日系商社が見るポーランド経済
三菱商事ワルシャワ支店長に聞く

2019年10月3日

2017年以降、4%を超える高い経済成長率を維持しているポーランド。日本企業の同国への注目は日に日に高まってきており、ジェトロ・ワルシャワ事務所を訪問する日本企業も増加傾向にある。日系企業から見たポーランドやポーランド周辺地域の強みや課題について、三菱商事ワルシャワ支店長の城芳久氏に聞いた(9月2日)。

経済成長を牽引した欧州構造投資基金(ESIF)は、今後減額される可能性も

質問:
ポーランドの強みは何か。
答え:
(1)地理的優位性、(2)人材の優秀さ、(3)市場のポテンシャルである。
(1)の地理的優位性については、ドイツやロシアといった隣接する大国があり、かつ、それらの国との間に大きな渓谷や山脈といった、移動の妨げになるものは存在しないため、スムーズな物流を行うことができる点が挙げられる。欧州の東と西を結び、中国から欧州への窓口でもある。ポーランドは地理的な強みを活用、拡大するため、EUからの構造投資基金(注)の多くをインフラや物流網の整備に利用している。現在、ポーランドはこうしたインフラや物流網を活用し、EU以外の国とも活発に貿易を行っている。
加えて、ポーランドは国土のほとんどが平原であり、農地としてだけでなく、工業用の土地としても利用しやすい。さらに現在、ポーランドでは、生産拠点の設立に当たっては、工場用地を選定後にインセンティブ(補助金)を提供する政策がとられているため、政府によってあらかじめ指定された経済特区に工場を建設する必要がないことも魅力だ。
(2)の人材については、隣国ドイツの影響や社会主義時代の分業体制により、モノづくりの文化が長い間培われてきたことが強みだ。ポーランド人は器用で勤勉、ライン工程作業でも真面目に丁寧に手を動かす姿が見られる。加えて、ポーランド人は言語能力にたけており、多くの人が流ちょうな英語を話す。中には、日本語を話せる人もいる。そのような優秀な人材を、西欧諸国と比較して安価に雇用できるというのは、ポーランドの強みと言えるだろう。
(3)の市場のポテンシャルについては、ポーランドの人口は約3,800万人、1人当たりのGDPは1万5,000ドルと、ポーランドだけでも比較的大きな市場であることが挙げられる。今後、ポーランド人の所得が増えていけば、ポーランドの市場はさらに拡大するだろう。
質問:
ポーランドの課題は何か。
答え:
(1)エネルギー、(2)欧州構造投資基金(ESIF)の縮小、(3)人材関連の問題の3つが挙げられる。その中でも最大の問題はエネルギー依存の問題だ。
ポーランドの製造業を支えてきたのは、ポーランド国内で採掘できる安価で良質な石炭や、ロシアからパイプラインで輸入する石油や天然ガスである。現在、ポーランドは一次エネルギーの50%程度を石炭に依存しているが、EUの環境方針などのため、将来的に石炭への依存度を縮小していく必要がある。ポーランド政府は風力発電を促進する取り組みを進めているものの、陸上風力に関しては設置地区の問題もあり、これ以上増やすのは困難と思われる。洋上風力に関しては、バルト海に設置スペースの余裕があるものの、設置にはコストがかかる。
石油や天然ガスについては、約8割をロシアに依存している。現在、ポーランドはロシアからのエネルギー供給を減らし、液化天然ガス(LNG)の導入を試みているが、脱石炭・脱ロシアによるエネルギー調達はエネルギーコストを上昇させ、結果として強みである製造業にも影響を与える。
(2)のEUからの構造投資基金の縮小については、英国のEU離脱の成り行きにもよるが、構造投資基金の総額が少なくなり、今後、バルカン半島にあるEU加盟国の発展途上の国に手厚く支給されるようになるだろう。そのため、ポーランドへの支給額は今までより減る恐れがある。
(3)の人材に関する問題については、ポーランドでは年率6%ほどのペースで賃金が上昇していることがあり、製造業への影響も無視できなくなるだろう。さらに、グローバルな考え方を持つポーランドの若者も多く、給与などの条件が良ければ、ドイツや英国、米国で仕事を見つけ、ポーランドを離れてゆく。現在、ポーランド政府は人材流出を食い止めようとさまざまな取り組みを行っているが、ポーランド企業が、海外から戻ってきたポーランド人に対して満足するような処遇を与えられるかも課題だと思う。
ポーランド人の人材流出を、今はウクライナ人労働者で補填(ほてん)しているが、2020年以降はドイツでもウクライナ人労働者を受け入れる動きがあると聞いており、今後、ウクライナ人労働者がドイツなどの国に流れると、ポーランドでの人材確保や賃金上昇の問題が悪化する。

自動車産業がメインだが、消費財市場のポテンシャルも

質問:
今後のポーランド経済をどう見るか。
答え:
EU加盟以降、ポーランドは順調に成長を続けている。特に、リーマン・ショック(2008年)の時もEU各国の中で唯一、プラス成長を維持したことは、ポーランド経済の強さの象徴として語られることが多い。他方、ポーランドでは国有企業の民営化があまり進んでいなかったため、影響が小さかったという意見もあり、いまだ民営化が進んでいない中で、今後も4~5%台の高い成長率をキープできるのか疑問だという声も聞かれる。しかし、ポーランドでは平均賃金や購買力が安定して上昇しており、これは確実に経済発展しているという証しといえる。金融面でも、長期金利が安定しているのに加えて、外国為替でもリーマン・ショック以降、ポーランド・ズロチは安定している。
ポーランドの中心産業は自動車産業だが、今後は消費市場としても魅力が増していくだろう。現在、ポーランドにはドイツやフランス、英国などの西欧式ライフスタイルが流れ込んできている。その中で、購買力の上昇に支えられて消費財への需要が高まり、消費財関連のビジネスチャンスが拡大していく可能性もある。
質問:
ポーランドの周辺国についてどう考えるか。
答え:
中・東欧地域を市場としてみると、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランドなどの中・東欧諸国を合計すれば、市場規模は約1億人となる。ウクライナを含めればさらに大きくなる。これらの国々を個別の市場として考えるのではなく、「中・東欧市場」という巨大な市場として捉えることができると、新たなビジネスの展開も見えてくるものと思う。

インタビューの様子。右が三菱商事ワルシャワ支店長の城芳久氏、
左が清水幹彦ジェトロ・ワルシャワ事務所長。(ジェトロ撮影)

注:
欧州地域開発基金(ERDF)や欧州社会基金(ESF)、結束基金(CF)など、5 つの基金の総称。EU の成長戦略「欧州 2020 戦略」に基づき、加盟国の経済成長を支援することを目的とする。
執筆者紹介
ジェトロ・ワルシャワ事務所
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課を経て、2019年8月から現職。