経済危機のスリランカで、水質環境を改善へ
ダイキアクシスの取り組み

2022年12月7日

スリランカは、経済危機に直面し、物価の高騰や石油・電力の不足など、さまざまな課題を抱えている。2022年7月に大統領に就任したラニル・ウィクラマシンハ氏の政権は、IMFなどの援助を求めつつ、経済の再建を模索している。

そうした中、浄化槽や浄水機器などの環境関連機器、住宅関連設備を製造・販売するダイキアクシス(本社:愛媛県松山市と東京都中央区)は、2022年10月にスリランカで組み立て工場を稼働させた。

経済危機を抱えるスリランカでどのようにビジネスを展開しているのか。現地法人の責任者を務める環境機器事業本部アジア・アフリカ事業部担当部長の小和瀬塁氏、現地社員のとりまとめ役を担うディレクター兼最高執行責任者(COO)のプラバス・ダーナヤケ(Prabath Dhanayake)氏に話を聞いた(インタビュー:11月1日)。

価格低下を目指し、現地に組み立て工場設立

ダイキアクシスでは、日本国内の住宅関連市場の縮小が見込まれる中で、2015年のインドネシアの工場買収を契機として、新興国を中心に海外展開に精力的に取り組んでいる。現在では同国に加えて、インドや中国、ケニア、シンガポールに現地法人を設立して、浄化槽の製造・販売や排水処理事業を展開している。また、ミャンマーやバングラデシュ、パキスタン、ネパール、ベトナムなどでは、現地代理店を通じて販売している。2022年11月にはインドのデリー近郊に工場を設立する。

スリランカでは、2021年5月に日本側100%出資による現地法人「Daiki Axis Environment (Pvt) Ltd.」を、2022年10月にはケラニヤに組み立て工場を設立した。現在工場では、個人宅の利用を想定した小型浄化槽を生産している。

スリランカへの展開の契機は、現地の販売代理店を務めることになったダーナヤケ氏の問い合わせだった。同国では、下水道の普及率が2.4%にとどまっており、環境を改善する余地が大きかった(注)。そのため、ダーナヤケ氏を通じて販売したところ、一定のニーズがあることがわかった。

一方で、価格がネックになり、思うように販売実績が上がらなかった。浄化槽はサイズが大きいため、輸送費の負担が大きい。また、代理店による販売では、ブランドの浸透にも限界があった。そこで、より強い価格競争力を確保するとともに、営業活動に力を入れるため、現地法人と組み立て工場を設立することに決めた。


スリランカのみならず、海外展開事業全般の責任者を務める小和瀬氏(ジェトロ撮影)

周囲への配慮の視点から、浄化槽に高い関心

「スリランカ人は親切な人が多く、互いに助け合いながら周囲と一緒に生活を改善しようという文化が浸透している。他人に迷惑をかけないようにしようとの考え方を持つ人々は、環境に配慮する重要性への理解度も高い。そのため、長期的に環境を保護することができるというメリットを伝えると、浄化槽に自然と関心を持ってもらえる」

小和瀬氏はスリランカでの販売状況に一定の手応えを感じている。特に、個人宅向けの小型浄化槽の販売実績では、既に他国を上回っているという。個人宅では、浄化槽の導入コストがどうしても高くなってしまう。そうした背景にもかかわらず、浄化槽の意義を十分に理解した消費者が購入しているという。現状の売り上げペースであれば、当初に掲げた販売目標の早期達成が見込まれるという。


256基の浄化槽を導入したホームランドスカイラインアパートメント社とダイキアクシス社の記念撮影
(ジェトロ撮影)

献身的な社員が短期間で業務に熟達

「スリランカの社員は、会社へのデディケーション(献身性、責任感)が非常に強いんです。モチベーションが高く、教育水準も高い。まだ工場ができて間もないのに、既に数年間稼働している他国の工場にも引けを取らないくらいですよ。こうした優秀な人材がそろう国ならば、今後大きく成長していくだろうと感じています。加えて、人当たりがインドやインドネシアと比べるとマイルドで、フレンドリーに接してくれるのもうれしいですね」

小和瀬氏はスリランカのスタッフについて、驚きを交えながら高く評価している。工場では現在、30人のスタッフが勤務しており、ダーナヤケ氏が彼らを取りまとめている。現地法人の責任者の小和瀬氏は日本から出張ベースで数カ月おきに訪問している。

通常は、現地スタッフが既定のインタビューシートを基に営業活動を行い、その内容に応じて小和瀬氏が指示を出している。当初は小和瀬氏が細かく指示を出していたが、最近ではかなり簡素になってきているといい、それぞれの社員が自発的に業務の知識を短期間で吸収している成果だという。


工場では現地社員が精力的に浄化槽を組み立てる(ダイキアクシス社提供)

経済危機の影響は限定的

スリランカで発生している経済危機のビジネスへの影響については、「さほど大きくない」という。その上で、以下の2点の課題を挙げている。

1点目は、国外への外貨送金が滞っていることだ。もともと、スリランカに資材を輸入した際、ドルで送付元に送金する体制にしていたが、現地の銀行から国外への外貨送金が停止されている。そのため、資材を輸入しても送金できない状況が続いている。ただ、幸いなことに、現状資材の送付はダイキアクシスグループ内の取引にとどまっており、送金に関してもグループ内の融通に限定している。このため、しばらく外貨送金ができない状況が継続しても、グループ全体には大きな損失ではないため、さほど問題にはなっていないという。

2点目は、政府関係機関とのビジネスだ。新型コロナウイルスの影響がある時期でも、スリランカ政府関係機関は浄化槽に関する予算を確保していた。だが、財政危機に伴い、政府内で浄化槽に充てる予算が減少する見込みだという。実際に、政府関係機関の顧客からは、リピートオーダーが減少している。これに対して、民間の事業者との取引については特段変化がないという。

一方で、特定の非必需品に対して輸入を禁止する規制に関しては、浄化槽が対象になっていないため、問題はないという。ガソリン不足については、組み立て工場建設が若干遅延する事態になったが、大きな問題には至らなかった。また、物価の高騰は販売価格の見直しにつながっているものの、顧客側の理解は得られている。その他、停電でも、発電機を導入して対応しているため、事業は継続している。

今後の課題は、環境保護と両立した市場環境の整備に向けたルール形成

現在のスリランカでの課題として、ビジネスを展開する前提となる環境関連制度が整備されていない点を指摘する。日本では、浄化槽法が浄化槽の製造・販売や、設置後などの水質検査や保守点検、浄化槽管理士制度などを定めている。主な所管官庁は環境省だ。これに対して、スリランカでは、政府関係者が水質汚濁の問題を認識しつつも、規制が十分に導入されていない。そうした状況では、水質の浄化を十分に実現できない不適切な製品が導入される可能性がある。また、過度に安価な製品が導入されることで、公正な競争環境が阻害されてしまう可能性もある。適正な価格で販売ができない場合、十分な質を維持したまま継続的にビジネスを展開することが難しくなってしまう。

そのため、製品の質を評価して認証する仕組みが必要になる。今後、モラトゥワ大学の研究者と連携しながら、製品認証制度の導入に関して政府当局に働きかけていく予定だ。また、ダイキアクシス社は製品のメンテナンスに関する規制についても、政府当局に導入を働きかけていく構えだ。日本ではこうした規制が存在しているからこそ、一定の技術水準を満たしながらメンテナンスを担う業者の活動が可能となり、雇用が確保されるという。

ルール形成では、小和瀬氏は日本の政府機関の協力も呼びかけている。民間企業1社による提案にとどまらず、日本の政府機関とも連携をしていくことで、提案の説得力が増すという。成功事例を創出することにより、他の地域にも制度を普及させることを視野に入れている。

危機克服を図るスリランカの未来に向けた環境改善へ

「利益確保も重要ですが、それ以上に、私たちのターゲットはこの国の環境を良くしていくことなんです。スリランカには優れた観光地が幾つもある。そうしたきれいなスリランカをいつまでも保っていくために、浄化槽を多くの人に利用してもらい、環境の改善・維持に貢献していきたいと思っています」

ダイキアクシス社では、スリランカでの事業展開について、環境改善への貢献を第1に掲げる。そのため、通常は顧客側が負担する浄化槽の維持にかかる費用は、現在同社で多くを負担しているという。まずは浄化槽を継続的に利用してもらうことで、顧客側に浄化槽の水質改善効果を実感してもらい、継続的な利用や顧客の拡大につなげていきたいという。

加えて、商業施設や不動産の開発事業者などにも導入を図っていく予定だ。こうした事業者は現時点では汚水処理の重要性を十分に認識しておらず、今後の拡大余地は大きい。また、将来的には浄化槽の販売のみならず、産業用排水の処理など他の事業領域にも拡張していきたいという。ゆくゆくは、スリランカを起点としてエチオピアなどのアフリカ東部や中東に輸出することも視野に入れているという。

ダーナヤケ氏は「スリランカはこれまで、2004年のインド洋津波や、2009年まで26年間継続した内戦、2019年の連続爆破テロ、2020年からの新型コロナウイルスなど数多くの危機を乗り越えてきた。現在の経済危機は決して初めての危機ではない。スリランカは今後も危機を乗り越えていく」と力強く語った。


「僕らは一つの家族なんだ」と、チームワークを誇るダイキアクシス社(ダイキアクシス社提供)

注:
日本の国際協力機構(JICA)、日水コンの「スリランカ国 下水セクター開発計画策定プロジェクト(第I期)ファイナル・レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」2017年5月を参照。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所長
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課、ジェトロ京都を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所
ラクナー・ワーサラゲー
2017年よりジェトロ・コロンボ事務所に勤務。