インドネシアの通関制度のポイントと最新動向
インドネシアの通関問題(2)

2019年8月9日

インドネシアの通関に関しては、関係する多種多様な法令や規定があり、かつ、分量も多く、複雑な内容も含まれていることから、制度を把握しきれない事業者との間で各種トラブルが発生してきた。通関トラブルを解決するには、まずは根拠法令を読み込んで制度をよく理解することが必要だ。輸出入ビジネス関係者がインドネシアの通関制度への理解を深める一助となるよう、制度のポイントと最新の法令改正動向などを紹介する(注)。

「HSコードは上6桁まで各国共通」と理解の上で税関に確認を

輸入貨物の関税率は統計品目番号(HSコード)によって異なってくるが、税関と輸入者の間でHSコードについての見解が食い違い、税関から追徴課税されるケースが以前はよく聞かれた。これを避けるため、輸入者は事前教示制度の利用が可能だが(2017年4月13日付ビジネス短信参照)、税関に提出が必要な書類やデータの分量、追加データの提出を求められた際に期限内に対応できるかなど、不安を覚える事業者もいるかと思われる。事前教示制度を利用しにくい場合には、各国共通のHS6桁まで絞り込む方法もある。

インドネシアに輸入する予定と同じ貨物を日本に輸入した実績があれば、そのHSコード(9桁)を把握しておけば、手続きがスムーズに進む。そうした実績がない場合は、まず日本の税関のホームページで実行関税率表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を調べ、または税関に問い合わせ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます て把握することを勧めたい。そうすることで、インドネシアの税関ではどのHSコード(8桁)に分類されるか、少なくとも上6桁までは絞り込むことができる。その上でインドネシア税関に確認することで、見解の食い違いを避けることにつながる。

注意したいのは、インドネシアの消費者や国内企業を保護するために、政府は所管省庁、機関を通じて特定の貨物の輸入を禁止・制限している品目があることだ。この輸入禁止・制限品目(LARTAS)に該当するものは5,229品目あり、それぞれ、輸入事業者登録の有無、輸入許可の取得の必要性、国家規格(SNI)認定の取得の有無などに関わる通関方法が定められている。輸入しようとしている品目がLARTASに当たるかの確認は、インドネシア・ナショナル・シングル・ウィンドー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (英語)でHSコードごとに行うことができる。このサイトでは、HSコードごとの関税率も同時に調べることが可能で、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を利用した場合の関税率も表示される。HSコードが分かれば、同サイトを使って各種規制と関税率を知ることができる。

関税未納に対する制裁金は政令で規定

輸入申告時の関税評価額が過少と税関が判断した場合、追徴課税の通知が輸入者に送られるが、これを未納のままにすると、制裁金を科されることにも留意しなければならない。「税関における制裁金の適用に関する政令」で、納付すべき金額に対する未納額の割合(以下、未納率)に応じて制裁金を科すことが定められている。この政令は2019年5月に改正された。

表:制裁金に関する政令の新旧比較表

旧政令(2008年第28号)
未納率 制裁金
25%まで 未納額の 100%
25%から 50%まで 未納額の 200%
50%から 75%まで 未納額の 400%
75%から100%まで 未納額の 700%
100%以上 未納額の1000%
新政令(2019年第39号)
未納率 制裁金
50%まで 未納額の 100%
50%から100%まで 未納額の 125%
100%から150%まで 未納額の 150%
150%から200%まで 未納額の 175%
200%から250%まで 未納額の 200%
250%から300%まで 未納額の 225%
300%から350%まで 未納額の 250%
350%から400%まで 未納額の 300%
400%から450%まで 未納額の 600%
450%以上 未納額の1000%

出所:「税関における制裁金の適用に関する政令2008年第28号」、および「税関における制裁金の適用に関する政令2008年第28号の改正に関する政令2019年第39号」

表のとおり、新政令では未納率に応じた制裁金適用のカテゴリーが細分化されている。また、未納率の算出に当たって制裁金の額を加味する点も改正されている(第6条)。

なお、今回のように既存の規定を改正する場合、改正条文のみが新規定に記載されるので、新旧両方の条文を参照する必要がある〔(旧)政令2008年第28号PDFファイル(83KB)、(新)政令2019年第39号PDFファイル(389KB) 〕 新政令は公布日(5月16日)から60日後に施行(第11条2項)、すなわち、7月15日から施行されている。

知的財産侵害物品の水際取り締まりに関する税関への情報登録を

輸出入に際して知的財産権利者側の利益が保護される体制も整備されてきている。2018年4月、知的財産侵害物品に対する税関による水際取り締まり制度が整備された(2018年8月29日付ビジネス短信参照)。この制度は、商標権または著作権の権利者が関税総局(DGCE)へ知財権の情報登録(Recordation)を行い、侵害疑義物品が入ってきた際に税関からの通知を受け、侵害物品かどうかを確認の上、差し止めを申し立てるというもの。税関への供託金1億ルピア(約100万円、1ルピア=約0.01円)の支払いなど、権利者の費用負担がかかる恐れも指摘されているが、根拠法令(財務大臣規定2018年第40号)の規定ぶりなどから、情報登録(Recordation)そのものには、費用は発生しないことがわかる。侵害疑義物品が輸入され、税関からの通知を受けた場合、権利者はその日から2日以内に当該輸入品の仮差し止めを行うかどうかを税関に応答しなければならない。DGCEはこれらの事務手続きにかかる税関登録アプリ(CEISA)を用意し、権利者側の負担軽減に配慮している。

また、情報登録(Recordation)は電子的に行える。権利者はDGCEのポータルサービス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます からユーザーログインし、「HKI Online」というメニューから情報登録が可能。DGCEによると、侵害疑義物品の確認プロセスでも、物品を発見した税関事務所、物品の数量、写真などの情報がこのポータルサービスまたはEメールで税関から権利者に通知され、権利者は2日以内に仮差し止めを行うかどうか返答するというシステムだ。

権利者は税関への返答によって、知的財産侵害物品の仮差し止めを行う意思を表示した時点で初めて、4日以内に供託金を預託する義務が発生する。供託金は現金ではなく、税関クレジットまたは保険で預託することが可能。

DGCEによると、現時点で日系企業からの情報登録は1件もないという。知的財産侵害物品の水際取り締まりは、単なる権利者の保護、すなわち企業側の利益保護にとどまらず、粗悪な模倣品の流入を阻止することによって国の安心安全を守ることにつながる。日系企業が情報登録によって制度を積極的に活用することで、その一翼を担い、インドネシア税関の取り組みに協力することも、事業活動における意義が大きいと思われる。


注:
本稿の内容は、「インドネシアの通関問題(2019年7月)」(ジェトロ作成)に沿っている。

インドネシアの通関問題

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
佐々木 新平(ささき しんぺい)
1992年、旧大蔵省門司税関入関。1994年に大蔵省へ出向後、国際協力銀行マニラ駐在員(2002~2004年)、インドネシア財務省(2006~2008年)、内閣官房TPP政府対策本部(2014~2017年)などを経て、2018年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
山城 武伸(やましろ たけのぶ)
2007年、ジェトロ入構。ジェトロ愛媛(2009~2012年)、インドネシア語研修(2012~2013年)、ジェトロ展示部展示事業課(2013~2015年)などを経て現職。