高まる中国企業のプレゼンス(カンボジア)
プノンペン経済特区への企業進出状況

2021年5月27日

操業開始から10有余年となるカンボジアのプノンペン経済特区(PPSEZ)では、2020年末時点で、進出企業数が100件を超えた。進出企業を国・地域別にみると、最多の日本に続き、中国企業の増加が顕著となっている。新型コロナウイルス禍で企業誘致面での制約もみられるが、操業上の問題点とされていた産業用電気料金が低下するなど、事業環境も改善。アフター・コロナを見据え、PPSEZのさらなる開発が計画中であるとともに、日本企業誘致への期待も寄せられる。


プノンペン経済特区(PPSEZ)(PPSEZ社提供)

中国企業の進出増加

カンボジアの首都プノンペン郊外に立地するプノンペン経済特区(PPSEZ)は、入居第1号となる製造業者による操業開始(2008年)後、早13年となる。PPSEZは日本のゼファー社が出資するカンボジア初の日系工業団地であり、同国での新たな進出先として注目されてきた。

PPSEZでは、操業来、日本人スタッフが管理運営に主導的な役割を担い、インフラ整備や外資企業誘致などに積極的に取り組んできた。2010年6月時点で操業企業数はわずか9件にすぎなかったが、2020年12月末時点では82件、操業準備や工場建設中などの案件も含めれば、進出企業数は104件に達している。これを国・地域別にみると(表参照)、日本が45件と最多、第2位の中国が25件(注)、以下、台湾8件、タイ5件、カンボジアとシンガポール各4件、米国、マレーシア、オランダが各3件、オーストラリア、韓国、フィリピン、ベトナム各1件となっている。金額ベース(認可額)では、日本の2億4,900万ドルに対し、中国は1億8,900万ドルと肉迫し、以下、米国1億1,400万ドル、シンガポール4,500万ドル、タイ3,900万ドル、台湾2,600万ドル、ベトナム2,300万ドルなどと続いている。

表:プノンペン経済特区への国・地域別企業進出数と金額(2020年12月末時点) (単位:100万ドル)
国名 企業数 金額
日本 45 249
中国 25 189
台湾 8 26
タイ 5 39
カンボジア 4 5
シンガポール 4 45
米国 3 114
マレーシア 3 7
オランダ 3 1
オーストラリア 1 3
韓国 1 1
フィリピン 1 5
ベトナム 1 23
合計 104 707

注1:金額は認可ベース。
注2:企業数には、操業準備中、工場建設中、投資申請手続中なども含む。
出所:プノンペン経済特区資料(2021年3月)からジェトロ作成

また、中国企業の進出(操業開始時)を 年次別にみると、2011年と2012年、2015年、2017年に各1件、2018年に2件と少数だったが、2019年に8件、2020年1件、その他、操業準備中4件(うち、1件香港)、工場建設中4件(うち、1件香港)、事業保留1件などとなっている。進出のためのフィジビリティー・スタディー(FS)から操業まで数年要することを考慮すれば、2010年代半ば以降に中国企業の進出に向けた活動が本格化したことがうかがえる。PPSEZの上松裕士・最高経営責任者(CEO)は「中国の『一帯一路』政策や、米中摩擦による中国からの生産拠点シフトの影響などから、中国企業のカンボジアへの進出が顕在化した。PPSEZとしても中国人スタッフを雇用し、誘致に取り組んだ。2020年には中国アパレル大手企業がPPSEZのフェーズ3区域の45ヘクタールを購入して入居済みだ。同社はカンボジアから米国向け輸出を意図し、さらなる工場拡張を希望している。また、PPSEZのみならず、カンボジア国内のシハヌークビルなど他のSEZにも中国企業の進出が顕在化している」としている。

一方、日本企業では味の素(食品加工)、デンソー(自動車部品)、ミネベアミツミ(電子部品)、ロート製薬(目薬など)などが進出しているが、中国企業とは対照的に、進出案件は伸び悩んでいる。日本企業は2010年~2015年には28件(2010年2件、2011年1件、2012年6件、2013年8件、2014年6件、2015年には5件)の入居・操業開始がみられたが、2016年以降は10件(2016年1件、2017年2件、2018年4件、2019年2件、2020年1件)、その他、操業準備中2件、投資申請手続中1件、工事建設準備中1件、事業留保3件にとどまっている。

投資環境は改善傾向

カンボジアの投資環境に関し、これまで問題視されていた電力料金の高さがここ数年でだいぶ改善されている。上松CEOは「以前はカンボジアの産業用電気価格が1キロワット時(kWh)約20セントと高く、2010年前後からベトナムから送電線で引いた電力を利用したり、シンガポール企業とカンボジアの停電対策として2008年にPPSEZ内に火力発電設備を設けたりしていた。しかし、今日では産業用電気料金が同13.7セントと安価になり、カンボジア電力公社(EDC)から電力の安定供給が受けられるようにもなっている」としている。その他のインフラ整備に関しても、「目下、プノンペン環状線を建設中で、完成すれば、プノンペン港までより早く行けるようになる」と述べている。

新型コロナ禍の影響は関連工業団地にも波及

また、新型コロナ禍の影響に関し、上松CEOは「PPSEZはもとより、当社がタイ国境近くのポイペトに新設した工業団地への企業進出案件は、コロナ禍がなければ『タイプラスワン』によるタイ側からの進出で、もっと企業誘致ができていたものと思う。自身、コロナ前は頻繁にポイペトに出張していたが、プノンペンのロックダウンもあって移動面の制約もある。一方、コロナ禍にもかかわらず、2020年のカンボジアの輸出は好調だ。(中国から)同国へのシフトもあって、PPSEZ入居企業の雇用者数は2万人から2万6,000人へ増加した。当社としても、今後PPSEZのさらなる拡張を計画しているところだ。また、カンボジア政府要人は日本企業の進出増加に大きな期待を寄せている」と述べている。


注:
中国25件には、香港3件を含む。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部上席主任調査研究員
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、シンガポール、バンコク、ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長を経て2019年4月から現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。