ビジネスつなぐ支援機関
再エネ先駆けへ、福島が欧州と連携(前編)

2022年12月23日

再生可能エネルギー(再エネ)推進で、福島県と欧州との経済交流が進んでいる。欧州は、再エネ先進地域として知られる存在だ。

この連載では、その動きを追う。前編の本稿では、福島県の再エネ推進の取り組みを大まかに確認。さらに、欧州との連携で中核的役割を担う「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」と、風車メンテナンス事業で県内企業と海外企業のマッチングや人材育成を進める「ふくしま風力O&Mアソシエーション外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」について、両機関への取材を基に解説する(注1)。

再エネ化に向け福島県が動いた

福島県では「再エネ先駆けの地」実現を目指して、産・学・官が連携を図りながらさまざまな取り組みが進む。その推進に当たっては、金融機関も積極的な役割を果たしている。県内には、県を設立母体とする「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)」のほか、産業技術総合研究所の「福島再生可能エネルギー研究所(FREA)」、官民のプロジェクト「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」(注2)などの関連組織がある。

福島県が再エネを推進するきっかけになったのは、2011年3月に発生した東日本大震災と福島第一原子力発電所の原発事故だ。県内に10基あった原発を廃炉にし、原子力に依存しない持続可能な社会をつくるという目標を掲げ、再エネ化にかじを切った。それ以前、同県は再エネ利用推進にはほとんど取り組んでいなかったという。

震災直後の2011年3月には、県が「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」を策定。1年後の2012年3月、このビジョンの改定版で「2040年ごろをめどに県内エネルギー需要の100%以上に相当する量を再エネで生み出す」という主要目標を掲げた。あわせて、具体的な活動を始めた。今回、取材したEAFの服部靖弘代表によると、多くの地域で目標に掲げるのが「消費電力と同等の再エネを生み出す」である中、その対象を全エネルギー需要(一次エネルギー供給量)にしたのは、画期的なことだという。県内の一次エネルギー(電力、家庭や工場などで使用する熱、輸送などを含む)供給量は、電力消費量の2倍以上の水準になる。

この目標は順調に達成されてきた。2020年度時点で、エネルギー需要の43.4%に当たる再エネが県内で生み出されている。同年度の中間目標は40%だったので、達成したかたちだ(図1参照)。その理由としては、もちろん、県内で再エネ導入が進んでいることが挙げられる。しかしそれだけでなく、省エネの普及や人口減少などにより、目標値の分母になるエネルギー需要が減っているという背景もある。2012年3月の改定から約10年が経過した2021年12月、県はビジョンを再び改め、「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン 2021PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(12.37MB)」を発表。2030年度の中間目標を前ビジョンの60%から70%に引き上げた。同時に、政府が掲げる「2050年までのカーボンニュートラル達成」を県としても目指すとした。

図1:福島県の2040年までの再エネ導入目標と県内エネルギー需要の推移
県内エネルギー需要が年々下がるのに対して、再エネの導入は年々進み、2040年までに県内エネルギー需要の100%相当量の再エネを生み出すという目標を掲げている。2011年度は、県内エネルギー需要約800万キロジュールに対し、再エネ導入量は23.7%の約200万キロジュール。2020年度は、県内エネルギー需要約700万キロジュールに対し、再エネ導入量は43.4%の約300万キロジュール。中間目標としていた40%を達成した。2030年度の再エネ導入目標は、2021年12月に60%から70%へ引き上げた。2040年度の県内エネルギー需要は約400万キロジュールを見通し、再エネ導入目標100%を目指す。

注:当該図の左軸は、県内エネルギー需要の見込み(黄緑色折れ線)に対応したもの。その単位は、1,000キロリットル。
出所:「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2021」

ビジョンの中では、福島県の発電種別ごとの再エネ導入量の構成とその推移も紹介されている(図2参照)。会津地域にはもともと、日本でも有数の規模の水力発電事業がある(只見川沿いに、大型水力発電所が所在)。震災後は、原発事故による被害が大きかった浜通り地域(注3)を中心に、メガソーラー設置が推進されてきた。その結果、太陽光発電の割合が増加した。

また現在、国と県が主導して、阿武隈高地沿いに108基の陸上風車設置が計画されている。さらに、陸上風車数百基を民間が建設する予定もある。こうしたことから、風力発電の存在感も今後、大きくなっていくという。また、福島県は近年、水素技術の開発にも力を入れ始めており、官民による水素関連プロジェクトも多数スタートしている。2020年2月末に稼働を開始したFH2R(既述、注2)のような水素製造拠点や、2022年12月に開所した「浪江水素ステーション」(注4)などだ。

図2:福島県の発電種別ごとの導入量の推移

2011年
2011年の総導入量は、1,970,682キロリットル。大規模水力は80.2%、太陽光は0.8%、バイオマスは4.2%、風力は2.9%、小水力は1.0%、地熱(従来型)は3.9%、地熱バイナリー0.00%、熱利用は6.9%。
2020年
2020年の総導入量は、3,005,620キロリットル。大規模水力は52.7%、太陽光は27.4%、バイオマスは9.7%、風力は2.9%、小水力は0.8%、地熱(従来型)は1.2%、地熱バイナリー0.02%、熱利用は5.3%。
2030年
2030年の総導入量は、3,863,490キロリットル。大規模水力は41.0%、太陽光は29.5%、バイオマスは13.2%、風力は10.2%、小水力は0.7%、地熱(従来型)は0.9%、地熱バイナリー0.02%、熱利用は4.4%。

出所:「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2021」を基にジェトロ作成

福島県は欧州自治体と連携

福島県は再エネ化を進める上で、海外、特に再エネ推進で先進地域である欧州と積極的な連携を図っている。(1)2014年2月にドイツで最大の人口を擁するノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州と、(2)同年12月に駐日デンマーク王国大使館と、それぞれ連携覚書(MoU)を締結。これを皮切りに、2019年10月には、(3)ドイツ・ハンブルク州、(4)スペイン・バスク州ともMoUを結んだ。それらを土台に、経済交流を進めている。

MoUに基づく活動の1つに、展示会への相互出展がある。福島県は県内企業とともに、エネルギー関連で欧州最大規模の見本市「イー・ワールド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(ドイツ・NRW州エッセン市)に2014年から出展。県内企業の製品・技術の紹介や、海外企業とのビジネスマッチング、セミナーを実施してきた。風力エネルギーの国際展示会「ウインドエナジー・ハンブルク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(ドイツ・ハンブルク州、隔年開催)には、2018年にセミナー開催で初参加。2022年は福島県のブースを設置し、県内の関連事業者が出展している。ドイツ北部に位置する同州は風力発電産業の一大集積地だ。

福島県でも、再エネをテーマにした展示会「REIF(リーフ)ふくしま外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」が2012年以降、毎年開催されている。同展示会には、県がMoUを結ぶ4自治体・国の代表者や企業を、毎年招いてきた。特にNRW州は2013年以降、10年間にわたって招聘(しょうへい)してきた実績がある(注5)。

EAFがNRW州カウンターパートから学んだ教訓とは

「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)」は、再エネ関連産業を育成・集積するための中核機関として、2017年4月に発足した。設立母体は、福島県。専門家集団として、県の再エネ推進を主導し、企業間のネットワーキングや販路開拓支援のほか、県内企業の海外進出や海外企業との連携を推進している。これらの活動でも、NRW州をはじめとする欧州地域と連携している。

EAFの服部代表は、民間のエネルギー関連企業出身。震災の約1年後、2012年7月に設立された県内外関連企業のネットワーク「福島県再生可能エネルギー関連産業推進研究会」の会長に就任した。県の再エネ推進に、スタート時点から深く携わってきたことになる。

福島県は2011年の震災後、再エネ分野で文部科学省の補助事業を受託することができた。この補助事業は、当該分野の産学連携によって県内の中小企業を支援することに主眼が置かれていた。この事業が終了するタイミングでEAFが設立され、県内の中小企業への支援を本格化できることになった。それとともに、2014年2月に県とNRW州が締結した自治体同士のMoUを、より具体的な連携に進めることができた。EAFの設立には、後々同州側カウンターパートになる「エネルギー・エージェンシーNRW」の示唆も効いた。自治体同士で連携するに当たっては、福島県側にも実務を進められる再エネ支援機関の設立が必要なことなどを、県に訴えたのだ。これがEAF設立のきっかけになった。

EAFが設立されてから半年後の2017年11月、EAFは「エネルギー・エージェンシーNRW」とMoUを締結。その後も、県がMoUを結ぶ欧州の3地域の再エネ支援機関とそれぞれMoUを結び、連携を強化している(注6)。先に言及したとおり、福島県は欧州自治体との地域間連携をリードしてきた。これに呼応し、EAFは同地域の支援機関同士の連携を強化することで、国を超えた企業間のマッチングを進めているわけだ。

具体的には、既述の展示会への相互出展や個別マッチングなどを通じて県内中小企業・欧州企業間のビジネスを組成、県内中小企業の海外進出や外国企業の県内進出の促進を目指している。「エネルギー・エージェンシーNRW」とは年に1度、テーマを決めて両国の産・学・官の専門家が集まり、ビジネスの課題などについて議論するワークショップも開催してきた。

新型コロナ禍においても、欧州の支援機関との交流は続いてきた。特に「エネルギー・エージェンシーNRW」(注7)からは、さまざまなことを教わってきたという。国際連携をするための組織運営ノウハウや、広報活動の重要性、どの企業に対しても中立的立場で接することの大切さ、がその一例だ。服部代表は「地方では人材集めにも苦労した。そうした点も含めて、NRW州のカウンターパートに何でも相談できたのは大きかった」と語った。

欧州企業にとっての福島県の魅力について、服部代表は「日本市場に参入する際のエントリーポイントとなること」を挙げた。福島を試験用地として実証実験などに活用できることも魅力だろう。その結果、成功が見込まれた段階で、本格的に日本全国に展開し商業化することもできる。

FOMはネットワークを強化し、地元中小の仕事につなげる

福島県で県内の中小企業と欧州の企業をつなぐもう1つの存在として、「ふくしま風力O&Mアソシエーション(FOM)」がある。

風力発電の設備運営では、極めて多岐にわたるオペレーションとメンテナンス(O&M)が必要になる(電気の保守点検、風車の外装やブレードの補修、ギヤボックスのオイル交換など)。発電事業者や風車メーカーは発電所の建設後、建て替えまでの約20年間、それらを担わなければならない。新設される日本の風車はほぼ全てが海外メーカー製のため、自社で全てO&M対応するのは難しい。一方で、県内には風車メンテナンスに必要な技術を持つ中小企業が多く存在する。

そこで大切な役割を果たすのが、FOMだ。当団体は、ワンストップサービス窓口として、(1)「顧客」(福島県内の風車メンテナンスの技術や人手を必要とする発電事業者、風車メーカーとその代理店、保守会社など)と、(2)「仕事依頼先」(県内の中小企業)、をつなぐ役割を担う。顧客が多岐にわたるO&Mの仕事に合わせて業者を探す手間を解消し、仕事が欲しい県内中小企業に仕事を提供する。既に、県内企業を中心に15社・団体以上がFOMの会員企業・オブザーバー企業になっている。

FOMは、震災から10年の節目となる2021年3月11日に設立された。その立ち上げに尽力し、運営事務局の役割を果たしてきたのが、県内企業の誠電社だ。同社は2003年の創業以降、JR東日本の鉄道電気設備のメンテナンスと工事を主な事業にしていた。2017年以降は、風力発電事業や風力を含む再エネ発電設備のメンテナンス事業にも携わっている。

今回取材した菅野辰典FOM事務局長(誠電社開発営業部部長)は、「風の良い土地がある福島県で、風力発電事業に可能性を感じた」と語る。その結果、誠電社の渡辺誠代表取締役兼最高経営責任者(CEO)とともに、風力発電事業への参入を決めたという。2019年の「REIFふくしま」で海外の大手風車メーカー数社とマッチングを進めヒアリングしたところ、風車メンテナンスの仕事は県内外に数多くあることがわかった。2人が築いてきた県内企業とのつながりが、FOMの運営に生かされたのだ。

菅野事務局長は、「非営利組織のFOMを運営することが、結果的に、誠電社のビジネスにも良い影響を及ぼした」と語った。自社だけでは全てを請け負えない多岐にわたる風車メンテナンス業務を県内の他社とシェアし、地元関係者に話をとおすなどの役割を担うことで、広がったネットワークが生かされている。なお会員企業の中には、海外大手風車メーカーとの英語によるやり取りが困難だったり、企業規模の違いから大手企業の支払いまでの期間の長さに対応できなかったりする場合もある。そうしたケースでは、FOM内でも経験や規模を持つ企業が中立的な立場でサポートすることもあるという。

ちなみに、FOMは協同組合ではない。そのため、会員企業が平等に仕事を受注するわけにはいかないが、新規参入の障壁を減らし、風力産業ビジネスに関心のある企業が、規模の大小を問わず機会を増やすことに注力できる形態にはなっている。誠電社をはじめFOMの理事企業が、自社の利益よりも「機会の増大」にフォーカスできるのは、EAFや福島県次世代産業課による地域産業創出と人材育成の支援があるからだ。

FOMは2022年8月、風車メンテナー専門トレーニング施設「FOMアカデミー」を開設した。用地は、福島市から譲り受けた、廃校になった小学校だ。世界的な風車メーカーの業界団体グローバル・ウインド・オーガニゼーション(GWO)が提供する内容などに基づき、風車メンテナンスに関する研修を提供。技術者の人材育成に取り組んでいる。日本の風力業界では、安全なメンテナンスに関する知識や技術を有する人材が圧倒的に不足していることもあり、大手企業や県外企業からも、受講の申し込みが殺到しているという。なお、トレーナーは当初、ドイツ企業から招こうとしていたが、新型コロナ禍の影響で実現が困難になり、最終的には台湾から招聘したという。


FOMアカデミーの校舎外観(FOM提供)

FOMアカデミーのトレーニングの様子
(FOM提供)

このように、企業同士を結び付けるEAFやFOMといった支援組織は、福島県が再エネを推進する上で大変重要な役割を果たしている。

東日本大震災と原発事故という大災害を経験した福島。欧州をはじめとした海外との連携を深化させており、日本の「再エネ先駆けの地」として、再エネビジネスの活性化が期待されている。


注1:
この記事を制作するに当たり、「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)」からは2022年10月11日、「ふくしま風力O&Mアソシエーション(FOM)」からは2022年10月14日に聴取した。
注2:
FH2Rは、再エネを利用し、10メガワット(MW)の水素を製造する装置を備える。10MWと言えば、世界最大級の規模とされる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が、2018年から福島県浪江町で建設を進めてきた。2020年2月に、稼働開始。
注3:
福島県は、南北につらなる阿武隈高地と奥羽山脈によって、中通り・会津・浜通りの3地域に分けられる。太平洋沿岸の地域を浜通りという。
注4:
伊達重機(本社:福島県浪江町)と日本水素ステーションネットワーク(本社:東京都)が福島県浪江町に整備した定置式水素ステーション。1時間当たり燃料電池車(FCV)約5台分の充填ができる。
注5:
2021年は、新型コロナ禍から、オンラインで開催された。
注6:
2019年5月にデンマークの支援機関「ステート・オブ・グリーン」、スペイン・バスク州の同「バスク・エネルギー・クラスター」と連携覚書(MoU)を締結。ドイツ・ハンブルク州の支援機関「再生可能エネルギー・ハンブルククラスター」とは、自治体同士のMoU締結よりも1年早く、2019年9月にMoUを締結。
注7:
エネルギー・エージェンシーNRWは、ドイツ初の再エネ支援機関として知られる。既述の通り、EAF設立のきっかけにもなった。

再エネ先駆けへ、福島が欧州と連携

  1. (前編)ビジネスつなぐ支援機関
  2. (後編)3社の連携・導入事例
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現職。