ベトナム市場開拓のヒント
商品価値の理解を促し、買い手のリスクを下げるためのアプローチ

2020年9月11日

安定的な経済成長に伴い、市場規模の拡大が続くベトナムの小売市場。ジェトロは、日用品や食品などBtoC市場を対象としたさまざまな分野で市場開拓を目的とした商談会を開催し、バイヤーなどとのビジネスマッチングを企画してきた(注)。筆者がこれら分野での展示会や商談会を数多く運営してきた経験やバイヤーへのインタビューなどを踏まえ、ベトナム市場の開拓について解説する。

商品の価値を十分に理解してもらう

ベトナム統計総局によると、ベトナムの小売売上額は2019年、1,627億3,000万ドルだった。2010年が673億7,000万ドルだったのに対し、約2.4倍の規模に成長したことになる(図参照)。こうした成長市場を狙って、日本で作られた商品の売り込みを図る日本企業が増えている、とりわけ安心・安全や高品質・高機能をセールスポイントにしようとする例が多い。

図:ベトナム小売売上額の推移
ベトナムの2019年の小売市場は2010年比で約3倍と右肩上がりの成長を続けている。

出所:ベトナム統計総局の資料を基にジェトロ作成


ハノイでのアセアン市場販路開拓マッチング常設展の様子(ジェトロ撮影)

輸出が増えれば日本の商品への理解が進むのか、日本の商品への理解が進めば輸出が増えるのか。「鶏が先か、卵が先か」の議論だ。情報化および国際化の進んだ今日の世界でも、外国に商品を売り込むことは容易ではない。日本の商品をそのまま海外へ持ち込み、やみくもに売り込んでも、なかなか結果は出ない。そうではなく、商品の本当の価値を理解してもらう必要がある。

とりわけベトナムは、日本との物価の差が大きく、日本から輸入される商品の大半は、輸出に関わるコストを差し引いても高価格だ。安定的な経済成長を継続しているとはいえ、大きな問題だ。「なぜ高いのか」「どのような価値があるのか」という海外バイヤーや最終消費者の素直な疑問に対し、実直に対応し、十分に納得してもらうことは、避けて通れない。それでは、具体的にはどのようなことが求められるのか。ここでは、(1)バイヤーと協力した商品価値を説明するプロモーションの実施、(2)商品価値をわかりやすく説明するパッケージ、(3)管理しやすい商品つくり、の3点を挙げたい。

より詳しく商品を説明するためのプロモーション

多くのベトナムバイヤーが指摘するのは、商品の価値や魅力をしっかりプロモーションする必要性だ。バイヤーは、日本企業からの支援を必要としている。ハノイ市内に複数店舗を持ち、日本製のベビー・キッズ商品を中心に取り扱うバイヤーA社の代表は「日本のメーカーにはブランディングの段階から参画の上、ベトナム市場で一緒に効果的な販売促進をしてほしい」とコメントする。ベトナム市場にはすでに、日本を含むさまざまな国・地域から商品が輸入されている。一般的に日本企業が商品の特徴として挙げる、安心・安全や高品質・高機能をセールスポイントとした商品であふれている。そのため、新規に市場参入するにあたっては、既存の流通商品とは異なるアピールや工夫が不可欠だからだ。ベトナムバイヤーだけでは、必ずしも商品について十分な説明ができるわけではない。どんなに価値の高い商品であっても、その価値が消費者に理解されなければ、売れ残るリスクがある。プロモーションイベント時の人的支援やPOP広告のツール作成などをベトナムバイヤーと日本のメーカーが協業で行うことで、最終消費者に対し商品の魅力をより訴求できる。多くのベトナムバイヤーが、そう考えている。

食品を中心に日本の商品を取り扱うバイヤーB社の担当マネージャーは、「店頭でのプロモーションイベントで日本のメーカーから直接、調理方法などをデモンストレーションしてもらうと非常に効果的だ。ぜひ日本のメーカーには定期的にベトナムに足を運んでもらいたい」と話す。バイヤーは複数の輸入品を取り扱う。そのため、特段の理由がなければ、特定の商品だけに力を入れて営業・販売することはない。また日本のメーカー側も、「買い取ってくれれば、あとは興味がない」というケースも多い。

柔軟にカスタマイズしたパッケージを

ベトナム市場向けにカスタマイズしたパッケージも求められている。輸入商品を中心に、ベトナム国内で100店舗以上の小売店を持つバイヤーC社の担当マネージャーは「化粧品や衛生関連商品に関しては、その効用や効果、使用方法について丁寧な説明が必要だ。そのための説明を、可能な限りパッケージにベトナム語で記載してほしい」と話す。使用方法を誤って理解されると、重大な事故につながりかねない。そのため、ベトナムバイヤーはそのようなリスクに対して非常に敏感だ。ベトナム語対応については、既存の商品にシールを貼ることなどでも対応可能ではある。しかし、他の競合商品との差別化を図るためには、もう一歩踏み込んだ取り組みが求められる。例えば、同じ贈答品用のパッケージでも、日本とベトナムでは好まれるデザインが異なるなど文化の違いもある。

買い手にとってのリスクを考慮した管理しやすい商品

バイヤーや最終消費者にとって扱いやすく管理しやすい商品であることも求められる。食品や日用品などの日本の商品を扱っているバイヤーD社のマネージャーは「賞味期限や使用期限は最低でも半年、できれば1年以上ないと取り扱いが難しい」と話す。国際輸送となると、さまざまな手続きが必要で、店頭に並ぶまで時間を要し、期限が短いものはバイヤーにとってリスクとなる。また、壊れにくいことも重要だ。ベトナムの物流環境は、改善が進んでいる。しかし、まだまだ課題も多く、物流業者や卸売業者だけでなく、店頭や家庭での管理にも注意が必要となる。ベトナムへの輸送時や店頭管理時に破損などが起きては、商品の価値は半減してしまう。デリケートな商品はそれだけでリスクが高い。

また、商品の大きさや量にも気を付けたい。日本から輸入される商品には、サイズがベトナム人に合っていないものや、容量が大きすぎてベトナム人には価格が高くなっているものが散見される。その結果、ベトナムのバイヤーや最終消費者にとって、初めて買うには勇気が必要ということになりかねない。結果、「買いにくい」商品となっていることが多い。そのため、バイヤーの希望に応じて商品のサイズや量を柔軟に変更するなど、ベトナム人にとって「買いやすい」商品にする対応が求められる。

競争を勝ち抜くにはバイヤーとの協業が不可欠

以上、ベトナム市場を開拓するにあたってのポイントを考察した。いずれも、「商品の価値を正しく理解してもらうこと」と「バイヤーや消費者にとってのリスクを下げること」が共通している。潜在性の高いベトナム市場だが、競合する輸入商品を観察すると、前述のような工夫が感じられる。

今回、解説したものは一例に過ぎない。ベトナムのバイヤーや消費者の視点に立つには、ほかにもさまざまなアイデアやアプローチが考えられるが、どのような手法にせよ、ベトナムの変化する消費者行動などを自分の目で確かめ、バイヤーと協業しながら、それらを常に検討することが不可欠だ。

協業の好例として、プライベートブランドなどのOEM(他社ブランドの製造)を挙げておきたい。OEMを行うことによって、バイヤー独自の商品として細かな商品作りが可能となり、上述したパッケージや、商品のサイズと量の問題にも、柔軟に対応できるメリットもある。実際、ベトナムでは、化粧品や衛生関連用品などでOEMを活用した日本の商品が見られ、それらは商品の価値をより詳細に伝えており、またバイヤーにとって扱いやすいため、販売する上でのさまざまなリスクを軽減している。

新型コロナウイルスの小売市場への影響、日本からの輸入品はオフライン市場がメイン

最後に、新型コロナウイルスの小売市場への影響について触れる。今回、ヒアリングしたバイヤーによると、2020年7月時点でおおむね、かつての消費者行動に戻りつつあるという。ベトナム全土に30店舗以上の輸入品専門店を展開するバイヤーE社によると、「買い控え行動はみられたが限定的だった。4月の社会的隔離措置期間はEC(電子商取引)サイトでの購入が増えた。しかし、日本からの輸入品は現状、実店舗での売り上げの方が多い」と話す。また、ベトナム国内で100店舗以上の小売店を持つバイヤーC社(上述)も、「現状、日本からの輸入品の売り上げの8割以上が実店舗での販売によるもの。やはり見慣れない輸入品は、店員から説明を受け、手に取って確認したい顧客が多い」と話す。新型コロナウイルス流行を契機に、ECやデリバリーサービス、キャッシュレスサービスなど新たなサービスの利用が拡大した。しかし、オフラインから置き換わったとは言い難い。今後も、そうした新サービスは大幅に拡大していくと思われるが、現状、市場においては消費行動のかなりの部分は実店舗に戻っている。ベトナム市場の開拓のためには、実店舗などのオフライン市場が依然として重要といえそうだ。


注:
例えば、2020年8月から数カ月間、日本の中小企業が取り扱う日用品分野を対象に「アセアン市場販路開拓マッチング常設展(ハノイ)」を実施中だ。新型コロナウイルスの影響で渡航制限があり、従来の展示会や商談会が開催できない状況を考慮した企画になっている。日本の中小企業の商品サンプルをベトナムで展示。ベトナムバイヤーは、それらを実際に手に取って、体験・体感できる。その上で、サプライヤーの日本企業とのオンラインによる商談の機会が提供されるという仕組みだ。
執筆者紹介
ビジネス展開・人材支援部ビジネス展開支援課
阿部 智史(あべ ともふみ)
2007年、ジェトロ入構。貿易開発部アジア支援課、ジェトロ大分、企画部企画課、ジェトロ・ハノイ事務所を経て2020年9月から現職。