コロナ禍でも進む天然ガス開発(モザンビーク)
中長期的に経済成長が見込まれ、インフラや農林水産業などに商機

2020年9月16日

2010年にモザンビーク北部カーボデルガド州の沖合ロブマ堆積盆地で、世界最大級の天然ガスの埋蔵量が確認された。埋蔵量は合わせて125兆立方フィートを超える可能性がある。

天然ガス開発で経済成長が見込まれる

イタリアのエネルギー大手エニ(ENI)が開発を主導するエリア4コーラル・サウス鉱区は、2022年に生産が開始される見込みだ。また、フランスのトタルや三井物産が参画するエリア1鉱区は、2024年の生産開始をめどに開発が進められている。モザンビークを代表する国家的プロジェクトである上に、東北電力や東京ガスなどとの売買契約が締結されている。日本のエネルギー安全保障にも貢献する重要なプロジェクトだ。2020年7月には、国際協力銀行(JBIC)をはじめ約30の輸出信用機関(ECF)や民間金融機関がエリア1開発のための149億ドル規模の国際協調融資を締結した(2020年7月31日付ビジネス短信参照)。JBICと邦銀を合わせたアフリカ向け融資案件で過去最大規模となる。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続く中でも、トタルはエリア1の開発スケジュールに変更はないと3月に発表している。天然ガス開発が、同国の経済成長の起爆剤となることが期待される。南アフリア共和国の大手銀行スタンダード・バンクのエコノミスト、ファウジオ・モッサ氏は、エリア4で生産が始まる2022年第2四半期(4~6月)の前年同期比実質GDP成長率を5.4%、2023年第2四半期には同6.3%に達すると予測している(2020年7月31日付ビジネス短信参照)。

インフラ開発や農林水産業にもビジネスチャンス

その他の分野にもビジネスチャンスがある。1人当たりGDPが500ドル未満(世界銀行2019年)と低所得国に位置付けられるモザンビークにとって、外国政府・企業の支援や参画によるインフラ整備は政府の中でも最優先事項だ。特に、北部のナカラ港と内陸国のマラウイやザンビアを結ぶ「ナカラ回廊」の整備には、日本政府も2014年に700億円規模の支援を表明した。三井物産とブラジル資源大手バーレが同回廊で整備・運営を行うナカラ鉄道港湾運営事業には、JBICや日本のメガバンク3行などによる総額27億3,000万ドル規模の国際協調融資が実施されている。


ナカラ回廊の拠点となるナカラ港石炭ターミナルと鉄道の様子(ジェトロ撮影)

モザンビークには、ODAを通じたインフラ開発プロジェクトが多く実施されてきた。そのため、進出する日系企業は22社と、サブサハラ・アフリカ地域の中では上位に位置する(2019年ジェトロ調べ)。ジェトロも2017年にアフリカ8カ所目の事務所として首都マプトに拠点を設置し、2019年8月にはモザンビーク日本商工会も設立された。

日本の総合商社や建設企業などが注目しているのは、IMFによる融資再開に向けた協議の進展だ。2016年に発覚した総額20億ドルの政府の「非開示債務問題」により、IMFをはじめ主要援助国からの財政支援が凍結され、JICAによる新規の有償資金協力プロジェクトも停止している。しかしその後、政府は財政再建やマクロ経済の安定化に努め、IMFは4月にモザンビークに対して、新型コロナ対策による財政負担の軽減として3億9,000万ドルのラピッド・クレジット・ファシリティー(RCF)による融資を決定した。IMFが政府の対応を一定程度評価していることを示唆していると言えそうだ。

資源・インフラ開発プロジェクト以外にも、モザンビークにはビジネスチャンスが眠る。日本の約2倍の国土、南北2,700キロにも及ぶ海岸線を有するモザンビークには農林水産業のポテンシャルがある。日本向けにゴマ油やハマグリ、タコなども輸出され、関連日本企業も現地に進出している。国内の課題としては、広大な国土やポテンシャルを持ちながら、主要穀物以外の食料品を隣国南アなどからの輸入に頼らざるを得ないことだ。このことから、農業開発と食料生産拡大につながる肥料や農業資機材などの潜在的需要があり、日本企業にとってのビジネスチャンスにもなるだろう。農業ビジネス以外にも、今後の中長期的な同国の経済成長と、それに伴う消費の拡大が消費財をはじめ日本企業にとって新たな商機となり得る。

与野党間の和平合意が問題解決への展望を開く

他方、北部の治安悪化は天然ガス開発を脅かす懸念事項となっている。天然ガス開発が進むカーボデルガド州では2017年10月以来、イスラム系を自称する武装勢力が同州北東部で住民や民間車両、警察署などを襲撃する事件が頻発する。2019年6月には、イスラム国(ISIS)も関与を主張するようになった。

北部治安問題には近隣諸国のみならず、日本をはじめとする先進諸国の間でも警戒が高まっている。モザンビーク政府も、治安部隊や警察による警備、対策を強化する。一方、北部地域に恒久的な平和と安定をもたらすには、地域一帯の経済、社会開発が不可欠と認識。天然ガス開発関連企業と連携し、官民一体となって包括的な開発を進める方針だ。政府による治安問題解決への取り組みには、2019年8月に与党のモザンビーク解放戦線(FRELIMO)と野党のモザンビーク民族抵抗運動(RENAMO)との間で結ばれた和平合意の進展がポイントとなるとみられる。

1975年にポルトガルからの独立した後、1977年から始まった政権与党FRELIMOと反政府ゲリラRENAMO間の内戦は、東西冷戦下に諸外国の介入を招いた。内戦自体は、1992年に停戦・和平合意が結ばれ終結した。しかし、その後も与野党間の武装衝突はたびたび発生した。2014年の大統領選を前に2度目の停戦合意が与野党間で行われたものの、RENAMOがかねて要求していた地方分権化が進展しないことや、選挙の透明性に対する不満などから、武力紛争を再開させた。和平合意に向けた与野党間の協議は国際社会のサポートを受けながら継続し、前回大統領選を目前に控えた2019年8月1日に停戦協定が、同月6日に3度目の和平合意が両党間で約束された。

英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)は、2019年の停戦・和平合意実現の要因を分析している。その1つは、北部の治安情勢悪化で、FRELIMOとRENAMO双方に平和的かつ民主的なプロセスで問題解決に向けた政治的議論を推し進める必要性を認識させたことだ。2020年8月6日にチャタムハウスが開催したウェビナー「和平、停戦合意からの1年」には、2019年の和平プロセスに調停者として仲介したミルコ・マンゾーニ国連モザンビーク特命大使や、ネハ・サングリチカ和平プロセス上級アドバイザーらが、講師として登壇した。2人は和平合意からの1年を振り返り、和平プロセスの完了には時間を要するものの、元RENAMO兵士が政府軍と警察組織の中枢に登用されるなど具体的な進捗が伴っている点で、過去の和平合意とは一線を画すものだと進展を評価している。チャタムハウスは、与野党間武力対立が終結に向かうにつれ、北部治安問題や貧困削減への取り組みに国内政治の焦点が集中していくとみる。和平実現に向けた中長期的な展望が開けているという感触がうかがえる。

執筆者紹介
ジェトロ・マプト事務所
松永 篤(まつなが あつし)
2015年からモザンビークで農業、BOPビジネスなどの事業に携わる。2019年からジェトロ・マプト事務所業務に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。