政府支援も受け、EV市場が急成長(ハンガリー)
韓国系など関連サプライヤーの集積も進行

2021年2月2日

ハンガリーでは、電気自動車(EV)普及に向けて、補助金の導入や充電施設の増設など、政府が施策を講じている。このため、市場が拡大しつつある。また、ドイツ企業、日本企業が乗用車を生産しているほか、政府の外資誘致政策の下で自動車関連産業が発達。近年は韓国企業を中心にEV関連部品サプライヤーの集積も進む。

本稿では、ハンガリーの自動車、特にEV産業と市場について、政府の関連施策やハンガリーへの各国企業の進出状況なども併せ、紹介する。

EVの登録台数は右肩上がり

ハンガリー中央統計局(KSH)によると、2019年のGDPに占める自動車関連産業の割合は4.1%、製造業に占める割合は19.7%だった。自動車関連企業は742社存在し、2018年の雇用者数は10万9,393人だ。投資促進庁(HIPA)の2019年の調査(13.45MB)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(KB) によると、現時点で外国から完成車メーカー8社が進出済みだ。うち5社が製造、3社がエンジニアリングおよび販売拠点を設けている。HIPAへのヒアリングによると、1次サプライヤーは67社、2次と3次以下のサプライヤーは約630社が所在している。2019年の輸出全体に占める自動車関連製品の割合は約20%。そのうち8割超がEU27カ国と英国向けとなっている。

2019年の乗用車生産台数は49万8,158台、乗用車新車登録台数は前年比15.6%増の15万7,906台だった。国内シェアで最大のスズキは個人、法人需要とも好調だ。販売台数2万5,766台、前年比33.6%増だった。ブランド別で最も販売台数を伸ばしていたのも同社だ。なお、2020年は新型コロナウイルスの影響を受け、新車登録総台数は同18.9%減の12万8,031台。その中でスズキは1万4,783台と、国内シェアで首位を維持した。

ハンガリーには20世紀初頭までさかのぼるバス製造の歴史がある。中でもイカルス社は、1980年代に年間1万台以上のバスを製造・販売した実績を持つ。現在、ハンガリーのバスメーカー5社は年間約400〜500台を製造している。

次に、EV市場について概観する。2019年末時点で、ハンガリーで登録された乗用車台数は381万2,013台の一方ハイブリッドEVを含むEVに対して発行されるグリーンナンバープレートの登録数をみると、1万6,721台となっており、シェアはわずか0.4%にすぎない。とは言え、近年急増してきたのも事実だ。2020年末時点では登録台数は2万7,123台〔うち1万2,566台は純EV(BEV)、1万4,557台はハイブリッドEV〕まで増加した。前年比で62.2%増ということになる(図1参照)。

図1:グリーンナンバープレート発行台数(台)
ハンガリー国内のBEV、ハイブリッドEV向けグリーンナンバープレート発行台数は2018年について、9月はそれぞれ3522台、4394台、10月はそれぞれ3773台、4709台、11月はそれぞれ4111台、5002台、12月はそれぞれ4272台、5288台、2019年について、1月はそれぞれ4449台、5587台、2月はそれぞれ4731台、5927台、3月はそれぞれ4951台、6322台、4月はそれぞれ5169台、6679台、5月はそれぞれ5405台、7031台、6月はそれぞれ5677台、7306台、7月はそれぞれ5939台、7623台、8月はそれぞれ6166台、7892台、9月はそれぞれ6529台、8202台、10月はそれぞれ6782台、8552台、11月はそれぞれ7115台、8958台、12月はそれぞれ7432台、9289台、2020年について、1月はそれぞれ7729台、9651台、2月はそれぞれ8064台、10091台、3月はそれぞれ8468台、10504台、4月はそれぞれ8760台、10746台、5月はそれぞれ9018台、10998台、6月はそれぞれ9369台、11362台、7月はそれぞれ9716台、11841台、8月はそれぞれ10090台、12230台、9月はそれぞれ10595台、12754台、10月はそれぞれ11209台、13278台、11月はそれぞれ11810台、13870台、12月はそれぞれ12566台、14557台。

出所:e-cars

EVの新車登録台数も増加している。2020年は前年比2倍超の6,046台で、2015年に初めて100台を超えてから急増していることがわかる(表1参照)。

表1:EV新車登録台数(単位:台)
項目 2016年 2017年 2018年 2019年
電気自動車登録台数 403 1,212 2,069 2,941
自動車登録台数 96,555 116,265 136,601 157,906
電気自動車の割合 0.42% 1.04% 1.51% 1.86%

出所:ハンガリー自動車輸入協会(MGE)、データハウス

ハイブリッド車は、ハンガリーに拠点を置く完成車メーカー8社のうち3社が生産している(2020年8月6日付ビジネス短信参照)。2019年12月以降、アウディ・ハンガリー(「Q3」「Q3スポーツバック」)と、マジャールスズキ(「ビターラ」「SX4 S-CROSS」)がマイルドハイブリッド車を製造する。メルセデス・ベンツは2020年7月にプラグインハイブリッド車(PHV)(「CLA250eクーペ」「CLA250eシューティングブレーキ」)の生産を開始した。BMWも2018年夏、2023年までにガソリン車とEV両方の乗用車を生産すると発表していた(ただし2020年5月、2024年までの延期を発表)。

電気バスについては、エレクトロバス(注1)と中国のBYDの2社が生産する。ハンガリーバス製造業者協会のビンツェ・パップ・シャーンドル会長によると、2020年にハンガリーで製造する電気バスは年間150~200台に達すると予想されている。実現すれば前年比で20〜25%増に当たる(「オートプロ」2020年6月21日付)。2020年10月時点で、ハンガリー国内では首都ブダペストを中心に、約30台の電気バスが走行している。政府も電気バスの普及に力を入れている。そのため、台数の増加が予想される。

カーシェアリングも、EV普及に貢献している。EV購入が困難な層に対しても、機会を提供するからだ。主なプロバイダーとしては、2016年にブダペストで事業を開始したグリーン・ゴー(GreenGo)、2018年初頭にハンガリーの石油ガス大手MOLにより設立されたカーシェアリング子会社リモ(Limo)、2019年にハンガリー市場に参入したBMWのドライブ・ナウ(DriveNow)がある。うちドライブ・ナウは、唯一の外資系企業になる。プレミアムカーを提供しているのが特徴だ。

表2:カーシェアリングサービス各社の概要
会社名 国籍 設立(進出)年 台数 うち電気自転車
台数
ブランド
GreenGo ハンガリー 2016 300 300 VW
MOL Limo ハンガリー 2018 450 150(2019年7月時点) スマート, VW, 起亜, メルセデス・ベンツ, ヒュンダイ、BMW
DriveNow ドイツ 2019 240 40 BMW, ミニ

出所:各社ウェブサイト、ヒアリングからジェトロ作成


「グリーン・ゴー」(ジェトロ撮影)

「MOL・リモ」(ジェトロ撮影)

「BMWのドライブ・ナウ」(ジェトロ撮影)

ハンガリー政府のEV関連政策も追い風

ハンガリーでは、EV増加に伴い、充電インフラの整備も進んでいる(図2参照)。

図2:ハンガリーにおける公共充電機設置状況(台)
ハンガリーにおける公共充電器の設置状況に関し普通充電器 (出力22kW以下) と急速充電器 (出力22kW超) の設置台数の推移をみると、2011年はそれぞれ0台、0台、2012年はそれぞれ0台、1台、2013年はそれぞれ60台、3台、2014年はそれぞれ120台、3台、2015年はそれぞれ158台、22台、2016年はそれぞれ163台、37台、2017年はそれぞれ206台、54台、2018年はそれぞれ508台、74台、2019年はそれぞれ592台、124台、2020年はそれぞれ722台、259台。

出所:欧州代替燃料観測機関(EAFO)

2015年、電気モビリティー普及に必要な規制とサポート枠組みを掲げた「イエドリク・アーニョシュ行動計画」が議会承認を受けた。ハンガリーの充電インフラ整備は、この計画に基づき、政府がEVに必要な基礎的充電インフラ構築を推進するかたちで進められた。充電インフラ整備は、主に以下の3つにより促進された。

  • イエドリク・アーニョシュ行動計画の一環として、ハンガリー政府は充電ポイント設置支援のため補助金交付を発表。2016年に人口1万5,000人以上の地方自治体を対象とし、返済不要とされた。
  • 政令443/2017で、技術・革新省管轄下の非営利企業e-Mobi(注2)に対し、充電ポイント設置を含めたEV普及活動の役割を付与。
  • 2016年10号政令で、300平方メートル超の大規模スーパーマーケットまたは駐車場の運営事業者に対して、100台の駐車スペースごとに一定数(注3)の充電ポイント設置を義務付け。期限は、所在地域の人口規模に応じて2019年、2020年、2026年まで。

ガソリンスタンドやホテル、レストラン、教育機関や民間企業などでも充電ポイントを設置する施設が増えている。ハンガリー中央統計局(KSH)の調査によると、2019年末までに国内ほぼ全ての市町村で50キロ圏内に少なくとも1基の公共充電ポイントが設置された。充電ポイントの約3分の1が大都市や高速道路沿いにある(図3参照)。

図3:急速充電ポイントが所在する最寄りの地域までの距離(2019年末時点)
急速充電ポイントが所在する最寄りの地域までの距離を示したマップ。

出所:ゲルシェ・ジョージェフ、「電気化:ハンガリーにおける電気自動車の充電ネットワーク普及」、地域統計、4(6)、ハンガリー中央統計局

なお、ハンガリーでは、公道や公的施設の駐車場、ガソリンスタンド、公共駐車場などにある公共充電ポイントの運営には、エネルギー・公共事業規制局(MEKH)の許可が必要だ。なお、個人の住宅に設置する自家用充電機器は対象外とされている。

MEKHによると、充電回数は2017年の約1万3,585回から、2018年に16万882回、2019年には56万4,755回まで上昇し、2年間で約42倍に増加している。

さらに、前述のイエドリク・アーニョシュ行動計画に基づき、ハンガリー政府は以下を含む各種インセンティブを発表した。

  1. 「グリーンナンバー」の導入:環境に優しい自動車(条件を満たすEV)を対象に、グリーンナンバープレートを配付。所有者に都市部の無料駐車権を提供し、自動車登録税・社用車税など自動車関連の税負担を免除。
  2. 購入者への補助金制度:購入価格の21%を補助。
  3. 充電ポイント整備に向け、自治体向けに補助金交付。

EVの普及は、2050年の気候中立目標を達成するためにも不可欠だ。そのことを踏まえ、政府は2019年、イエドリク・アーニョシュ行動計画を改定した。新たな計画に基づく楽観シナリオでは、2030年までに45万台のEVと4万5,000基の充電ポイントがハンガリーに導入される見込み。

また、2016年と2018年に発表された補助金では、約2,800台のEV購入に対し計30億フォリント(約10億5,000万円、1フォリント=約0.35円)が支給された。2020年6月にはタクシーや電動バイクにも対象を広げ、50億フォリント規模の補助金を発表。購入価格が1,100万フォリント未満の場合は1台につき最大250万フォリント、1,100万~1,500万フォリントの場合は最大50万フォリントを支給する。補助金の申請は非常に活発で、政府は同年9月にさらに8億8,200万フォリントを追加した。政府試算では、これにより計2,000台のEV購入の支援につながる見込みだ。

電気バスについても政府の支援が用意されている。政府は2019年7月、国内で環境に配慮したバスの普及を主目的とする国家バス戦略を採択した。戦略では、グリーンバスプログラムという枠組みを設けた。この枠組みの下、人口2万5,000人以上の自治体が環境に配慮したバスを購入する際に補助金を支給する。10年間で計359億フォリントを給付予定だ。バスの買い替えを計画している地方自治体や地元の輸送会社に対し、購入価格の最大20%を補助する。同計画を通じ、公共機関が運営するバスのうち7,500台を最新車両に置き換えることを目標にした。2020年秋には同プログラムの第1段階として、デブレツェン市(9月上旬)とベーケーシュチャバ市(10月中旬)の2市で電気バスのパイロットプロジェクトを開始。ほかの6都市でも実施された。プロジェクト実施都市には1カ月間、トライアル用の電気バスを支給し、電気バスの調達や運用に関する課題を検討し、プログラム実施に関するテストデータを収集、都市交通での電気バス移行を促進する。

グリーンバスプログラムは、国内バス生産の促進も目的とする。このプログラムを通じ、国内シェアを60%以上とすることを目標としている。

一方、EV開発と自動運転に関連する課題として、テスト施設が限られていることが挙げられる。これを受け、政府は2019年に自動運転テストコース「ザラゾーン」を設立した(注4)。第1段階が完成したのは、同年5月のことだ(注5)。第5世代移動通信システム(5G)を活用し、公道では実施不可能なテストも含め、あらゆる状況を想定して試走できる。欧州の多くの自動車関連企業がアクセス可能な場所に立置し、オーストリア国境にも近い。そのため、クロスボーダー研究が可能だ。そのことからも、今後、自動運転やEVを含め自動車関連の新たなビジネスで、中・東欧地域の研究開発拠点となることも期待できる。

主要EV部品サプライヤーも集積

ハンガリーのEV分野で近年、存在感を示しているのが韓国企業だ。特にEV向けバッテリーと関連部品の生産に活発な企業が多い。その契機は、電池メーカーのサムスンSDIと、ハンガリーの第2工場建設を発表したSKイノベーションが進出して生産を開始したことだ。その後、関連部品会社が次々とハンガリー参入を決定した(2020年11月24日付ビジネス短信参照)。電池部品を製造する(予定も含む)韓国企業には、インジコントロールズ 、シンハンセック、斗山(トサン)、ブンチュン、ロッテ・アルミニウム、ドンファがある。

日系企業では、GSユアサが2018年1月にハンガリー北東部のミシュコルツにリチウムイオン電池の生産工場を建設すると発表、2019年10月に稼働した。2019年2月には、日本メクトロン所有のメクテックグループに属するエンメック(現・メクテック)がハイブリッド車やEV用バッテリー接続ユニットを中心とした部品の新工場を設立すると発表。また、東レは同年7月にハンガリー北部ニェルゲシュウイファルでEVに使用するリチウムイオンバッテリー用のセパレーターフィルムの生産を行うと発表している。

ドイツ企業としては、アウディが同社の純EV「e-tron」向けのモーター生産を2018年に開始。2019年の生産台数は9万台を超えた。ロバート・ボッシュ、コンチネンタル、バレオシーメンスなどの主要な1次サプライヤーも、ハンガリーに生産拠点を有する。さまざまなEV関連部品の製造や、EV・自動運転関連の研究開発が進められている(図4参照)。

一方、電気バス部品については、2020年9月にイカルス・ヤールムーテクニカがブダペストの工科技術系のオーブダ大学と共同で、電気バス用シャーシを開発すると発表している。

図4:EV関連部品サプライヤーおよび自動車メーカー集積マップ
ハンガリー国内のEV関連企業の所在を示したマップ。

注:赤:乗用車、電気バス製造企業、緑:バッテリー関連(リチウムイオン電池、セパレーターなど)、青:その他

表:
番号 企業名 EV関連で製造している部品(予定含む)など
1 アウディ ドイツ ハイブリッド車、EVエンジン
2 マジャールスズキ 日本 ハイブリッド車
3 メルセデス・ベンツ ドイツ ハイブリッド車
4 BMW ドイツ EV(予定)
5 BYD 中国 電気バス、トラック(予定)
6 エレクトロバス ハンガリー、中国 電気バス
7 サムスンSDI 韓国 リチウムイオンバッテリー
8 SK イノベーション 韓国 リチウムイオンバッテリー
9 GSユアサ 日本 リチウムイオンバッテリー
10 東レ 日本 バッテリー用セパレーター(予定)
11 シンハンセック 韓国 バッテリー用部品
12 メクテック 日本 バッテリーコネクタ用部品
13 インジコントロールズ 韓国 バッテリーモジュール (予定)
14 斗山(トサン) 韓国 バッテリー用銅箔
15 ブンチュン・プレシジョン 韓国 バッテリーコネクタ(アルミジャック)(予定)
16 ロッテ 韓国 バッテリー用アルミ箔(予定)
17 ドンファ 韓国 バッテリー用電解質液、溶剤
18 ソウルブレイン 韓国 バッテリー用電解液
19 セムコープ 中国 バッテリー用セパレーターフィルム
20 ILJINマテリアル 韓国 バッテリー用銅箔
21 深圳コダリ 中国 バッテリー用アルミ部品
22 サンシン 韓国 バッテリー用部品
23 バレオシーメンス ドイツ モーター、 DC/DCコンバーター、インバーター、
オンボード充電器
24 コンチネンタル ドイツ 電子部品、マイクロ電子回路モジュール
25 ロバート・ボッシュ ドイツ EV・自動運転車関連研究開発
26 ロバート・ボッシュ
エネルギー・ボディシステム
ドイツ ハイブリッド車・EV用ブレーキアシストシステム
27 ティッセンクルップ ドイツ 電動モーター部品(予定)
28 インフィニオン ドイツ 産業用半導体(予定)
29 シンボン 台湾 ケーブル
30 リナマー カナダ 電動パワートレイン
31 ハイドロ ノルウェー 加工アルミニウム部品、耐衝撃性合金
32 シェルボン 中国 金属部品(予定)

出所:HIPA,各社ウェブサイト


注1:
ハンガリーのイカルス社と中国のCRRC社との合弁企業。
注2:
2019年4月以降、電気モビリティー開発、EV購入支援や社会意識の向上に関する実施母体は、産業開発公的基金(IFKA)となっている。IFKAは、技術・革新省の関係機関。
注3:
新規の駐車場の場合は10基以上、既存施設の場合は2基以上。
注4:
ザラゾーンは、ハンガリー西部、スロベニアやクロアチアと国境を接するザラ県のザラエゲルセグに位地する。
注5:
最終的には、2023年までに完成の予定。ただし、既設設備でのテストは開始済み。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ
2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所(執筆時)
河原徳恵(かわはら のりえ)
2016年、ジェトロ入構。海外事務所運営課を経て、2018年7月~2019年7月、ブダペスト事務所に在籍。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所(執筆時)
テムレイトナー・バラージ
2020年9~10月、ブダペスト事務所にインターン研修生として在籍。