コロナ禍でも止まらない! カナダ発AIスタートアップとの新たな挑戦
重要性増す中小企業・スタートアップのオープンイノベーション

2020年9月7日

オープンイノベーションの取り組みは、大企業だけにとどまらない。外部資源活用の機会が増える今、機動的に動ける中小企業やスタートアップが優位性を持つ場合もある。経営資源の限界を突破する手段としても、日本の中小企業・スタートアップにおけるオープンイノベーションは重要性を増している。

画像認識技術の製品化を手掛けるセンスシングスジャパンは2020年8月、カナダ発の人工知能(AI)スタートアップであるモーション・ジェスチャーズ(以下、MG)とパートナーシップ契約を締結した。MGはAIベースのハンドトラッキング技術を用いて、手の動作(ジェスチャー)を認識するソフトウエアを開発している。

MGとの協業に至った経緯や今後の事業展開について、センスシングスジャパンの取締役、梅津優氏に聞いた(インタビュー日:2020年8月26日)。

カナダ・スタートアップと提携に至った経緯

2019年秋に開催された展示会「CEATEC」(注1)でジェトロの紹介を受け、商談を実施したのがきっかけだ。初めは自社のユーザーになればと思ってMGと商談した。MGは従業員10人程度の駆け出しのスタートアップだが、彼らのアプリケーションは独自のアルゴリズムにより、100%に近い精度でジェスチャーを認識する。ユーザーがアプリケーション開発時に教師データ(注2)を学習する必要がなく、カメラさえあれば瞬時に手の動きを認識できることが特徴だ。自社の技術との親和性について、MGのホームページに掲載されている導入事例の動画で確認しながら、Web会議を重ね、MGの技術の理解を深めていった。

その後、2020年1月に自動車関連展示会「オートモーティブワールド」(東京ビッグサイト)でMGの技術を紹介するデモ展示を実施し、テストマーケティングの位置付けで顧客の反応を見ることにした。ブース訪問者の関心は高く、引き合いも見られたため、今回の提携に至った。ただし、提携までには困難にも直面した。世界中で感染拡大する新型コロナウイルスの影響で、対面ではCEATEC会場とその翌週の2回しか会うことができず、ほぼオンラインのみで協業に向けた交渉を進めることになった。当社内でもプロジェクトチームを立ち上げ、担当のエンジニアを指名して自社で再現検証を重ね、パートナーシップ契約に向けて徐々に形にしていった。


全21関節の位置座標をリアルタイムで測位(センスシングスジャパン提供)

描画ジェスチャー「@」
(センスシングスジャパン提供)

静的ジェスチャー「OK」
(センスシングスジャパン提供)

コロナ禍で新たなニーズも

本来であれば、展示会や商談を通じて日本でも顧客開拓を行いたいところだが、新型コロナの影響により行動が制限されている状況にある。しかし、MGの技術はPCとカメラさえあればデモが可能なため、オンラインでも顧客にプロモーションすることが可能だ。MGは自動車産業に参入したいという思いがあり、現在、日本国内の複数のOEMやTier1にアプローチを試みている。運転中のモニターの確認やスイッチ操作では、人間工学的に視線が正面からそれがちだが、MGの技術を利用するとジェスチャーでスイッチ操作が代用でき、安全に走行することが可能になる。 この技術は、自動運転に伴うドライバーモニタリングなどをはじめ、今後の応用範囲は広い。コロナ禍で世界的に注目される非接触の技術のため、エレベーターや自動販売機でのジェスチャーを用いたボタン操作、キオスク端末やデジタルサイネージ(注3)での活用など新たなニーズを捉え、新領域にも事業拡大したいと考えている。

課題は人的リソース不足

センスシングスジャパンとしては、これまでも積極的に海外スタートアップとのオープンイノベーションに取り組んでおり、MGとの協業を「海外TECH事業」の1つと位置付けている。他の事例としては、2019年に車内空間でのノイズキャンセル技術に強みを持つSilentium(イスラエル)とも提携した。同社の技術はエンジンや走行中のロードノイズ音を低減する。この技術は自動車産業だけでなく、コロナ禍で需要が伸びたヘッドセットや空調などへの応用も期待できる。

オープンイノベーションについては、今後も海外スタートアップの発掘を継続したいと考えている。現在も幾つかのプロジェクトを進めているところだ。一方、プロジェクトが多過ぎると人的資源が不足してしまうため、適切な人員採用と配置が課題となっている。

センスシングスジャパン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Sense Things Japan)

イメージングソリューションをコアテクノロジーとして、ハードウエアを中心に商品を開発する日本企業。モノのインターネット(IoT)分野のハードウエアとソフトウエアの自社研究開発、受託研究開発、各種製品製造販売を手掛ける。東京に本社、大阪に開発と営業拠点を置く。従業員40人、2015年設立。

モーション・ジェスチャーズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (Motion Gestures)

2016年設立の機械学習ベースのジェスチャー認識ソフトウエアを専門とするカナダのスタートアップ。関節の位置座標を用いたAIベースのハンドトラッキングを行う。


注1:
CEATECとは、日本最大級のCPS/IoT関連見本市。ジェトロは2019年に幕張メッセで開催された「CEATEC2019」で海外15カ国・地域から34社のスタートアップが出展する「JETRO Global Connection」を設置、日本企業とのミートアップ(商談会)を実施した。2020年はオンラインで開催予定。
注2:
教師データとは、機械学習の教師ありの学習であらかじめ与えられる、正解に相当するデータ。
注3:
ディスプレーなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するメディアの総称。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。