

ハラール製品保証法は、これまでハラール対象ではなかった多くの製品にハラール取得の義務化を示唆する内容でありながら、その範囲については不明瞭な点が多い。同法では、対象製品を「食品、飲料、医薬品、化粧品、化学製品、生物製品、遺伝子組み換え製品ならびに国民が使用、利用または活用する物品および/またはサービス」(第1条)と定め、従来に比べ広範な物品とサービスをハラールの対象とみなす。また、「インドネシア領域内において搬入、流通および売買される製品は、ハラール認証状を有する義務がある」(第4条)とし、従来は任意だったハラール認証を、全ての製品に義務化することを示唆している。

他方、非ハラール品の継続的な流通・販売を認めることを示唆する条項もある。例えば、「ハラール製品およびハラールでない製品間におけると畜、加工、貯蔵、包装、配送、販売および提供のための位置、場所および器具の分離」(第24条第1項b、c)、「ハラームとされる原料に由来する原料から製品を生産する事業者は、ハラール認証状申請から除外される」「(該当する)事業者は、製品にハラールでない旨を表示しなければならない」(第26条第1、2項)などの記述がある。

この点について、モハンマド・ゼン部門長は「国内で流通および売買される全ての商品がハラールである必要はなく、食品・飲料、医薬品、化粧品、皮革類および動物由来成分を含むバイオ、化学製品について『ハラール』もしくは『ノンハラール』と示すことを義務付ける予定」という。

実施細則の制定のめどは立たず

同法は公布から5年以内に施行する(第67条)と明記されていることから、2019年10月までに施行される見込みだ。法令上の不明瞭な点については、実施細則が「本法の公布後2年以内に制定されなければならない」(第65条)と規定されているが、期限である2016年10月どころか、現時点でいまだに制定されていない。モハンマド・ゼン氏は「近いうちに実施細則が出る見込み」と語ったが、具体的なスケジュールは示されていない。

施行時期が近づき、実施細則による運用が不透明な中、日系企業からはハラール取得が義務化された場合の猶予期間の有無について懸念する声が聞かれる。しかし、明確な方針は示されていない。BPJPHのスコソ長官は2017年11月、ジェトロに対して「ハラール製品保証法への対応は、実施細則の発表後、食品・飲料は3年以内に、医薬品、化粧品、化学製品などは5年以内に」と発言している。これに対して、モハンマド・ゼン部門長は2018年5月、「食品・飲料については2019年10月までのハラール取得を推奨する」とするなど、はっきりしたことは不明だ。

このように、2019年10月に予定される新法施行によって、ハラール認証は刷新されるが、運用方針は不透明なままである。全ての商品やサービスに対してハラール取得の義務化を進める意向はないとみられるが、今後の政府内の議論次第で方針が変更される可能性も否定できないため、最新動向に注意を払う必要がある。


注:
ハラール(HALAL)とは「合法」や「許された」を意味するアラビア語で、立法者であるアッラーが人類に示した規範「シャリーア(イスラーム法)」に則った状態を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
亀田 周(かめだ あまね)
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ福島(2012~2015年)、企画部地方創生推進課(2015~2016年)を経て2016年より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
山城 武伸(やましろ たけのぶ)
2007年、ジェトロ入構。ジェトロ愛媛(2009~2012年)、インドネシア語研修(2012~2013年)、ジェトロ展示部展示事業課(2013~2015年)などを経て現職。