経済回復にばらつき、先行きのカギ握るワクチン(世界)
サービス貿易は総じて低迷

2020年12月11日

主要国・地域の経済活動は、2020年に入って停滞した。経済回復に向かう動きがみられるものの、その程度はばらついている。需要面のうち、各国・地域の外国との財・サービス取引をみると、総じて財よりもサービスの動きが弱い。サービス取引額の減少は「旅行」による影響が大きい。旅行を含むサービスや経済回復には、新型コロナウイルスワクチンの開発・普及が期待されている。

際立つ中国の経済回復

主要4カ国・地域(日本、米国、ユーロ圏、中国)の実質GDP(季節調整済み)について、2019年第4四半期(10~12月)以降の動向を整理した(図参照)。中国は2020年第1四半期(1~3月)に前期から大きく落ち込んだ。しかし、第2四半期(4~6月)以降は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大前の2019年第4四半期を超えるまでに回復した。他方で、日本の2020年第2四半期の実質GDPは、前期からさらに大幅な落ち込みとなった。2020年第3四半期(7~9月)は前期を上回ったものの、回復のスピードは遅い。新型コロナ危機前の2019年第4四半期や2020年第1四半期の水準を依然として下回る。また、米国やユーロ圏は、日本と同様の動きがみられる。

図:主要国・地域の実質GDPの推移
中国は2020年第1四半期(1~3月)に前期から大きく落ち込んだ。しかし、第2四半期(4~6月)以降は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大前の2019年第4四半期を超えるまでに回復した。他方で、日本の2020年第2四半期の実質GDPは、前期からさらに大幅な落ち込みとなった。2020年第3四半期(7~9月)は前期を上回ったものの、回復のスピードは遅く、新型コロナ危機前の2019年第4四半期や2020年第1四半期の水準を依然として下回る。また、米国やユーロ圏は、日本と同様の動きがみられる。

注:日本は、2020年7~9月2次速報。米国は、2020年第3四半期2次推計(Second Estimate)。
出所:内閣府、米国経済分析局、EU統計局、Datastream(Refinitiv)からジェトロ作成

サービス貿易の回復に遅れ

各国・地域の経済状況が大きく変化する中、財やサービスの貿易はそれぞれどのように変化したのか。各国・地域の国際収支基準の統計から、財・サービス貿易の動向を整理した(表1参照)。日本の輸出(季節調整値)に着目すると、2020年第1四半期にサービス輸出が前期比で大きく落ち込んだ。財輸出は第2四半期に大幅減となったが、第3四半期には改善の動きがみられた。他方で、サービス輸出は第1四半期以降、落ち込み幅が拡大した。

表1:主要国・地域の財・サービス貿易額の推移

日本(2019年Q4=100、季節調整値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2 Q3
財輸出 100 98 77 88
財輸入 100 96 87 83
サービス受け取り(輸出) 100 81 74 69
サービス支払い(輸入) 100 100 97 90
米国(2019年Q4=100、季節調整値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2 Q3
財輸出 100 98 70 87
財輸入 100 97 83 98
サービス受け取り(輸出) 100 91 73 75
サービス支払い(輸入) 100 92 68 73
ユーロ圏(2019年Q4=100、季節調整値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2 Q3
財輸出 100 96 77 91
財輸入 100 96 79 89
サービス受け取り(輸出) 100 95 75 78
サービス支払い(輸入) 100 102 74 74
中国(前年同期比%)(△はマイナス値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2 Q3
財輸出 4 △ 11 3 5
財輸入 6 2 △ 4 3
サービス受け取り(輸出) 6 △ 5 △ 1 △ 1
サービス支払い(輸入) △ 1 △ 15 △ 29 △ 27

注:現地通貨建て金額から算出。
出所:「国際収支統計」(2020年12月8日最終更新)(日本銀行)、「U.S. International Trade in Goods and Services, October 2020」(米国経済分析局)、「Balance of Payments and International Investment Position」(2020年11月19日最終更新)(欧州中央銀行)、「International Trade in Goods and Services of China (updated to October 2020)」(中国国家外貨管理局)からジェトロ作成

米国の輸入(季節調整値)は、第2四半期に財・サービスともに大きく落ち込んだ。第3四半期にはいずれも改善の動きがみられたが、財輸入と比べると、サービス輸入の改善幅が小さい。ユーロ圏でも同様の動きがみられる。中国については、季節調整されたデータが公表されていない。そのため、前年同期と比較した動きをみる。2019年第4四半期に前年を割り込んでいたサービス輸入は2020年第1四半期以降、減少幅が大きくなった。米国とユーロ圏と単純には比較できないものの、財に比べてサービス輸入の回復が弱いという点では、同様の動きがみられる。

各国・地域のサービス輸入を主要業種別にみると、いずれも2020年に入り、「旅行」が大きく落ち込んだ(表2参照)。日本と米国(いずれも季節調整値)の動向をみると、両国とも2020年第1四半期以降、旅行の支払い(輸入)減少が拡大した。米国は2020年第3四半期に持ち直しがみられたものの、新型コロナ危機前の2019年第4四半期から大きく下回る状況が続いた。季節調整データが公表されていないユーロ圏と中国について前年同期の水準との比較でみると、いずれも2020年第1四半期以降、前年同期比減が続き、その減少幅が広がった。中国は2020年第3四半期に減少率が緩和されたものの、それでも前年同期比で50%超の減少が継続した。

表2:主要国・地域の主要サービス別支払い(輸入)の推移

日本(2019年Q4=100、季節調整値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2 Q3
輸送(17%) 100 90 83 78
旅行(10%) 100 68 12 11
その他サービス(73%) 100 107 113 105
米国(2019年Q4=100、季節調整値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2 Q3
輸送(18%) 100 88 51 60
旅行(23%) 100 74 7 13
その他サービス(59%) 100 101 97 99
ユーロ圏(前年同期比%)(△はマイナス値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2
輸送(15%) △ 1 △ 4 △ 23
旅行(13%) △ 1 △ 16 △ 80
その他サービス(71%) 17 31 △ 23
中国(前年同期比%)(△はマイナス値)
項目 2019年 2020年
Q4 Q1 Q2 Q3
輸送(21%) 6 △ 3 △ 14 △ 10
旅行(50%) △ 8 △ 27 △ 59 △ 53
その他サービス(29%) 8 3 11 7

注1:現地通貨建て金額から算出。
注2:カッコ()内は2019年通年の構成比。端数処理のため、合計が100にならない箇所がある。
出所:「国際収支統計」(2020年12月8日最終更新)(日本銀行)、「U.S. International Trade in Goods and Services, October 2020」(米国経済分析局)、「Balance of Payments and International Investment Position」(2020年11月19日最終更新)(欧州中央銀行)、「International Trade in Goods and Services of China (updated to October 2020)」(中国国家外貨管理局)からジェトロ作成

WTOは12月4日に発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます した貿易動向分析の中で、新型コロナのワクチンの開発・製造・普及・接種が2021年の旅行を含むサービス貿易全体の回復に寄与することを指摘。また、OECDは12月1日に発表した世界経済見通しで、ワクチン普及のタイミングにより世界経済の先行きが上下に振れるシナリオに言及した(2020年12月2日付ビジネス短信参照)。世界保健機関(WHO)の12月8日付け資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (注1)によると、同日時点で臨床試験を実施している新型コロナウイルスワクチン候補は52種類。最終段階のフェーズ3に入っているのは、そのうち13種類だ。その1つである米国ファイザーなどによるワクチンについては、英国政府が12月2日に使用を承認した(2020年12月3日付ビジネス短信参照)。各国・地域政府はワクチン開発企業との直接契約や、Gaviワクチンアライアンス(注2)、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI、注3)、WHOが主導してワクチンを共同購入する国際的な仕組み「COVAXファシリティー」などを通じた確保が進められている。新型コロナ収束に向けては、世界規模でのワクチン開発・供給の動きや接種のプロセス、実効性が今後の世界経済回復のカギを握る。


注1:
資料は、不定期更新されている。執筆時点(2020年12月8日)までのものを反映して記述した。
注2:
2000年に設立された官民パートナーシップ。低所得国の予防接種率を向上させることにより、子供たちの命と人々の健康を守ることを目的とする。
注3:
2017年1月のダボス会議で発足した官民連携パートナーシップ。ワクチン開発を促進するため、世界規模で連携することを目的とする。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
朝倉 啓介(あさくら けいすけ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2005~2009年)、国際経済研究課(2009 ~2010年)、公益社団法人日本経済研究センター出向(2010~2011年)、ジェトロ農林水産・食品調査課(2011~2013年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2013~2018年)を経て海外調査部国際経済課勤務。