地域統括会社(RHQ)誘致策の調整が続く中、ライセンス申請受け付けを開始(サウジアラビア)

2022年10月24日

サウジアラビア政府が2021年2月に発表した多国籍企業グループの中東・北アフリカ(MENA)地域統括会社(RHQ)の誘致策の中身について、政府内で調整が続いている。2024年以降、政府調達案件への影響が大きいことから、詳細部分の調整に時間がかかっているもようだ。2022年10月時点の最新状況を報告する。

投資省はライセンス申請の受け付けを開始

サウジアラビア投資省によると、2022年第1四半期から公表している『投資省サービスマニュアル』(第9版)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.37MB)を通じて、地域統括会社(RHQ)のライセンス申請の受け付けを開始した。必要書類は、以下の3種類。

  1. 各国のサウジアラビア大使館が認証した商業登録または商業ライセンスの写し
  2. サウジアラビアまたは本社所在国を除く、最低2カ国の商業登録または商業ライセンスの写し(認証済みのもの)
  3. 直近の監査を受けた年次連結財務報告書(認証済みのもの)

RHQライセンスを取得する条件について、2022年3月に報告した内容(2022年3月16日付地域・分析レポート参照)から大幅な変化はないものの、設立要件の一部がより明瞭化された。

まず、多国籍企業グループ(Multinational Group)について、本社所在地、サウジアラビア以外の2カ国以上に支店または子会社を2拠点以上もつこととする点に変更はないが、2拠点の所在地はいずれの地域でもよいことが確認された。例えば、日本に本社を有し、中国とマレーシアの2カ国で事業を実施している企業は多国籍企業グループとして見なされ、RHQライセンスを申請する資格を有する。一方、サウジアラビアに設立するRHQの配下企業に係る要件については、明確な規定の有無を含めて、依然として明らかになっていない。

次に、RHQは独立した法人(または支店)として、商業、サービスなどのライセンスを持つ事業会社を配下に持ち、自ら商業活動は直接行わない代わりに、経営戦略立案機能と管理機能(注1)に係る必須業務とともに、3種類以上の選択可能な補助業務(注2)を担う。RHQライセンス取得後、必須業務については6カ月以内、補助業務については1年以内(注3)に開始する必要がある。一方、従業員について、設立後1年以内に15人以上のフルタイム従業員と3人以上の幹部(CEO、CFOなど)を雇用する義務とともに、幹部人材には他のRHQでの経験など専門性を求めることが明記された。

地域統括会社ライセンスは、以下のいずれかの状況で投資省より取り消される可能性がある。

  1. 規定された期限内に必須業務と補助業務の開始、あるいは従業員の雇用ができない場合
  2. 必須業務と補助業務が中断された場合、あるいはRHQまたは多国籍企業グループの条件を満たさなくなった場合
  3. 投資省が「取り消し理由」として定めるライセンス規制に違反した場合

ライセンス費用として、年間2,000リヤル(約533ドル)を投資省に支払うとともに、初年度は投資省のサービス利用料として1万リヤル(約2,670ドル)支払う必要がある。サービス利用料に関しては、2年目以降、4年間免除される。

インセンティブ決定を担う組織を新設

RHQライセンス申請受け付けが開始される一方、RHQライセンスを取得する企業に提供する恩典(インセンティブ)の中身、またその1つに位置付けられている政府調達参加条件に関する情報に関しては従来の説明にとどまっており、その詳細については発表されていない。

2022年10月15日時点でライセンス取得手続きを完了した企業事例について、投資省は公式に発表をしていない。この点について、大手コンサルティング企業関係者は、インセンティブに関する政府内決定に時間を要しているのが最大の理由だと指摘する。実際、RHQライセンスを申請する企業の中には、政府に対して個別にインセンティブの要望を提案したり、前述した設立要件の例外適用を求めたりしていることが報じられている。

投資省は、RHQライセンスに限らず、従来から外国企業の個別要望について、投資計画による経済効果を総合的に判断し、柔軟な対応をとる姿勢を示している。しかし、インセンティブについては、同省の一存で判断できるわけではなく、税制であれば財務省、サウジアラビア人雇用促進策(サウダイゼーション)の適用除外であれば人材・社会発展省など、内容に応じて所管する監督官庁との調整プロセスを伴う。

投資インセンティブに関して、政府は2022年6月14日の閣議で国家インセンティブ委員会(National Incentive Committee:NIC)の設立を決定した。同委員会では、ハーリド・ビン・アブドゥルアジーズ・アール・ファーレフ投資相が議長を務め、各省庁が投資家企業向けに提供するインセンティブを調和・調整する機能を担う。同委員会の設立の狙いは、対内直接投資促進全般を企図したものであり、RHQ制度との直接的な相関関係はないものの、今後、同委員会を通じて、省庁間におけるインセンティブに係る調整がよりスムーズに進むことが期待される。

政府調達参加要件に関する政府内調整が継続

一方、2024年以降に政府調達案件で、RHQライセンスを保有しない多国籍企業グループを除外(exclusion)する点に関する詳細事項は、依然として正式に決定されていない。同枠組みの設計面に関して、省庁間で意見調整が続いているもようだ。この点に関連して、ジェトロ・リヤド事務所では8月3日に投資省の担当者を招き、政府内での議論の内容について説明会を開催した。同説明会で明らかになった点を整理する。

(1) 政府調達主体の範囲

まず、RHQライセンス保有の有無が関係する政府調達主体の範囲については、既存の政府調達法が規定する、政府(Government)、準政府機関(Semi-government)、国有企業(State-Controlled Enterprises)、民間セクター(Private sector at large)の4グループで扱いが分かれる。このうち、政府と準政府機関における調達行為については対象に含まれることが決まっており、国有企業の扱いが注目を集めている。この点について、政府または政府系機関が出資する企業が実施する調達の際には、RHQライセンスの保有が条件となる見込みだ。一方、サウジアラムコはIKTVAと呼ばれるローカルコンテンツを評価する、独自の調達ルールを既に導入している。今後、同制度では国内にRHQを有する(調達先)企業の比率が勘案される見込みだ。

(2) 政府調達取引の範囲

投資省は当初から明らかにしたように、相当程度(substantial)の政府調達行為をRHQ制度の対象とする意向だ。ただし、制度の発表の遅れから、2024年以降の一斉導入について外国企業の中には懐疑的な見方も依然として存在している。

RHQライセンス保有企業のブランド、製品名、サービス名などは、政府入札調達法(GTPL)に基づく統一調達組織のプラットフォームで管理される予定だ。政府調達落札企業による再委託先選定時に、RHQライセンスを保有する再委託先が優先される方針についても変更はない。

(3) 多国籍企業グループの範囲

当該外資系企業が多国籍企業グループと見なされない場合、2024年以降も政府調達に参加することが可能だ。多国籍企業グループ(Multinational Group)の定義について、前述したように「本社所在地、サウジアラビア以外の2カ国以上に支店または子会社を2拠点以上もつ」との条件を満たさない企業に関しては、同制度の適用から除外する方針だ。

(4) 企業形態による扱いの相違

地場企業などとの合弁会社(JV)を通じて政府調達に応札してきた企業は、サウジアラビア国内に100%出資子会社を有する多国籍企業と同様、入札参加にはRHQの新設が必要となる。一方、輸入業者や代理店などを介して自社製品・サービスを販売する企業に関しても、投資省はビジネス実態が進出企業と同様であれば、RHQ設立を求める意向を示す。

RHQ設立検討を始める企業が増加

上記してきた通り、RHQ制度に関する詳細制度はわずかながら確実に固まりつつあるものの、依然として不透明な点が少なくない。投資省は今秋できるだけ早いタイミングで、より詳細な公式情報を公開する方針だ。一方、2022年3月16日付地域・分析レポートにも記載したように、ライセンス取得には一定のリードタイムを見込む必要がある。特に、個別にインセンティブを交渉する場合にはより長い時間を確保することが望まれる。

日本企業の間でも、公式情報の発表を待ちつつも、具体的な準備を進める企業は増えている。8月3日に開催した「RHQ(地域統括会社)制度に関するウェビナー」の参加者に対する事後アンケートによると、回答企業53社のうち、RHQ設立を「検討している」「検討したいが、材料不足」と回答した企業が合わせて28社と、全体の53%を占めた(図参照)。回答企業の中には政府調達取引に関係しない企業も2割弱含まれていたことを考慮すれば、検討段階にある企業の比率は高い。同様に、ジェトロ・リヤド事務所へ届くRHQ関連の問い合わせ件数も増加傾向が顕著となっている。2024年に向けて新制度への関心は、今後ますます高まることが予想される。

図:RHQの関心状況(回答企業53社)
「検討している」が15%、「検討したいが、材料不足」が38%、「検討していない/意向なし」が34%、「その他」が13%の比率となった。

出所:ジェトロ作成


注1:
経営戦略立案には、地域戦略策定・監督、戦略調整、製品・サービス配備、投資支援、財務レビュー、管理機能には、事業計画策定、予算編成、事業調整、マーケティング、事業・財務報告がそれぞれ含まれる。
注2:
補助業務には、次のものが含まれる。
(1)販売およびマーケティング支援、(2)人事・人事管理、(3)研修、(4)財務管理、外国為替・資産管理、(5)コンプライアンスおよび内部監査、(6)会計・経理、(7)法務、(8)監査、(9)調査・分析、(10)アドバイザリー、(11)運営管理、(12)物流・サプライチェーンの管理、(13)国際取引、(14)テクニカルサポート、エンジニアリング支援、(15)ITネットワーク運用、(16)研究開発、(17)知財管理、(18)生産管理、(19)原材料・部品調達。詳細は、「投資省サービスマニュアル」の3.19項を参照のこと。
注3:
補助業務の開始期限は以前、明記されていなかった。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所長
秋山 士郎(あきやま しろう)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・アビジャン事務所長、日欧産業協力センター・ブリュッセル事務所代表、対日投資部対日投資課(調査・政策提言担当)、海外調査部欧州課、国際経済課、ジェトロ・ニューヨーク事務所次長(調査担当)、海外調査部米州課長、海外調査企画課長などを経て2021年11月から現職。