拡大するメキシコの動画ネット配信(OTT)市場
2022年には中南米最大の市場規模に

2019年10月18日

メキシコの動画ネット配信(通称Over the Top:OTT)市場が拡大を続けている。通信市場関連の調査会社であるThe CIU(The Competitive Intelligence Unit)によると、メキシコにおけるOTTサービスの世帯普及率は2018年に24.8%に達し、全世帯の約4分の1が利用している。PWCによると、メキシコのOTT市場規模は今後も年平均で17.9%拡大し、2022年には10億ドルを超え、ブラジルを抜いて中南米最大のOTT市場になる見通しだ。米国系ネットフリックスの市場シェアが8割以上で圧倒的だが、近年は新規参入も多く、競争は激しさを増している。

世帯普及率は過去5年間で約20%ポイント上昇

The CIUが9月10日に発表したレポートによると、2018年のメキシコにおけるOTTサービスの世帯普及率は24.8%で、過去5年間で約20%ポイントも上昇した。オーディオビジュアル・コンテンツの視聴サービス手段として、ここ数年間は衛星テレビやケーブルテレビなど有料テレビの普及率が低下傾向にあるのと対照的に、OTTのそれは右肩上がりで推移している。ネットフリックスがメキシコでサービスを開始した2011年時点で、OTTの普及率は有料テレビの1割にも満たなかったが、2018年には5割を超えている。

図1:メキシコにおけるAVコンテンツ視聴サービスの世帯普及率
地上波テレビ放送の世帯普及率は2011年に94.7%、2012年に94.9%、2013年に94.9%、2014年に94.9%、2015年に93.5%、2016年に93.1%、2017年に93.2%、2018年に92.9%。有料テレビ放送の世帯普及率は2011年に30.4%、2012年に32.2%、2013年に36.7%、2014年に38.1%、2015年に43.7%、2016年に52.1%、2017年に49.5%、2018年に47.3%。OTTの世帯普及率は2011年に1.6%、2012年に2.3%、2013年に5.3%、2014年に9.0%、2015年に14.7%、2016年に20.1%、2017年に22.6%、2018年に24.8%。参考データとしてインターネットの世帯普及率は2011年に23.3%、2012年に26.0%、2013年に30.7%、2014年に34.4%、2015年に39.2%、2016年に47.0%、2017年に50.9%、2018年に52.9%。

出所:国立統計地理情報院(INEGI),The Competitive Intelligence Unit(The CIU)

OTTがメキシコの家庭に浸透した背景には、インターネットの普及拡大がある。インターネットの世帯普及率は2011年に23.3%だったものが、2018年には52.9%と5割を超えている。ただし、2018年にインターネットが利用できる世帯の約半数(46.9%、5年前の2013年時点では17.2%)がOTTの利用契約をもつことを考慮すると、インターネットの普及の伸びを大きく上回る伸びを示していることが分かる。インターネットとOTTの普及の双方に大きく貢献しているのが、スマートフォンの普及だ。The CIUの8月19日付レポートによると、2019年第2四半期の人口比普及率は88.7%に達し、前年同期比で3.8%ポイント拡大している。The CIUによると、OTTのサービス利用者の98%がスマホで動画を視聴しており、コンピュータの24%を大きく上回る。

PWCが2019年5月に発表したGlobal Entertainment & Media Outlook 2019-2023によると、メキシコのOTTサービス市場規模は2019年以降も年平均17.9%増加し、2022年にはブラジルを抜いて中南米最大の市場規模(10億9,100万ドル)となり、2023年には12億5,100万ドルの水準に達すると予測されている。

図2:メキシコのOTT市場規模の見通し(2019~2023年)
2018年の実績が5億4,900万ドルだったものが、2019年に6億9,000万ドル、2020年に8億2,400万ドル、2021年に9億4,900万ドル、2022年に10億9,100万ドル、2023年に12億5,100万ドルに達する。

出所:PWC, Global Entertainment & Media Outlook 2019-2023

OTTサービス利用者の半数が毎日視聴

メキシコ連邦通信院(IFT)が2019年3月に実施し、9月17日に結果を発表した「2019年第1回通信サービス利用者アンケート調査」によると、アンケート調査の対象となった全国の5,000人超の成人(18歳以上)のうち、OTTサービスを利用していると回答した比率は30.0%だった(表1参照)。年齢層別に利用率をみると、18~24歳の利用率が40.9%と最も高く、25~34歳が33.1%と続く。

表1:年齢層別OTTサービス利用率(2019年3月調査時点)
年齢層 利用している 利用していない 知らない/無回答
18~24歳 40.9% 59.1% 0.1%
25~34歳 33.1% 66.7% 0.2%
35~49歳 28.4% 71.4% 0.2%
50歳以上 21.4% 77.9% 0.7%
全体平均 30.0% 69.7% 0.3%

出所:連邦通信院(IFT),Primera Encuesta 2019

OTTサービス利用者のサービス利用頻度のデータをみると、全体では約半数(51.5%)が毎日サービスを利用していると回答しており、週に1回が40.1%と続く(表2参照)。年齢層別にみると、25~34歳の利用頻度が最も高く、3分の2が毎日利用していると回答している。

表2:年齢層別OTTサービス利用頻度(2019年3月調査時点)
年齢層 毎日 週に1回 半月に1回 月に1回 利用なし 無回答
18~24歳 48.6% 43.7% 5.2% 2.4% 0.1% 0.1%
25~34歳 66.6% 29.8% 0.8% 2.0% 0.8% 0.0%
35~49歳 44.6% 44.5% 5.6% 2.4% 1.8% 1.0%
50歳以上 45.5% 42.5% 12.0% 0.0% 0.0% 0.0%
全体平均 51.5% 40.1% 5.4% 1.9% 0.8% 0.3%

出所:連邦通信院(IFT),Primera Encuesta 2019

1日当たりの平均利用時間をみると、全体では61.7%が2時間以下と回答しており、3~5時間が27.2%と続く(表3参照)。しかし、25~34歳の年齢層でみると、3~5時間が33.4%に達しており、利用頻度のデータからも分かるように、同年齢層にOTTサービスのヘビーユーザーが多い。

表3:年齢層別OTTサービス1日当たり利用時間(2019年3月調査時点)
年齢層 2時間以下 3~5時間 5時間超 無回答
18~24歳 64.8% 25.4% 7.2% 2.7%
25~34歳 54.9% 33.4% 7.2% 4.5%
35~49歳 62.1% 24.9% 6.9% 6.1%
50歳以上 66.4% 24.7% 1.0% 7.9%
全体平均 61.7% 27.2% 6.0% 5.1%

出所:連邦通信院(IFT),Primera Encuesta 2019

1カ月当たりの消費額のデータをみると、全体で39.3%が200ペソ(約1,100円、1ペソ=約5.5円)未満であり、200~400ペソが29.0%と続く(表4参照)。経済力を反映してか、35~49歳の年齢層で400ペソ超の消費額が1割を超えている。

表4:年齢層別OTTサービス月間消費額(2019年3月調査時点)
年齢層 200ペソ未満 200~
400ペソ
400ペソ超 無回答
18~24歳 45.4% 33.6% 4.6% 16.4%
25~34歳 44.0% 32.1% 5.6% 18.3%
35~49歳 41.4% 25.2% 10.9% 22.5%
50歳以上 19.8% 24.5% 7.6% 48.1%
全体平均 39.3% 29.0% 7.3% 24.4%

出所:連邦通信院(IFT),Primera Encuesta 2019

2019年は新規参入が相次ぎ、競争は激化傾向

メキシコにおけるOTTサービスの市場シェアをみると、最も大きいのは2011年に最初にメキシコ市場に参入したネットフリックスであり、The CIUによると、2019年第1四半期の市場シェアは80.8%に達する(図3参照)。第2位はメキシコ有数の資産家であるカルロス・スリム氏が所有する、通信大手アメリカ・モビルが展開するクラロ・ビデオ(Claro Video)であり、2012年に市場参入、2019年第1四半期の市場シェアは14.6%である。クラロ・ビデオのシェアはネットフリックスに遠く及ばないものの、メキシコを含めて中南米16カ国でサービス展開し、中南米全体では約20%の市場シェアを持つため、中南米市場におけるコンテンツ・バイヤーとしては重要な存在だ。国内市場シェア第3位は地上波テレビ放送最大手のテレビサ(Televisa)が所有するブリム(Blim)であり、2016年に市場参入、現時点で2.7%のシェアを有する。第4位は米国系HBO Goでシェアは1.5%、残りを米国系アマゾン・プライムビデオ(Amazon Prime Video)や、ディズニーに買収されたフォックス・プレミアム(Fox Premium)などが占める。

図3:メキシコのOTTサービス市場シェア
(2019年第1四半期,契約数ベース)
シェアが最大なのはNetflixで80.8%、Claro Videoが14.6%、Blimが2.7%、HBO Goが1.5%、その他が0.4%と続く。

出所:The Competitive Intelligence Unit

2019年に入り、米国系ケーブルテレビ会社スターズ(Starz)が展開するスターズプレイ(Starz Play)や、アップルが展開するアップルTVプラス(Apple TV+)など新規参入が相次ぎ、OTT市場における競争は激しさを増している。プライムビデオを展開しているアマゾンは2019年10月8日、コンテンツ単体の販売ではなく、ドラマやアニメ、スポーツなどのチャンネル契約を可能にするプライムビデオ・チャンネルのサービスをメキシコでも開始した。アマゾンが現時点でプライムビデオ・チャンネルを展開しているのは、米国、英国、日本、ドイツ、カナダ、メキシコだけであり、中南米ではメキシコが初となった。アマゾンのジョシュ・マカイバー(Josh McIvor)プライムビデオ・チャンネル国際展開部長は「近年のメキシコのOTC市場の成長は目覚ましく、ポテンシャルの高い市場であり、アマゾンにとって非常に魅力的に映った」と語っている(「レフォルマ」紙10月8日)。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所 次長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部(1998~2002年)、海外調査部中南米課(2002~2006年)、ジェトロ・メキシコ事務所(2006~2012年)、海外調査部米州課(2012~2018年)を経て2018年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。