ペット市場・産業の成長、日本企業のビジネスチャンスはどこに?(韓国)

2022年9月16日

韓国では「ペッコノミー」という言葉が定着しつつある。ペット(Pet)とエコノミー(Economy)を掛け合わせた言葉で、ペット関連市場、産業を通称する新造語だ。このように、新造語が作られるほど、韓国ではペット市場・産業が注目を集めている。

犬、猫を中心としたペット市場・産業が急成長

注目度合いは、ペット飼育数の増加からも確認できる。KB金融持株経営研究所によると(注1)、韓国では2020年末時点で、604万世帯(全世帯の29.7%)1,448万人がペットを飼っている。2017年末の502万世帯からわずか3年で20%以上増加している。2020年末時点で飼育しているペットを種類別でみると、犬が80.7%、猫が25.7%の順で、観賞魚、ハムスター、鳥、ウサギが続いた(図1参照)。

図1:ペットの種類別飼育率
犬が2017年末75.3%、2020年末80.7%、猫が同31.1%、25.7%、鑑賞魚が同10.8%、8.8%、ハムスターは同2.8%、3.7%、鳥が同1.6%、2.7%、ウサギが同2.0%、1.4%。2020年末犬は586万匹。同猫は211万匹。

注:1,000世帯へのアンケート調査結果。複数回答。
出所:KB金融持株経営研究所、「2021韓国伴侶動物報告書」

ペット飼育にかかる支出項目をみると、飼料代(33.4%)、間食代(17.8%)、日用品の購入(11.1%)、美容・カット代(10.0%)、衛生サービスの利用(5.8%)、玩具の購入(5.6%)、ファッション・雑貨購入(4.1%)、ペット関連コンテンツ購入(2.9%)、ペット保険料(2.4%)の順になっている。飼料、間食など、ペットフード関連の支出が最も多いことが把握できる。

ついで、ペット市場・産業全体の規模を確認してみよう。韓国農村経済研究院の報告書(注2)によると、2015年に1兆8,994億ウォン(約1,936億円、1ウォン=0.102円)だったペット関連産業の市場規模は、2027年には6兆55億ウォンと、6兆ウォンを超える市場に成長すると予測している(図2参照)。さらに、同研究院では、2032年に市場規模が7兆ウォンに達した後、徐々に市場の飽和点(7兆6,000億ウォン)に近づくとみている。これを踏まえると、韓国のペット市場・産業は今後10年以上、安定的な成長が見込まれる分野といえよう。

図2:ペット関連産業市場規模の展望
2015年1兆8,994億ウォン、2016年2兆1,445億ウォン、2017年2兆3,322億ウォン、2018年2兆6,510億ウォン、2019年3兆2億ウォン、2020年3兆3,753億ウォン、2021年3兆7,694億ウォン、2022年4兆1,739億ウォン、2023年4兆5,786億ウォン、2024年4兆9,731億ウォン、2025年5兆3,474億ウォン、2026年5兆6,935億ウォン、2027年6兆55億ウォン。

出所:韓国農村経済研究院、「伴侶動物連関産業発展方案研究」

ペットフードのプレミアム化など、新トレンドが

韓国のペット飼育数増加は、単身世帯の増加や高齢化といった人口構造の変化、ペットを家族と思う文化の普及や所得水準の向上などが要因と言えるが、時々によってその要因は変化している。例えば、2014年に「動物登録制度(注3)」が義務化された際、ペット保険が流行したことや、最近のIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)技術を活用したペットケアサービスの普及がそれである。韓国における最近のペット市場・産業の傾向を以下のとおり紹介する。

(1)ペットフードのプレミアム化

韓国では「ペットヒューマニゼーション」という言葉がよく使われている。ペットの人間化(Humanization)を意味し、前述のとおりペットを家族、友達などと同格にみる社会・文化的な現状を意味する。「ペットヒューマニゼーション」により、既存の飼料の概念が変化し、人間も食べられる材料で作るペットフードに進化しつつある。従来はドライペットフードが主流であったが、最近は、生鮮材料を生で与える「生食」、火を通したものを与える「火食」など、ペットフードのヒューマングレード(Human Grade)化・プレミアム化が進んでいる。韓国の食品大手企業もこの動きに着目し、次々と関連製品を出している。

(2)ペットテックの進展

ペットとテクノロジーを掛け合わせたペットテック(Pet-Tech)は、ペット関連製品・サービスにIoT、AI、ビッグデータなどの先端技術を活用し、ペットケアを行うことを意味する。初期段階のペットテックは、独りで時間を過ごすペットを観察するなどの単純なサービス・製品だった。しかし、最近はビッグデータの分析を活用し、ペットの気持ちまで認知できるものが登場している。ペットフードのプレミアム化を大手企業がリードしているのに比べ、ペットテックはスタートアップ企業がメインプレーヤーだ。韓国における最新のペットテック企業・サービスは表1のとおり。

表1:韓国のペットテック主要スタートアップ企業およびサービス内容
企業名 内容
Petpuls Lab 犬の音声と活動データを分析し、安定・不安・怒り・悲しみ・幸福の5つの感情を認識し、人と疎通できる機器・サービスを「PETPULS」提供。CES2021(注)で革新賞受賞。
FITPET 2018年にペットの簡易健康検査キット「AHEAD」、鼻紋によるペットの身分確認サービス「DETECT」をローンチ。ペットの健康管理に関するソリューションを提供し、ペットヘルスケア市場の革新をリード。
INNOGRID クラウド、AIを活用し、獣医映像データ(レントゲン、CT、MRIなど)によるペットの病気を判読するサービス「TINKER PET」を提供。
ALPHADO ペットのヘルスケアプラットフォーム「ALPHADOPET」を通じ、ペットの情報を管理し、ペットのイメージを利用し、目、歯、小便の状況をどこでも検査できるAIヘルスケアソリューションを提供。

注:CESは世界最大のテクノロジー見本市。
出所:KDB産業銀行未来戦略研究所、「ペットテック産業動向および示唆点(2021年7月)」

日本のペットフードも人気。理美容道具、ペット玩具などでビジネスチャンスも

韓国のペット市場・産業の成長は、関連製品の輸入からも確認できる。2012年に1億1,269万ドルだったペットフードフード(HS230910)の輸入は、2021年には3億848万ドルと約2.7倍に成長した(図3参照)。この10年間で、年平均11.8%の伸び率を記録したわけだ。ペット用品(HS4201)の輸入も着実に伸びており、2012年に817万ドルの輸入金額が2021年には3,523万ドルと約4.3倍となった(図4参照)(注4)。このように、ペットフード・用品の輸入は拡大基調が続いている。

図3:韓国のペットフード(HS230910)の輸入額の推移
金額は2012年1億1,269万ドル、2013年1億2,442万ドル、2014年1億3,287万ドル、2015年1億4,795万ドル、2016年1億7,133万ドル、2017年2億988万ドル、2018年2億3,893万ドル、2019年2億4,203万ドル、2020年2億7,073万ドル、2021年3億848万ドル。伸び率は2012年11.4%、2013年10.4%、2014年6.8%、2015年11.3%、2016年15.8%、2017年22.5%、2018年13.8%、2019年1.3%、2020年11.9%、2021年13.9%。

出所:韓国貿易協会、貿易統計

図4:韓国のペット用品(HS4201)の輸入額の推移
金額は2012年817万ドル、2013年895万ドル、2014年1,211万ドル、2015年1,515万ドル、2016年2,008万ドル、2017年2,754万ドル、2018年2,852万ドル、2019年2,208万ドル、2020年2,504万ドル、2021年3,523万ドル。伸び率は2012年8.3%、2013年9.5%、2014年35.3%、2015年25.1%、2016年32.6%、2017年37.1%、2018年3.5%、2019年△22.6%、2020年13.4%、2021年40.7%。

出所:韓国貿易協会、貿易統計

次いで、ペットフード・用品の日本からの輸入の推移をみてみよう(表2参照)。ペットフードの対日輸入額は、2012年の249万ドルから2021年には2,097万ドルと、約8.4倍に伸びており、対世界輸入と同様、ほぼ右肩上がりで増加している。一方、ペット用品は伸び悩んでいる。

表2:ペットフード・ペット用品の対日本輸入額の推移(単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
ペットフード(HS230910) ペット用品(HS4201)
金額 前年比 金額 前年比
2012年 2,493 10.4 267 △ 1.0
2013年 1,710 △ 31.4 287 7.5
2014年 1,193 △ 30.2 150 △ 47.7
2015年 1,889 58.3 398 165.3
2016年 5,733 203.6 1,010 153.5
2017年 10,939 90.8 591 △ 41.4
2018年 15,527 41.9 409 △ 30.9
2019年 15,474 △ 0.3 114 △ 72.0
2020年 18,186 17.5 79 △ 30.8
2021年 20,969 15.3 152 92.2

出所:韓国貿易協会、貿易統計

2021年の韓国のペットフード輸入額の国別順位をみると、日本は、中国、米国、タイ、カナダに次ぐ5番目に位置している。日本の順位は、2012年に6番目、2013年に8番目、2014年に9番目だったことから、最近の日本産ペットフードの人気上昇がうかがえよう。また、日本産ペットフードは、高付加価値製品が中心なことも特徴と言える。2021年のペットフード輸入先上位5カ国の1トン当たりの輸入単価をみると、米国3,443ドル、中国6,619ドル、タイ4,079ドル、カナダ4,092ドル、日本1万2,363ドルと、日本産ペットフードの輸入単価が圧倒的に高いことが分かる。

他方、伸び悩む日本産ペット用品の輸入は、日本製品に対する関連情報の不足、国内ペット用品市場の未成熟など、様々な要因によるものと分析できよう。しかし、複数の韓国国内ペット産業関係者は「ペット理美容用のハサミ、機能性ペット玩具など、高価格・高品質の日本製品への高いニーズはあるものの、正規輸入されているものは多くなく、越境EC(電子商取引)などで調達するケースが多い」とし、今後の日本産ペット用品の韓国市場の参入可能性を高く評価している。

「ペットヒューマニゼーション」により、自分の家族・子供・友達のようにペットを扱う傾向が続くと予想される韓国。日本産ペットフードのさらなる韓国進出やペット用品の躍進もありえよう。そのために、ジェトロが推進しているJAPAN STREETJETRO MALL事業などを通じた韓国市場参入を検討するのも1つの方法だろう。


注1:
2021韓国伴侶動物報告書(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」「2018伴侶動物報告書(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」のデータ。統計庁「2019人口住宅総調査」、農林畜産食品部の動物登録情報データの加工や全国1,000人を対象にしたアンケート調査結果からKB金融持株経営研究所が推定したもの。
注2:
伴侶動物連関産業発展方案研究(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」2018年。
注3:
ペットの保護、遺棄防止などのため、固有番号を付与する制度。2008年のテスト導入後、2014年に義務化された。現在は、月齢2カ月以上の犬が対象で、猫は一部の自治体でテスト運営を実施中。
注4:
HSコードでは「ペット用品」の分類がなく、HS4201[動物用装着具(引き革、引き綱、ひざ当て、口輪、くら敷き、くら袋、犬用のコートその他これらに類する物品を含むものとし、材料を問わない)]をペット用品として準用。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
李 海昌(イ ヘチャン)
2000年から、ジェトロ・ソウル事務所勤務。本部中国北アジア課勤務(2006~2008年)を経て、現職。