地酒2社、初めてのアフリカ輸出を実現(ケニア)

2021年10月25日

岐阜県の中島醸造と石川県の車多酒造が2021年8月、ケニアへ地酒の輸出を開始した。両社にとって、初のアフリカ進出となる。

ケニアでは、日本食の認知がにわかに高まっている。その中で、日本酒を求める声もある。しかし、煩雑な手続きがネックとなり、ケニアへの日本酒輸出は進んでいない。今回の地酒の輸出を実現させたキープレーヤーに、サプライチェーン構築のポイントや苦労、今後の展望を伺った。聴取元は、以下の通り。

  • 生産者:中島醸造の中島修生氏、車多酒造・営業部の横山直樹氏
  • 日本酒卸事業者(輸出に必要な手続きを滞りなく進めるため生産者を支援):いまでや営業戦略部の張孝順(チャン・ヒョスン)氏
  • 輸入者、当地販売事業者:KEA TRADINGディレクターで、KAI GLOBAL代表取締役の福居恭平氏。

中島醸造の中島修生氏
(本人提供)

車多酒造の横山直樹氏
(本人提供)

福居恭平氏(ジェトロ撮影)

日本食需要の高まりをビジネスチャンスに

質問:
アフリカ、ケニアへの輸出を目指したきっかけは。
答え:
(車多酒造・横山氏)当社には、北米、アジア、オセアニア向けに日本酒を輸出した実績がある。近年は、アフリカ各国で日本企業の進出が進み、ケニアでも日本食需要の高まりから日本食材を扱う店や日本食レストランが増えていると聞いた。今後さらに日本食の需要が増えると見込んだため、輸出に挑戦することになった。
(中島醸造・中島氏)「容器に入っている商品は世界中にお届けできて、そして人々に楽しみを提供できる」を合言葉に、ケニアに限らずあらゆる可能性に目を向けてきた。その中でもケニアは、アフリカの中でも人と情報が集まり、コンテンツ発信の場として適切と考えた。輸出では、酒蔵と信頼関係を築く酒類卸の「いまでや」と連携している。ケニア輸出は、(生産者、卸、輸出者、輸入者、現地販売者という)キーパーソンがそろったことで実現したと考えている。
質問:
ケニアでの日本酒の需要は。
答え:
(KEA TRADING・福居氏)現時点では、ケニアで購入できる日本酒に限りがある。市場も小規模だ。日本食レストランや一部の創作レストランで見かける程度だ。非日系の日本食レストランや創作レストランで、日本酒を模倣した酒や劣化した日本酒が提供されている。

手続きに苦労、取引先との密な協業がカギ

質問:
日本酒の輸出に際し、苦労したことは。
答え:
(車多酒造・横山氏)輸出の実績があったので書類の問題はなかった。しかし今回のケニア輸出では、アルコール度数などの検査確認の依頼を受けた。そこに費用と時間がかかった。
(いまでや・張氏)輸出事務では、適合証明書(Certificate of Conformity、CoC)の取得に苦労した(注)。ケニア当局や検査機関などが提示するガイドラインに不明瞭な点があった。日本酒のケニア輸出は前例が少なく、ガイドラインに記載のない想定外の検査費用が発生、生産者に必要な書類内容として伝えた情報が二転三転し、理解をいただく過程に時間を要した。 今回は、日本食材輸出の実績が豊富なキッコーマン、船積みや輸出申告を行ってくださったJFC外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(日本食材輸出)と協業した。経験豊かな生産者から多大なサポート受けることができたため、期日までに事務作業を終えることができた。
(KEA TRADING・福居氏)輸入者として、現地の輸入・販売ライセンス取得に苦労した。日本での煩雑な輸出手続きや、ケニア国内でのライセンス取得の苦労を乗り越えれば、輸入手続き自体はシステムでしっかりと管理されスムーズだった。

日本酒需要は自ら喚起、長期的なコミットメントが必要

質問:
今後の期待は。
答え:
(車多酒造・横山氏)地酒の輸出をきっかけに、ケニアで日本酒が根付いていくことを期待している。また、この輸出を足掛かりとして、アフリカ大陸の他の国へも輸出先が増え、輸出量も増やしていきたいと考えている。
(中島醸造・中島氏)今後は、(より多くの方に日本酒を理解してもらうための)教育、ブランディングを行い、結果を出すだめの活動をしていかなければならない。日本ではワインが普及するのに50年かかった。長期的なコミットメントが必要だ。
ケニアの方々に、日本酒という生活の楽しみや新たな文化を伝え、感動をアフリカ全土に広げる行動を起こしたい。そして、行動や結果が世界への刺激となることを期待している。
質問:
今後の見込みや実現したいことは。
答え:
(KEA TRADING・福居氏)日本食の認知度は確実に上がっている。その流れで日本酒の認知が上がり、需要が大きくなることは間違いない。
当社は、日本から高品質な日本酒を正規ルートで輸入している唯一の輸入者と自負している。今後は自ら需要を生み出すつもりで販売先を拡大し、輸入量、銘柄を増やしていきたいと考えている。

注:
ケニアへ貨物を輸出するには、例外を除き、全ての貨物について船積み前検査(PVoC)を受け、適合証明書(CoC)を取得しなければならない。
貨物の船積み前検査:ケニア向け輸出」参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか)
2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。