日系企業のミョータ工業団地への進出が始まる(ミャンマー)
中国や欧州からも食品・動物飼料メーカーが工場を設立

2019年10月17日

ミャンマー第2の都市であるマンダレーから南西に車で90分ほど走ると、ミョータ工業団地の広大な敷地が見えてくる。ミャンマー最大級の広さを持つ同工業団地は、土地のリース価格が安価で、インフラも比較的整っており、優遇税制や人件費の面でもメリットがある。同工業団地は2013年から開発が始まり、これまでに中国企業や欧州企業が工場を設けているが、最近になって日本企業の進出もみられはじめた。現地取材を基に、同工業団地の最新状況を伝える。

日系企業2社を含む11社が工場を構える

ミョータ工業団地は、開発予定の総面積が4,400ヘクタールと、ミャンマー最大級の規模になっている(図1、2参照)。マンダレー・ミョータ工業開発社(MMID)が開発しており、シンガポールのSingapore Institute of Planners(SIP)がデザインを担当している。最終的には、基礎産業のほか、伝統産業、ハイテク、サービス産業などを誘致し、学校・病院・ホテルなどを有する、25万人が居住する一大工業都市となる計画だ。

図1:マンダレーの位置
マンダレーは、ミャンマーのヤンゴンより北部にあり、マンダレーの南西部にはミンジャンがある。

出所:ジェトロ作成

図2:ミョータ工業団地の周辺地図
マンダレーから南西に車で90分ほど走ると、ミョータ工業団地がある。ミョータ工業団地の西にはセミコン港、東にはマンダレー空港、南西にはミンジャン市街がある。

出所:OpenStreetMapよりジェトロ作成

現在、ミョータ工業団地には11工場が設立されている(建設中を含む)。MMID社の担当によると、「開発済み区画のうち9割は販売済みであり、既に8工場が稼働している。2019年中に3工場が稼働予定となっている」という。入居企業の9割が外資系企業で、日系企業2社(食品加工、金属リサイクル)のほか、オランダ(動物飼料)、中国(電気自動車、ビスケット、製靴)、香港(木材加工)、タイ(セメント)、インドネシア(動物飼料)などの外資系企業が進出している。


ミョータ工業団地の中国系メーカーの工場(ジェトロ撮影)

日系メーカーの工場建設が進む(ジェトロ撮影)

ミョータ工業団地内には内需型、輸出型企業の両方が存在しており、それぞれにメリットがある。内需市場を狙う食品加工や動物飼料のメーカーにとっては、原材料が調達しやすいことがメリットとして大きい。同工業団地は、野菜や果物の農産品が豊富に収穫される地域であるシャン州やピンウールウィンから近い。日系企業も食品加工事業で進出しているほか、中国企業はミャンマー産の米粉を使った煎餅や、同国産小麦を使った菓子を生産している。

他方、輸出型企業では、他の工業団地と同様、委託加工(CMP:Cutting, Making and Packing)形態をとることで、原材料を無税で輸入することができる。中国の靴メーカーは、原材料を無税で輸入して加工し、EU向けに特恵関税(GSP-EBA)を使って製品を輸出している。こうした労働集約的な産業にとっては、人件費の面でもメリットがあり、賃金水準は月額100ドル前後となっている(各種手当を除く)。雇用にあたっては、周辺の農村から従業員を集めることが可能で、MMID社によれば、「企業側で必要な人員や性別・学歴などを決め、農村で募集をかければ問題なく集まる」状況だと言う。現状、工業団地全体では3,000人が働いており、1工場当たりの雇用人数は100人~150人規模の工場が多く、最大で約500人となっている。

ヤンゴンなどへの国内輸送、中国・タイ・インド向け輸送で便利な立地

ミョータ工業団地の最大の強みは、ミャンマーの物流ハブであるマンダレーに直線距離で58キロと近いことだ。マンダレーは、アジアハイウェイ1号線、2号線、14号線の途上に位置する。また、中国=ミャンマー国境(ムセ)からインド洋(チャオピュー深海港)を結ぶ道路と、マンダレー=ヤンゴンを結ぶ道路の交差上にあり、物流の要衝となっている。陸路輸送では、南下すれば首都ネピドーを通ってヤンゴンに到着し、北に行けば中国、東に行けばタイ、西に出ればインドへと出荷可能であり、この地理的優位性を生かした物流ハブとしてのポテンシャルが高い。

マンダレー空港も、同工業団地から33.5キロ、車で1時間程度の距離である。現在、ミョータ工業団地から同空港へはバイパス道路の整備が行われており、その道路はヤンゴン=マンダレー高速道路へもつながる。完工すれば、空港までの時間は20分に短縮される。空路輸送の観点では、2019年8月からマンダレー空港の貨物ターミナルが稼働しており、欧州市場へアパレルなどを輸出する上で、空輸も選択肢に入ってくる。

水上輸送については、工業団地から17.8キロの距離にエヤワディ川のセミコン港がある。同港は、MMID社が2017年4月から整備しており、完工すれば、ヤンゴン港まで5日かかっていた輸送が2.5日に半減する見通しだ。エヤワディ川は満潮と干潮の差で水深に10メートルの差が出るため、フローティング・クレーンが導入される。すでに試験的にオペレーションが開始されており、ミョータ工業団地に入居するメーカーが使う原材料の荷揚げが行われている。現状、輸出入を行っている入居企業はトラック輸送で対応しているが、今後、物量が増えれば、水上輸送の利用が進む可能性がある。


セミコン港でのコンテナ荷揚げ(MMID社提供)

工業団地内インフラも比較的良好

電力や水などのインフラも比較的整っている。MMID社は「電力インフラは完備しており、電力供給も安定している。水の供給についても、エヤワディ川を水源にした豊富な給水がある」と胸を張る。同社の説明によれば、ミャンマーでは水力発電が主な発電源で、マンダレーは北部の発電所に近いため、ヤンゴンに比べて電力供給を受ける上で有利だと言う。また、周辺のガス火力発電所やシンガポール企業が開発する発電所の電力網にもつながる予定がある。MMID社は、自家発電設備を不要と案内しているが、自社判断でジェネレーター、ソーラーパネルを設置する企業もある。

生活面では、敷地内には工場のほか、駐在員や従業員向けの住宅・寮が建設されており、ゴルフ場もある。また、車で30分のところに、商業施設や病院があるミンジャン市がある。すでに生活している外国人駐在員や従業員もいるという。今後、工業団地内で商業エリアやインターナショナルスクールも開発される予定になっている。

土地リース価格・税制上も競争力がある

ミョータ工業団地の長期リース価格(70年間)は、投資が集中するヤンゴン管区よりも低く、1平方メートル当たり33ドルとなっている。税制上の優遇も厚く、商業生産を開始した日から7年間の法人税免税が享受できる。通常、マンダレーでの法人税免税期間は3年間~5年間だが、ミョータ工業団地だけの特別な優遇措置となっている。また、建設資材や設備機械の輸入に関する関税や各種税金が免除される優遇措置もある。

一方、進出上の問題点としては、工場設立の認可に時間がかかる点が挙げられる。MMID社によると、ミャンマー投資委員会(MIC)の認可を得るまで60日程度かかっている。500万ドルを下回る投資であれば、マンダレー管区の権限で認可が出せるが、それ以上の投資ではMICでの認可となるため、書類の提出から3カ月程度を必要とする。また、MMID社がサポートを行ってはいるが、ティラワ工業団地で提供されるようなワンストップ・サービス・センターは存在しない。日本語で意思疎通が可能な担当窓口も存在しない。

MMID社によれば、日系企業の1社は、最初の視察から1年間で工場建設まで進んだという。最近になって、複数の日本企業が工場の建設候補地として訪問しているほか、米中貿易摩擦の影響で、中国に工場を持っていた中国企業や欧米企業が視察に来ていると言う。輸出加工メーカー、農産品加工・食品メーカーのほか、地理的な優位性を利用した物流企業・商社などを中心に、今後も同工業団地への入居が進みそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所
松田 孝順(まつだ たかのぶ)
2011年、南都銀行入行。
2018年、ジェトロ大阪本部。
2019年4月から、ジェトロヤンゴン事務所勤務(出向)。
執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所
細沼 慶介(ほそぬま けいすけ)
2001年、経済産業省入省。2019年からジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(出向)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2009~2012年)、ジェトロ大阪本部ビジネス情報サービス課(2012~2014年)、ジェトロ・カラチ事務所(2015~2017年)を経て現職。