英国の人々の食への関心と食生活は?

2021年11月11日

英国人は食への関心が低いとしばしば言わるが、実際のところ、どうなのであろうか。本稿では、英国食品基準庁(FSA)が2021年7月に公開した食品消費に関する調査「Food and You 2 -Wave 2 -外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に基づき、英国の消費者の食品消費動向について考察する。

本調査は、年に2回実施されるものであり、今回は2020年11月から2021年1月にかけて主にオンラインで行われ、イングランド、ウェールズ、北アイルランドにおける(スコットランドは対象外)、3,955世帯、5,900人の成人が回答した。したがって、当然ながら新型コロナウイルスの影響を強く受けた結果となっている。調査は、大きく6つの項目「信頼できる食品」「食品への懸念」「食品の安定的な確保」「外食と持ち帰り・配達」「食物アレルギー」「家庭での食事」で構成されている。本稿では、これらの中から特徴的な事項を抜粋して報告する。

食品や関連事業者への高い信頼

はじめに、食品の安全(「信頼できる食品」の項目)に関する信頼調査の結果を紹介する。これによると、回答者の93%は、自らが摂取する食品の安全性について信頼しているとしており、食品表示の正確性についても、89%が信頼しているとしている。食品サプライチェーンの各部門への信頼については図1のとおりとされており、全般的に高いものの、やや差異が見られる。生産者の88%を筆頭に、小売店・スーパーマーケット、レストラン、食品製造事業者、食肉処理事業者・乳業者という順に信頼度が高く、持ち帰り事業者や配達事業者は、相対的に低くなっている。配達事業者を除き、数値の差異は小さいものの、ここでは、近年、聞かれる話題の内容にやや反する傾向がいくつか見て取れる。1つ目として、気候変動や動物福祉の観点から、畜産を中心に農業のマイナス面がしばしば話題になっており、実際に食肉処理施設や乳業工場への信頼は、類似性の高い食品加工事業者に比べやや低くなっているものの、なお生産者への極めて高い信頼がうかがえる。2つ目として、寡占化と低価格競争の激しい英国の小売業界では、大手スーパーマーケットによる供給業者への圧力がしばしば問題視され、独立した規制当局外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが、小売業者による供給業者に対する過大なリスクやコストの転嫁をチェックしている。しかし、そうしたビジネス上の問題は、消費者の購買行動へはあまり影響しないとみられ、日頃の買い物に利用しているスーパーマーケットに対しても高い信頼がうかがえる。3つ目として、新型コロナウイルスの流行以降、食品配達サービスが急拡大している状況下において、食品配達事業者への信頼が相対的に低いことも特徴的である。

図1:英国消費者による食品関連事業者への信頼度合い
生産者は88パーセント、小売店・スーパーマーケットは87パーセント、レストランは84パーセント、食品製造事業者は83パーセント、食肉処理事業者・乳業者は78パーセント、持ち帰り事業者は70パーセント、食品配達事業者は52パーセント。

出所:英国食品基準庁

主な懸念要素は健康面

次に、食品への懸念については、まず回答者の約9割は、特に懸念事項がないとしており、消費者の食品に関する信頼度の高さが見られる。一方で、懸念があるとした回答者の具体的事項としては、「生産方法」が最大の23%となり、「食品安全・衛生」が17%、「環境・倫理」が16%と続いている。さらに、既存の選択肢から選ぶ方式では、「食品中の糖分含有量」および「食品廃棄」がともに60%と最大で、それに次いで「動物福祉」が57%となっている(図2参照)。

ここから大きく2つの特徴がうかがえる。1つ目として、大多数の者は懸念がないとしながらも、懸念を持つ者の中では、健康面や安全性が主な関心事項であることがわかる。これは、2021年に入って相次いで発表された、英国政府によるいわゆるジャンクフードの広告や販売への規制計画や、政府諮問機関による砂糖関連税の提唱(2021年7月21日付ビジネス短信の別添参照)とも符合する調査結果と言える。2つ目として、動物福祉が塩分や脂肪の含有量よりも関心が高いという、日本の感覚からするとやや意外な結果である。こちらは、英国における動物福祉・動物愛護への意識の高さやビーガンへの関心の高まりなどを反映したものであると考えられ、これに伴い政府も昨今、動物福祉関連行動計画の整備に取り組んでいる(2021年5月14日付ビジネス短信参照)。

図2:英国消費者の食品関連の懸念事項
食品中の糖分含有量は60パーセント、食品廃棄は60パーセント、動物福祉は57パーセント、食品中のホルモン、ステロイド、抗生物質は52パーセント、食品中の塩分含有量は51パーセント、食品中の脂肪含有量は51パーセント、食中毒は47パーセント、外食時の食品衛生は45パーセント、農薬利用は43パーセント、食品偽装・犯罪は43パーセント。

出所:英国食品基準庁

英国政府のジャンクフードへの規制計画

いったん、本調査結果から離れ、上述の英国政府のジャンクフードへの規制計画の概要を説明する。英国政府は2021年6月、脂肪分、糖分、塩分の多い食品(HFSS食品)について、有料のオンライン広告、午後9時以前のテレビ広告や英国政府管轄下のオンデマンド媒体における広告を制限する計画を発表した(英国政府ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。こうした措置は、国民、とりわけ子供の肥満防止、ひいては食品産業の健康的な食品製造の喚起を目的としたものであり、2022年末までの法制化を予定している。

続けて、英国政府は2021年7月、スーパーマーケットやオンラインにおけるHFSS食品の販売・掲示についても制限を設ける計画を発表した。これは、スーパーマーケットにおいては、入り口、通路の端、レジの前といった目立つ場所への配置の制限、オンラインでも、トップページ、食品カテゴリーごとのトップページ、「買い物かご」ページ、支払いページにおける広告を制限するものである。さらに、「1つ買えば1つ無料で追加」「2個分の価格で3個提供」といった数量上乗せ方式の販売促進手法を禁止するとしている。こちらも、広く国民の肥満対策を目的としており、2021年半ばの法制化を予定している。こうした政策と上述の調査結果を総合すると、英国政府の政策意図と消費者の意向は、一定の一致をみていると言える。

食品確保の水準は、所得格差が如実に反映

次に、「食品の安定的な確保」についての調査結果を紹介する。ここでの食品の安定的な確保とは、健康的で活動的な生活を送るために必要な食品を十分に確保できている状態を指している。すなわち、量、質、安全性を総合的に含んだ概念である。そうした意味において、回答者の84%は、食品の確保ができているとしている。年齢階層別にみると、高年齢層ほど割合が高く、特に高い水準で確保できている者の割合は、16~24歳では60%である一方、75歳以上では91%となっている。

また、所得階層別にみると、予想される通り、顕著な差が表れている。すなわち、年収9万6,000ポンド(約1,507万円、1ポンド=約157円)以上では98%が高いレベルで確保できている一方、同1万9,000ポンド未満では、高いレベルで確保できている割合は約半分にとどまり、約2割が極めて低いレベルとしている。ユーロスタットによると、英国は、2018年のジニ係数(所得格差を表す指標)がEU加盟国を含めた28カ国中、5位に位置するなど、欧州でも所得格差が大きい国として知られているが、食品の安定的な確保においても、その影響が顕著に出ている。

新型コロナウイルスの影響は顕著

続いて、過去1年間の食習慣の変化(「食品の安定的な確保」の項目内)については、当然ながら、新型コロナウイルスの影響が顕著に表れている(図3参照)。半数以上が該当すると回答した項目は、「外食の減少」が57%、「家庭での食事の増加」が56%、「家庭での調理の増加」が52%であった。また、変化の要因として、新型コロナウイルスの影響と明示している回答者の割合も74%に上っている。

図3:英国消費者の過去1年の食生活の変化
外食の減少は57パーセント、家庭での食事の増加は56パーセント、家庭での料理の増加は52パーセント、持ち帰りの減少は40パーセント、特別提供品の購入は32パーセント、食品購入場所の変化は24パーセント、調理済み食品の保存は24パーセント、購入食品の変化は22パーセント、ランチ弁当の増加は21パーセント、消費期限の近い食品の購入は16パーセント

出所:英国食品基準庁

1割前後の回答者は、食品援助策を利用

英国では、低所得者層などに対して、政府などが無償の食品提供を行っており、今回は過去1年の利用頻度について調査した。なお、こうした調査項目については、一般に実際に比べて回答数が低くなる傾向がある。以下、羅列すると、フードバンクなどについては回答者の7%が利用、無料の学校給食(低所得世帯用)は17%が利用、スクールクラブ(授業時間外での児童の余暇活動の場の提供)での無料朝食提供は13%が利用、ヘルシースタート(妊娠中の女性または乳幼児を含む世帯対象の乳幼児向け基礎食品の無料提供)の引換券は9%が取得していた。いずれも大きな割合ではないが、英国では1割前後の市民は、こうした支援により日々の食生活が支えられている実態がある。

高まる配達・持ち帰り傾向

ここからは、「外食と配達・持ち帰り(以下、中食)」の状況について紹介する。英国の消費者が過去4週間に行った外食・中食の利用率をみると、「店からの持ち帰り・飲食店への直接注文」が47%、「配達(オンライン配達業者経由)」が32%と、高い割合になっている(図4参照)。一方で、「レストラン」「パブ・バー」の利用率は、それぞれ16%、13%にとどまっている。ただし、この調査結果はいくらか注意が必要であろう。まず、過去4週間の自身の食生活をきちんと覚えているかという点は、かなり懸念が残る。4週間もあれば、いずれも利用したという者は、かなり多いのではないかと想像される。そして、本調査期間は、2020年11月から2021年1月にかけての新型コロナウイルスによる制限が厳しい時期であったことが、それにも増して重要な点である。そうした点はあるにせよ、中食の比率が高く、外食の比率が低いという明確な傾向が表れている。また、配達と持ち帰りについては若年層ほど、持ち帰りについては高所得者層ほど、利用率が高まっている。さらに、どこから持ち帰りや配達するかの決定において、「過去の経験」と「品質」を重視すると回答した割合が8割と最大となった。一方、「価格」の回答率は56%、「割引等」のそれは36%と相対的に低くなっている。持ち帰りをする割合は高所得者層ほど増加する傾向もあり、高所得者層は食品の価格に対するこだわりが相対的に低いと考えられる。

図4:英国消費者が過去4週間に行った外食・中食
店からの持ち帰り・飲食店への直接注文は47パーセント、カフェ・サンドイッチ店は32パーセント、持ち帰り(オンライン配達業者経由)は32パーセント、ファストフード(店内飲食・持ち帰り)は31パーセント、レストランは16パーセント、パブ・バーは13パーセント、食堂は8パーセント、キッチンカー・屋台は6パーセント。

出所:英国食品基準庁

食への高い信頼、外食の減少、所得による差が明らかに

以上の通り、英国における人々の日々の食生活に関する調査結果を概観してきたが、大きく3つの特徴が見て取れる。1つ目は、食品分野における高い信頼度である。食品を取り扱う事業者への信頼度は総じて高く、食品そのものについても目立った懸念事項はないという回答が多数であった。もちろん、これらは主観的な信頼度であり、客観的な安全性と必ずしも一致するわけではない。2つ目は、配達や持ち帰りの高い利用割合である。この点は、新型コロナウイルスの影響が大きいと思われるが、少なくとも明確な傾向として表れていることは確認できた。3つ目は、所得階層による食生活の差異である。高所得者層は、食品を高水準で確保でき、価格にこだわらず持ち帰りなども積極的に利用していることから日々の食生活にあまり不自由を感じていないと思われるが、回答者の1割前後は低所得者層向けの何かしらの食料の無償提供を受けていた。

英国の消費者の食品消費動向として、本稿記載のような事象が垣間見えることは、英国の食品市場の把握や日本産食品の輸出において改めて留意する必要があると思われる。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
根本 悠(ねもと ゆう)
2010年、農畜産業振興機構入構。2019年4月からジェトロに出向し、農林水産・食品部農林産品支援課勤務を経て2020年9月から現職。