コロナ禍が追い風、注目されているオーストリア企業

2020年7月31日

オーストリアでは2020年3月中旬以降、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、企業活動が大きく規制された。4月中旬以降は、徐々に対策措置が緩和されている。また、政府も停滞した経済の回復に向け、多くの支援策を講じる(2020年6月19日付ビジネス短信参照)。

しかし、現在も生産がコロナ以前の水準に戻っていない企業が多い。100万人以上の従業員が時短労働を強いられ、失業者数も急増するなど、雇用状況の悪化が続いている。オーストリア国立銀行によると、国内経済がコロナ危機前の水準まで回復するには2022年までかかるとの見通しだ。

その一方で、コロナ危機がビジネスの追い風になっている企業もある。今般、中国からの供給が止まり、世界の企業による中国依存が露呈した。この結果、医療品などの重要な供給品の生産拠点を欧州に戻す傾向が強まった。また、ロックダウン(都市封鎖)により、配達サービスやeコマースへの需要が高まった。このほか、テレワークの普及により、ホームオフィス関連企業の拡大も目立った。

オーストリア連邦産業院(WKO)は6月、「新型コロナウイルスと戦うオーストリアのノウハウ」と題するレポートを公表した。この中で取り上げられた企業、その他コロナ禍でオーストリア国内の注目を集めている企業を紹介する。

アペイロン・バイオロジクス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
アペイロン・バイオロジクスは、分子免疫学を専門とする生物医学研究者のジョセフ・ペニンガー氏が設立。現在は、薬剤物質「APN01」を基に、新型コロナウイルスの治療薬を開発する。
この物質は、2000年代初頭の重症急性呼吸器症候群(SARS)発生時に開発された。細胞の感染を予防すると同時に、肺の炎症反応を抑える効果を持つ。すでに5つの臨床試験で急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺障害(ALI)、肺動脈性肺高血圧症(PAH)の患者約90人に対して投薬され、忍容性の高さが実証された。現在、新型コロナウイルスに対する効果について、2020年4月からオーストリア、ドイツ、デンマークで臨床試験が行われ、注目を集めている。
同社は6月3日、治療薬開発のために1,750万ユーロの資金調達を行うと発表した。
テーミス・バイオサイエンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
テーミス・バイオサイエンスは、2009年にワクチンなどのバイオテクノロジー専門家チームと免疫学者らが設立した企業だ。2010年からは、感染症学の分野で世界的に著名な研究機関であるパスツール研究所と連携し、麻疹の新型ワクチン(ウイルス・ベクタ―技術)をベースに研究を進めた。
同社は、この技術に基づいて新型コロナウイルスに対するワクチン開発を進めていることで、注目を集めている。2020年6月に、米国医薬品大手メルク(MSD)によって買収された。この結果、ワクチン開発のさらなる加速が期待される。
ヒギエーネ・オーストリア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
同社は、繊維業者大手のレンツィングと老舗下着製造業者のパルマースによる共同事業体だ。新型コロナウイルス感染拡大時のマスク不足を受けて、4月半ばからマスク製造を開始している。マスク製造機械はアジアから輸入。ウィーン南部のウィーナー・ノイドルフで、生産を開始した。約100人の雇用を創出し、現在、月間1,200万枚(医療用、一般用)を生産。将来的には2,500万枚まで拡大を見込む。
シェッピング外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
オーストリア郵便によって立ち上げられた電子商店街。米国のアマゾンなどに対抗するため、2017年に設立された。地元企業の製品を主に取り扱う。
こうした地域化コンセプトは当初、消費者にはいまひとつ受け入れられずにいた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴う小売店などの閉鎖措置が、転機となった。オンラインでの購入が浸透し、登録されているウェブショップも増加。コロナ禍以前は600社程度だったが、現在はさらに300社以上が登録を申請している。また、サイトアクセス件数はコロナ禍以前の4倍、売り上げは3倍以上の6,000万ユーロに達する見込みだ。
シンプトーマ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
同社では2006年から、医学者とデータマイニング専門家が人工知能(AI)を用いたデジタル・ヘルス・アシスタントのシステムを開発している。
利用者は症状を入力後、チャットボットの質問に答える。その結果に応じて、新型コロナウイルスの感染リスク(高、中、低)が判定される。
AIが、14年間分の研究データに基づいて症状を判定する。36言語に対応。また、新型コロナウイルス感染に関する初回診断の正確性は、96.3%を記録。欧州委員会は、新型コロナウイルス感染症対策として、このチャットボットテストの利用を推奨している。
アイズオン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ウェブ会議ソフトを開発する企業。オーストリア第2の都市グラーツに所在。同社のアプリで、100人までのミーティング、会議の録画、フェイスブックやユーチューブでのストリーミング配信が可能となる。すべてのデータ転送は、欧州のサーバーを通じて行われる。高いセキュリティ水準を確保するためだ。コロナ禍に伴い、通信会社大手のA1デジタルと協力し、ウェブ会議ソフトを6月末までの期間限定で無償提供した。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。