日本産高品質魚介類に熱い視線(フィリピン)
輸入卸売会社の活用がカギ

2019年10月2日

フィリピンでも日本食の人気が高まっている中、日本食市場の広がりを見据えた輸入卸売業者が、日本産魚介類・水産加工品の取り扱いの拡大を目指している。本稿では、フィリピンにおける日本産魚介類の市場可能性と合わせて、現地輸入業者に実施したインタビュー結果を報告する。

都市部では日本の高級魚介類に人気の可能性

フィリピン料理は鶏肉や豚肉を使った煮物や炒め物が多いが、煮物や揚げ物、香草焼き、燻製(くんせい)にした魚介類も伝統的に食されてきた。サバビー、ティラピア、ムロアジはフィリピンを含む東南アジアで人気のある安価な魚である。サバビーの英語名はミルクフィッシュといい、その煮物は脂ののったサバのような淡泊な味である。また、ティラピアは透き通った白身、あっさりした味わいがタイに似ていることから、タイの代用として日本では回転ずしなどで販売されている。フィリピンではガロンゴンと呼ばれるムロアジは、イワシに似たアジの一種であり、香草焼きや燻製にして食されることが多い。

表1は、1人当たりの肉類・魚介類の推定消費量を一覧にしたものである。都市部と農村部の両方において、豚肉や鶏肉の消費量が魚介類に比べ多い一方で、エビとムール貝以外の魚介類は牛肉よりも多く消費されている。また、マグロを除き、魚介類は農村部よりも都市部で多く消費されている。マグロの消費量が農村部で多いのは、フィリピン全土の低所得者向けを含むスーパーマーケットなどで豊富な種類のツナ缶が販売されており、安価な食材として消費されていることが考えられる。高所得者が集積しているとみられる都市部では豚肉や鶏肉が多く消費されている一方、サバやタイの味に似たサバビーやティラピアも多く消費されており、フィリピンの都市部における日本の高級魚介類の市場可能性を示している。

表1:1人当たりの肉類・魚介類の年間推定消費量 (単位:キログラム)
品目 都市部 農村部 全国
豚肉 12.872 7.250 8.900
牛肉 1.273 0.948 1.043
鶏肉 13.173 7.714 9.315
サバビー 6.449 3.637 4.463
ティラピア 6.068 4.248 4.782
ムロアジ 5.614 5.071 5.230
マグロ(全ての種類) 1.909 3.047 2.713
エビ 0.956 0.655 0.743
ムール貝 0.632 0.280 0.383

※フィリピン全土から抽出されたサンプル調査。2015年8月から2016年5月にかけて実施され、1万2,851世帯が対象。
出所:フィリピン統計庁データからジェトロ作成

日本からの魚介類・水産加工品の輸入は、第4位

表2は、日本から農林水産物・食品別のフィリピンへの輸出額の推移を一覧にしたものである。2013年から2018年まで、一貫して輸出額全体に占める魚介類のシェアが高い。一方、フィリピンの魚介類((HSコード03)の輸入をみると、2013年から2018年まで一貫して日本は4位で、中国、ベトナム、パプアニューギニアに続く。2018年の日本のシェアは6.4%にとどまる(出所:Global Trade Atlas)。

表2:農林水産物・食品別の日本からフィリピンへの輸出額の推移 (単位:1,000USドル)(-は値なし)
HSコード 品目 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
03 魚介類 21,212 14,976 21,332 23,066 21,410 33,810
21 各種調整食料品 2,019 2,699 3,382 6,367 6,219 7,724
02 肉類 57 180 398 700 654
08 果物 26 72 49 203 242 244
04~23
(08と21を除く)
その他 6,887 9,156 11,694 13,361 12,908 16,660
合計 30,144 26,960 36,637 43,395 41,479 59,092

出所:Global Trade Atlas データからジェトロ作成

表3は、魚介類・水産加工品の日本からフィリピンへの輸出額の推移を、一覧にしたものである。「魚(冷凍)」(HSコード0303)の輸出額が他の品目を圧倒しているが、Global Trade Atlas データによると、2018年の輸出額のうちサバが約56%、マグロが約24%、イワシが約12%を占める。フィリピンでは前述したマグロを使ったツナ缶と同様に、サバ、イワシなどを原材料とした豊富な種類の缶詰が製造・販売されており、日本から輸入された「魚(冷凍)」にも、加工原料用の安価な魚も含まれていると推察される。一方で、鮮度・品質維持のため生鮮・冷蔵で輸入された、刺し身用などの高級魚を含む「魚のフィレその他の魚肉」(HSコード0304)の2018年の輸出額は2013年と比べて約5倍に増加している。また、カキ・ホタテ・ハマグリ・イカなどを含む「軟体動物、水棲無脊椎動物またはその粉等」(HSコード0307)のそれも約2.5倍に増加している。さらに、魚の加工品を含む「魚(調整しまたは保存に適する処理をしたもの)」(HSコード1604)は約3.7倍、カキ・ホタテ・ハマグリ・イカなどの加工品を含む「保存用に処理された甲殻類、軟体動物、その他の水棲無脊椎動物」(HSコード1605)は6倍に増加し、日本産魚介類の需要が各品目で高まっている。

表3:魚介類・水産加工品の日本からフィリピンへの輸出額の推移 (単位:1,000USドル)
HSコード 品目 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
0303 魚(冷凍) 20,925 14,826 21,308 22,913 20,946 33,232
0304 魚のフィレその他の魚肉(生鮮、冷蔵、冷凍) 58 33 3 74 352 304
0307 軟体動物、水棲無脊椎動物またはその粉等 94 35 16 54 68 237
1604 魚(調整しまたは保存に適する処理をしたもの) 25 31 14 35 82 93
1605 保存用に処理された甲殻類、軟体動物、その他の水棲無脊椎動物 10 3 31 119 61 60

出所:Global Trade Atlas データからジェトロ作成

帰国後の訪日客も日本産水産物の需要拡大に貢献

サケやサバは、日本食レストランなどの外食産業での需要がみられ、一部高級スーパーマーケットでも販売されている。特に、サケやマグロは刺し身のネタとしてフィリピンでも人気が高く、数多くの日本食レストランで定番のメニューとなっている。また、高級スーパーマーケットでも刺し身のパックやシメサバ、サンマのパックが販売されている。日本政府観光局(JNTO)によると、フィリピンの訪日外客数は2012年に8万5,000人だったのに対し、2018年には50万3,000人と約6倍に増加している。訪日の際、本格的な日本料理店で食事をする機会があり、それが帰国後に日本食のさらなる普及につながっていると考えられる。フィリピンにおける日本食の普及によって、日本産魚介類・水産加工品の需要は今後も拡大すると考えられる。


高級スーパーマーケットのすしコーナー(ジェトロ撮影)

輸入拡大には証明書の円滑な取得が必要

フラス・コープは、2010年設立の肉類・魚介類の輸入卸売業者だ。欧米の牛肉・豚肉・鶏肉の取り扱いが売り上げ全体の7割で、魚介類・水産加工品の割合が3割だ。魚介類・水産加工品は、日本からの輸入が4割を占める。フィリピンにおける日本食の人気の高まりを受け、日本の魚介類・水産加工品の取り扱いの拡大を目指している。2019年8月に開催した「ジェトロ食品輸出商談会 atアグリフードEXPO/シーフードショー」にもバイヤーとして参加した。

フラス・コープ社長のマニュエル・イグナシオ・サンタクルス氏と副社長のティモシー・デラ・カルザダ氏に、日本産魚介類・水産加工品のフィリピン市場のポテンシャルや課題、開拓に向けた取り組みなどについて聞いた(2019年9月9日)。


向かって左が社長のマニュエル・イグナシオ・サンタクルス氏、
向かって右が副社長のティモシー・デラ・カルザダ氏(ジェトロ撮影)
質問:
日本産の魚介類・水産加工品を取り扱うようになったきっかけは。
答え:
2016年に、販売先の高級スーパーマーケットから取り扱いを相談されたことがきっかけだった。高級スーパーマーケットは、日本食の人気の高まりを受け、ポテンシャルを敏感に感じ取ったのだろう。当時は、日本産の魚介類・水産加工品は全く市場には出回っておらず、3年かけて市場をつくりあげてきたと自負している。
質問:
フィリピン市場にポテンシャルのある日本の魚介類・水産加工品は何か。
答え:
日本から輸入している魚介類・水産加工品の7割はサケだが、ノルウェー産のサケと価格競争が激しくなっており、いずれ売り上げは頭打ちになると懸念している。売り上げが伸びているのがサンマとサバ。両者はフィリピン近海では獲れない魚のため、今後も人気が高まっていくだろう。また、ホタテやオイスターはフィリピン近海では獲れるものの、日本のそれよりも小さく、味も悪い。日本産のホタテやオイスターはポテンシャルがあると考えており、サプライヤーの開拓を進めたい。水産加工品はシメサバの扱いが多いが、フィリピン人の舌に合うと思われるタコわさび、イカめんたいなどの取り扱いも増やしたい。
質問:
主な販売先は。
答え:
高級スーパーマーケットが主要な取引先。これまでは高級スーパーマーケット1社だけであったが、最近もう1社、新規顧客の開拓に至った。2021年に開業予定の日系高級デパートとも商談を進めている。高級ホテルやレストランにも販売しているが、売り上げ規模はわずかである。
質問:
日本産の魚介類・水産加工品を輸入する際、苦労していることはあるか。
答え:
魚介類を輸入する場合、農務省漁業水産資源局(BFAR:Bureau of Fisheries & Aquatic Resources)からの輸入許可証の取得が必要だが、比較的簡単に取得することができる。しかしながら、水産加工品を輸入する場合は、保健省(DOH:Department of Health)の食品薬事管理局(FDA:Food and Drug Administration)から商品それぞれについて、商品登録証明(CPR:Certificate of Product Registration)を取得することが必要になる。商品によっては取得するまでに6カ月以上かかることもあり、苦労させられている。
質問:
魚介類・水産加工品の輸出を目指すサプライヤーへのアドバイスは。
答え:
魚介類・水産加工品の種類に応じた輸入実務に慣れている、われわれのような輸入業者を通じて行うことが現実的。特に水産加工品は、保健省の食品薬事管理局から営業許可(LTO:License to Operate)を有する輸入業者でなければ、フィリピンに輸入することはできない。商品については、どのような商品なのか、食べ方など買い物客に一目で分かるよう、パッケージや裏面ラベルの英文化や工夫が非常に重要。また、賞味期限が1年以上あるものが望ましい。

フラス・コープ社が納品している商品(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
石見 彩(いしみ あや)
1999年、経済産業省関東経済産業局に入局。経済産業省貿易振興課に出向(2001年~2003年)、関東経済産業局国際課(2003年~2004年)、イリノイ大学シカゴ校に留学(2004年)、経済産業省経済連携課に出向(2005年~2007年)、ジェトロ東京本部サービス産業部サービス産業課出向(2016年~2018年)などを経て2018年6月より現職。