英国における食品廃棄削減の取り組み

2020年5月1日

世界全体で生産された食品の約3分の1が廃棄されており、環境や倫理的な観点から、食品廃棄は世界中が取り組むべき課題の1つとされている。英国では、政府と民間組織の協力により、2007年から2018年までの12年間で年間食品廃棄(不可食部分と卸売り段階の廃棄を除く)を180万トン削減することに成功している。本稿では、英国における食品廃棄問題への最新の取り組みについて紹介する。

世界中で食品廃棄物削減に向けた取り組みを実施

食品廃棄は、世界全体で毎年約13億トン発生している。これを排出温室効果ガスの量に換算すると、中国、米国の国全体の排出量に次ぐ水準と推計されている。他方で、世界人口の9分の1以上の人々が、十分な食事を得られていないという事実もある。食品廃棄に関連する年間コストの推定額は2兆6,000億ドルで、世界のGDPの3.3%に相当するとされている。

こうした現状を打開するために、2015年の国連サミットで取り決められた「持続可能な開発目標(SDGs)」では、2030 年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させるという目標が掲げられた。

英国での2018年の推定食品廃棄物(不可食部分と卸売り段階の廃棄を除く)の量は約640万トンだった。内訳は、家庭での廃棄が450万トン、食品製造段階が80万トン、飲食業が80万トン、小売業が30万トンとなっている(図1参照)。食品廃棄物の量を金額に換算すると、英国全体で190億ポンド(2兆5,460億円、1ポンド=約134円)となり、うち138億ポンドが家庭に由来する計算となる。

図1:英国の食品廃棄物内訳
英国の廃棄物内訳 家庭70.3%、450万トン。食品製造12.5%、80万トン。飲食業12.5%、80万トン。小売り4.7%、30万トン。

出所:WRAP「英国における食品余剰と廃棄物-重要な事実」からジェトロ作成

英国では2005年、小売業界が自主的に食品廃棄の問題に取り組む「コートルド・コミットメント」(Courtauld Commitment)というイニシアチブを設けた。このイニシアチブの下、慈善団体である「廃棄と資源に関する行動プログラム(The Waste and Resources Action Programme:WRAP)」が主体となり、政府や企業、慈善団体などの関係機関と協力し、個々では解決が困難な課題に横断的に取り組んでいる。これまで、コートルド・コミットメントは、第1次(2005~2009年)、第2次(2010~2012年)、第3次(2013~2015年)の3段階での計画が行われてきた。これらの計画は、主に家庭やサプライチェーンから出る食品廃棄と食品包装を減らすことを目的とする。第1次計画と第2次計画では、それぞれ18億ポンド、31億ポンド分の食品廃棄と食品包装の削減に寄与した。さらに、第3次計画では、食品廃棄削減により製造・小売り部門に1億ポンド以上のコスト削減効果をもたらしたとしている。2015年に始まった「コートルド2025」では、食品廃棄物の量を10年間で少なくとも1人当たり20%削減することを目標にしている。これまでのところ、削減は順調に進んできた。2018年時点での1人当たりの食品廃棄量は、目標と基準年が異なるものの2007年と比べて27%削減している(図2参照)。

図2:英国の食品廃棄削減に対するこれまでの取り組みの成果
基準の2007年と比較した英国の食品廃棄量の変化 ※不可食部分と卸売段階の廃棄を除く。全体の食品廃棄量、2007年820万トン、2018年640万トン。2007年から2018年で21%減少。1人あたりの食品廃棄量。2007年132kg、2018年96kg。2007年から2018年で27%減少。

出所:WRAP「英国における食品余剰と廃棄物-重要な事実」からジェトロ作成

食品廃棄物削減に向けた英国政府の取り組み

2030年までに食品廃棄物を半減するという国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現も念頭に、英国政府も食品廃棄物削減の取り組みを進めている。2017年12月、英国政府は50万ポンドの食品廃棄物削減基金を創設し、食品廃棄の削減に取り組む8つの慈善団体と非営利団体に補助金を支給した。2018年10月には1,500万ポンドが基金に追加され、そのうち420万ポンドは、2019年5月に4つの団体に支給された。さらに、2020年1月には、115万ポンドの支出が決定。この115万ポンドは、家庭から出る食品廃棄削減を国民に促すための活動と、食品廃棄物から有用なものを作り出す技術の開発に充てられる予定だ。

また、英国政府は、食品廃棄量の削減や、食品廃棄に対する国民の認識を高める努力をすることなどを大手食品関係企業に要請、大手スーパーマーケットのテスコや大手コーヒーチェーンのコスタ・コーヒー、大手オンラインスーパーのオカド、ネスレなど、食品業界の大手100社以上がこれに賛同した。賛同企業は「食品廃棄物削減ロードマップ」に従い、食品廃棄物の測定、食品廃棄物の処理方法に関する年次報告の提出、食品廃棄物削減のための活動の実施が求められると同時に、自社の企業活動の過程で出る食品廃棄物だけでなく、サプライヤーや消費者から出る廃棄も減らすことが求められる。政府は、2026年までに食品業界の大手企業250社全てが参加することを目標にしている。

民間企業や慈善団体でも取り組みを実施

英国では、前述の通り、慈善団体やNPOが、食品廃棄の削減に大きな役割を担っている。例えば、「コミュニティー・ショップ」という小売店の一種は、食品廃棄物を企業からの寄付などで集めて低所得者に安く提供したり、その収益で自立支援をしたりしている。「フェアシェア」や「The Felix Project」などは、食品関係の企業と慈善団体の仲介役となり、廃棄予定の食品を店舗などから集めて慈善団体やNPOに配布している。また、2013年に設立されたNPOの「The Real Junk Food Project(TRJFP)」は、廃棄予定の食品でケータリングを行ったり、店舗で売れ残った商品の詰め合わせを販売したりしている。さらに、同団体のユニークな取り組みとして、「PAYF CAFES(注)」や「Kindness Sharehouse」「Kindness into Schools」がある。「PAYF CAFES」は、客側が商品にどの程度の価値を感じたかに応じて自分で対価を決め、労働などの金銭以外の方法でも支払うことができるカフェ。「Kindness Sharehouse」は、店舗で余った食品を必要な人に無償で提供する活動だ。「Kindness into Schools」では、余剰品が同団体と提携している学校にも届けられ、学校で提供される無料の朝食や夕食などにも使われる。このほか、「Food Works Sheffield」という慈善団体も、類似の活動を展開している。


スーパーマーケットのセインズベリーでは家庭で消費しきれない食品を回収し、
コミュニティー・ショップに寄付している(ジェトロ撮影)

食品関連の大手企業も、さまざまな活動を進めている。スーパーマーケット大手のテスコは、売れ残った商品の慈善団体への寄付、飼料としての活用に加えて、サプライヤーと提携して豊作となった作物を安価で販売したり、規格外の作物を冷凍食品や調理済み食品工場で使用したりしている。また、家庭から出る廃棄を減らすため、包装の改善やUV処理による鮮度の保持、青果物への賞味期限表示の廃止、消費できる以上の購入を防ぐため、生鮮食品で「バイ・ワン・ゲット・ワン(1つ購入すると、もう1つが無料でもらえる)」方式の販促の廃止などにも取り組んでいる。

また、ネスレは、加工済みの商品だけでなく、加工途中に出た廃棄食品も再配布できるように製造工程を改善し、慈善団体などに提供できる食品の量を増やしている。ユニリーバは、廃棄物を使ってバイオガスを生成し、自社工場で活用している。また、パッケージの破損などにより販売できない商品をコミュニティー・ショップやフェアシェアなどの慈善団体に提供するほか、品質を満たさないアイスクリームを他の製品に再加工する工夫もしている。

食品廃棄削減サービスを展開するスタートアップも多く出現

食品廃棄物削減に対する意識の高まりを受け、その取り組みに貢献するサービスを提供するスタートアップも次々と誕生している。英国のスタートアップ企業Winnowは、飲食店が食品廃棄とコストを削減するための支援システムを提供している。最新システムの「Winnow Vision」は、自動運転などに利用されている人工知能(AI)技術、カメラ、計量器を使用して、ごみ箱に入れられた食品を認識し、経済的コストと排出二酸化炭素による環境コストを計算する。導入直後は何が廃棄されたのかを同システムに入力する必要があるが、AIによって学習ができるので、利用を重ねるごとにシステムの改善が進み、最終的には入力なしに自動的に廃棄された食品を認識できるようになる。企業は、同システムのレポート結果に応じて仕入れ量を決め、支出の削減と過剰生産の抑制ができるという。


Winnow Visionは欧州を中心に世界中のレストランで利用され始めている(Winnow提供)

消費者と余った食品をつなぐサービスも、英国では活発に展開されている。Karmaは、スウェーデン発のスタートアップ企業で、飲食店や小売店で余った食品と消費者をつなぐためのアプリを提供している。同アプリに登録している飲食店や小売店は、廃棄予定の食品が出た際にアプリ上に商品を掲載して購入者を探すことが可能となり、商品が掲載されると地図上にピンが現れ、消費者は購入できる商品の詳細を確認できる。支払いはアプリ上で完結し、購入者は店が指定している時間内に店頭に商品を受け取りに行く。対象商品は、通常価格の半額で販売されている。類似のアプリとして、デンマーク発の「Too good to go」などもある。英国では、コスタ・コーヒーがこのアプリを通して余剰品を販売している。


アプリ画面(Karma提供)

英国発のアプリ「Olio」は、食品に限らず不要なものを無料でほしい人に提供することを可能にした。飲食店などに限らず誰もが気軽に出品できるため、家庭から出る食品廃棄削減への貢献が期待される。


アプリ画面(Olio提供)

これまでは、政府や食品企業、慈善団体との協力により食品廃棄の削減が進められてきた。しかし、ITやAI技術を用いた新しいサービスの登場により、今後は小規模なレストランや消費者個人レベルでの食品廃棄削減がさらに進んでいくことだろう。


注:
”PAYF”とは“Pay as you feel”の略で「感じた額を支払う」の意味。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所(執筆時)
堀江 桃佳(ほりえ ももか)
2020年1月~3月、ジェトロ・ロンドン事務所にインターン研修生として在籍。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
市橋 寛久(いちはし ひろひさ)
2008年農林水産省入省、2017年7月からジェトロ・ロンドン事務所。