仙台から世界へ!電子商取引で職人と東北の復興を目指す
ワイヤードビーンズ社長に聞く

2018年11月16日

宮城県仙台市に拠点を構えるワイヤードビーンズは、電子商取引(EC)サイトの作成・運営と、職人が手作りした商品の企画・販売を手掛けている。インターネットが流通の核となることを予測した三輪寛社長が、2009年に会社を設立した。現在、セールスフォース・ドットコム社の「セールスフォース・コマースクラウド」を用いた電子商取引サイト作成・運営においては国内1位、アジア3位のローンチ数シェアを持つ。2017年12月には経済産業省が指定する「地域未来牽引企業」にも選出された。東北から世界進出を目指す、同社のものづくりと電子商取引ビジネスの展望を聞いた(10月23日)。

「電子商取引で売れる商品」を開発

同社は、「IT」と「ものづくり」の2つの事業から構成される。IT事業では電子商取引サイトの作成・運営を行い、ものづくり事業では、職人が手作りしたグラスやマグカップなどの企画・販売を行っている。もともと三輪社長(写真)はIT業界出身で、2000年代にITがマネーゲームに利用されていることに疑問を感じていた。そして、ITを社会に資する方法で使いたいという思いから、地域経済を支える職人の「復興」を目的として、2009年にワイヤードビーンズを立ち上げた。


ワイヤードビーンズの三輪寛社長(ワイヤードビーンズ提供)

同社のものづくり事業の最大の特徴は、「インターネット販売にのせるための商品づくり」だ。三輪社長は2000年代初頭ごろから、インターネットが今後の流通の核となり、インターネット上でモノを販売するビジネスが中心になると予測していた。職人の復興を支えるには「単発で売れるものではなく、売れ続けるものを作る必要」(三輪社長)があり、商品をブランドとして成立させることが重要となる。そのために、同社は商品を工夫している。

例えば、電子商取引では、ブランドとして成立しやすい価格帯があるという。また、商品を販売するターゲットも、百貨店で買い物をしたり、自然食品を好んだりするミドルハイ層に設定した。このように同社は、商品ありきではなく、電子商取引の特徴や顧客を分析した上で、時間をかけて商品開発を行っている。

同社のものづくり事業のもう1つの特徴は、「生涯補償サービス」だ。このサービスは、万が一、商品を壊してしまった場合でも、破片、補償書、商品が入っていた外箱を併せて同社に送れば、1回目は無償で、2回目以降は購入価格を大きく下回る値段で、新しい商品に交換をしてくれるという仕組みだ。三輪社長は「職人が作ったものを飾るのではなく、使ってほしい」と語り、商品が使われ続けることで、顧客と職人の関係が維持されることを期待している。

国内外で評価されるデザイン性

同社は現在、フランスと米国MoMA(ニューヨーク近代美術館)公式ストアに商品を輸出している。国内外でデザイン性は高く評価され、これまで日本国内でグッドデザイン賞を8回、ドイツのReddot AWARDや米国などで3種類のデザイン賞を受賞してきた。この背景には、同社のデザインに対するこだわりと、さまざまな関係者を結び付けるコーディネーション能力がある。

同社のデザイン性は、三輪社長自ら欧米の展示会に参加する中で得た学びが基礎となっている。職人が商品を通じて継承したい思いや、商品の素材と産地の特徴を体現するにはどうすればいいのか、試行錯誤を重ね、社長自ら商品を企画する。そして、電子商取引の特徴や市場のニーズも踏まえつつ、職人と社外のデザイナーと三者で密接に連携しながら、使いやすくて壊れにくい商品づくりを進めていく。

三者で生み出した商品の中でも、「生涯を添い遂げるグラス・タンブラー」は、先駆的かつ優れたデザインの商品を表彰する、ドイツのジャーマンデザイン賞2016特別賞に選ばれた。また、2018年に日本のグッドデザイン賞を受賞した「生涯を添い遂げるマグ」は、現在特に販売に力を入れている商品だ。全国各地の窯元が、その土地の土やうわぐすりを使い、同一デザインでひとつひとつ手作りしているマグカップで、コーヒーなどの香りを閉じ込めることができる設計になっている。さらに、商品の量産体制が整ったことから、今後は欧州、アジア、北米へのさらなる輸出拡大を目指している。


2018年のグッドデザイン賞を受賞した「生涯を添い遂げるマグ」(ジェトロ撮影)

強みは電子商取引のアジア諸国一括展開

同社の事業のもう1つの柱がIT事業で、創業以来一貫して電子商取引サイトの作成・運営を行っている。グラスやマグカップなどの自社商品の販売用にも活用しているが、メインは国内外企業のBtoC(企業対消費者)事業向けのサービスだ。同社の強みは、電子商取引ビジネスをアジア各国・地域へ速度感をもって展開できる点である。企業が電子商取引を通じて海外販売する際、国や地域によって決済や物流の規制・手法が異なるため、進出先ごとに決済や物流のパートナーを探す必要があった。しかし、同社のサービスでは提携先であるセールスフォース・ドットコム社のインフラ活用を含め、一度にアジアの複数国でビジネスを展開することが可能になっている。

同社はこの強みを生かし、顧客ターゲットを資生堂、イプサ、コールハーンなどのグローバルブランドに絞ってビジネスを行っている。三輪社長は「アジア複数国に速度感をもって進出をしたいという、お客さまの戦略についていける企業が求められている」と話し、今後もアジアで競争力を高めるために自社のネットワークを拡大する方針だ。

ITで東北の復興を図る

三輪社長が仙台で同社を立ち上げたきっかけは、自身のUターンだった。もともとIT業界出身でもあり、「東北本社の企業でITエンジニアの希望の光になりたい」という思いがあった。社員の多くも宮城県のほか、福島県・山形県・岩手県などの東北地方出身者が多い。近年では、ベトナムのホーチミン市にある提携先の拠点からITエンジニアを受け入れるなど、外国人材の採用も積極的に行っている。さらに、三輪社長は「東北の復興には正しい経営者が必要」として、会社の枠を超え、東北大学の地域イノベーションプロデューサー塾、地域イノベーションアドバイザー塾で、新規事業創出を目指す経営人材の指導にも当たっている。

東北の地域経済に対する情熱と、電子商取引の特性や市場のニーズを理解したサービスの提供が、同社のビジネスを支えている。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。