在米企業におけるLGBTQ社会への姿勢とインクルーシブな取り組みの重要性

2022年3月28日

企業の人権尊重への取り組みが重視される昨今、従業員に対して、平等な規則や制度を設けることの重要性が高まっている。中でも、米国では、性的マイノリティ(LGBTQ+)(注)に対する平等性が重視されていく見込みだ。その理由として、自身がLGBTQ+であると回答する人の数は毎年増加しており、LGBTQ+以外の人からも、LGBTQ+に対してインクルーシブな企業が支持される傾向にある。米国の風潮に乗り遅れないためにも、企業内でLGBTQ+を差別しない制度の導入が鉄則となってきている。本稿では、そのために有用とみられるリソースなどを紹介する。

米国のLGBTQ+人口の推移

米国調査会社のギャラップによると、米国の成人1万2,000人以上を対象とした調査において、自身がLGBTを含む性的マイノリティであると回答した人の割合は、2012年の3.5%から2021年には7.1%に増加した(図参照)。

図:自身がLGBTを含む性的マイノリティであると答えた米国成人の割合
2012年は3.5%、2013年は3.6%、2014年は3.7%、2015年は3.9%、2016年は4.1%、2017年は4.5%、2018年と2019年は調査実績なし、2020年は5.6%、2021年は7.1%となっている。

注:2018年と2019年は調査実績なし。
出所:米調査会社ギャラップのデータを基にジェトロ作成

2019年に米国商工会議所財団が公開したレポートによると、地域を問わず、企業の従業員の多くが、社会的または文化的な理由で、自身がLGBTであることを公にすることを控えている。また、差別を禁じる地域では、公言による解雇などから守られているはずだが、それでも経済的理由以外の理由で、職場で公にしていない場合があるようだ。前述の調査結果は、自身がLGBTであることをちゅうちょせず回答できるようになった人が年々増えてきていることを示唆している。

他方、米国の常勤の会社員1,300人を対象としたデロイトの調査では、80%がインクルーシブな職場環境は雇用と人材の定着にとって重要と回答し、72%が現在の職場よりもインクルーシブな企業があれば転職を検討すると回答した。この調査結果から、優秀な人材の採用および定着において、LGBTQ+を含めたインクルージョンやダイバーシティ重視の姿勢が経営上有利に働くと考えられる。

米国社会におけるLGBTQ+への差別撤廃の動向

連邦最高裁は2015年、同性婚を禁じる州法は違憲との判断を下した。また、ジョー・バイデン大統領は、大統領就任初日の2021年1月20日に、性自認および性的指向を理由とした差別を撤廃する大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに署名し、その一環として、職場での当該差別も禁止した。バイデン政権は議会民主党と共に、公共施設などで性差別を禁止する「平等法案(H.R.5)」の成立にも取り組み、下院では2021年2月25日に賛成多数で可決した。しかし、共和党保守派が強く反対しており、議席数が民主・共和同数の上院では審議は進んでおらず、可決は難しい状況だ。それでも、前述の調査結果にもあるように、米国においてLGBTQ+に対する意識は高まっており、特に民主党優位の地域では、社会の変化に即応できるよう準備する必要がある。

ヒューマン・ライツ・キャンペーン財団による企業平等指数

このような状況から、在米企業は、職場で性的マイノリティに対する平等性を定期的に審査し、社会の期待に応えられているかを確認することが望ましい。なお、米議会図書館のLGBTQ+に関する特設ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、性的マイノリティに関する多数のリソースを紹介しているため、参考にしていただきたい。

また、同特設ページでも紹介されているヒューマン・ライツ・キャンペーン財団(HRC)は毎年、平等性に関する調査を行い、企業平等指数(Corporate Equality Index)を算出して各企業に格付けを付与している。企業平等指数は、各企業のLGBTQ+に対する平等性や、LGBTQ+社会に対する取り組みなどを0~100点で評価するツールだ。HRCは非営利のシンクタンクで、LGBTQ+の人権尊重と差別撤廃を目的に、2002年から本調査を実施している。

HRCのジョニ・マディソン暫定理事長はこの指数に関して、被雇用者が内定を受諾する時や、消費者が商品・サービスを購入する時、投資家が企業への投資を判断する時に、対象企業のLGBTQ+に関する方針を確認するための総合的なツールとして利用されているとしている。

1月に公表された2022年の企業平等指数外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、対象企業1,271社中842社が100点満点を獲得し、「LBGTQ+への平等性が整っている最良の勤務先」と評価された。そのうち、日系企業も17社含まれている。

参考:2022年HRC企業平等指数で100点を獲得した在米日系企業

企業名
アステラス ファーマ US
ビーム サントリー
電通インターナショナル
富士通アメリカ
MUFGユニオン・バンク
ニュー・ベルジャン・ブルーイング(キリンHD)
ノムラ・ホールディング・アメリカ
NTTデータサービシーズ
ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカ
ソニーエレクトロニクス
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
スタンダード・インシュアランス・カンパニー
スバル・オブ・アメリカ
三井住友銀行
武田ファーマシューティカルズUSA
トヨタ・モーター・ノース・アメリカ

注1:日本の親会社からの出資比率が10%以上の企業を抽出。
注2:MUFGユニオン・バンクは、2022年6月までにUSバンコープへ株式譲渡される予定。
出所:ヒューマン・ライツ・キャンペーン財団(HRC)

なお、調査方法について、HRCが対象企業の自己回答と、各企業の方針と活動内容を照合する。企業は調査結果が印刷過程に入る前に、追加資料を提出する機会が与えられている。

本調査は、米国で常勤の従業員を500人以上雇用している企業を対象にしている。フォーチュン1,000社と、全米法律事務所トップ200(Am Law 200)に掲載されている法律事務所には、自動的に調査参加依頼が送付され、度重なる参加依頼に回答しない場合は、公表情報を基に採点された上で「回答なし」と表示されてしまうため、対象企業は回答への準備が求められる。2022年は、無回答の企業に0~20点が付けられた。

HRCが公表している「2023年企業平等指数:基準の進化 ‐ ツールキットとFAQPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.01MB)」は、企業方針の弱点を見直した上で、それを後押しする資料を公表し、翌年の調査に臨むための参考になる。2022年の調査では、参加企業1,271社のうち138社が初参加であった。そのうち、日系企業は少なくとも5社で、2社が100点満点、2社は90点、1社は30点が付けられた。HRCのキーシャ・ウィリアムズ氏はジェトロからの照会に対して、「参加初年は、格付けが100点未満だったとしても、参加することに意義がある。初年はLGBTQ+に対する平等性への取り組みを約束したと捉えることを勧める」と述べた。フォーチュン1,000社およびAm Law 200の法律事務所に含まれていなくても、米国で常勤の従業員を500人以上雇用し、LGBTQ+に対する平等性を重視している在米企業は、HRCの調査に参加し、取り組みを積極的にアピールしてみてはどうだろうか。


注:
HRCの定義によると、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィアの総称で、プラス(+)は、左のどれにも当てはまらない、または左のどれか2つ以上に当てはまるなど、型にはまらないアイデンティティも含まれている。本レポートにおいて、LGBTのみが対象となっている出所はLGBTと記載。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
吉田 奈津絵(よしだ なつえ)
在米の公的機関での勤務を経て2019年からジェトロ入構。