EVシフトが加速した2021年(スイス)
乗用車新規登録台数は微増

2022年9月6日

スイスの自動車業界団体、オートスイス(Auto-Schweiz)の2022年1月3日発表(フランス語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(224KB)によると、2021年のスイスとリヒテンシュタインの乗用車新規登録台数は前年比0.7%増の23万8,481台だった(表1参照)。2019年(新型コロナウイルス感染拡大前)の31万1,466台を大幅に下回った。

一方で、オートスイスは2021年1月4日、新型コロナ危機によるマイナスの影響が緩和されるシナリオに基づいて、登録台数を27万台と予測していた。今回発表された実績は、それよりも下回ったかたちだ。半導体不足や原料部品などの供給不足、国際輸送の混乱など多くの制約を受けた2021年は、自動車業界にとって多難な1年になった。

代替燃料車の市場シェアは過去最高の44.5%

メーカー・ブランド別にみると、上位5位は前年と同じ。これらで全体の約44%のシェアを占めた。前年と同様、首位はフォルクスワーゲン(VW)、次いでメルセデス・ベンツ、BMW、シュコダ、アウディの順だった。セアト/クプラは6位に浮上、トヨタが7位に躍進し、ヒュンダイは10位に入った。日本の他のメーカー・ブランドでは、スズキが拡大した。一方、マツダは縮小。三菱自動車、日産、ホンダはいずれも、1%前後にシェアを下げた。

表1:スイスの乗用車新規登録台数(メーカー・ブランド別)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 2021年
台数 シェア(%) 前年比(%)
1 フォルクスワーゲン(VW) 25,817 10.8 △2.3
2 メルセデス・ベンツ 21,588 9.1 △5.4
3 BMW 20,936 8.8 △1.8
4 シュコダ 18,702 7.8 △0.3
5 アウディ 17,034 7.1 14.6
6 セアト/クプラ 12,786 5.4 13.6
7 トヨタ 10,611 4.4 20.8
8 ルノー 8,758 3.7 △20.9
9 フォード 8,401 3.5 △14.1
10 ヒュンダイ 8,166 3.4 28.8
11 ボルボ 7,872 3.3 △6.7
12 テスラ 6,493 2.7 7.4
13 プジョー 6,366 2.7 3.6
14 ダチア 5,922 2.5 △3.1
15 フィアット 5,719 2.4 △9.2
16 スズキ 5,464 2.3 9.1
17 オペル 4,904 2.1 10.7
18 キア 4,603 1.9 33.0
19 ミニ 4,499 1.9 △8.7
20 マツダ 4,488 1.9 △4.8
全体(その他含む) 238,481 100 0.7

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

車両カテゴリー別にみると、代替燃料車〔ガソリンやディーゼル以外の燃料で走行可能な車。(1)ハイブリッド車(HEV、注1)、(2)バッテリー式電気自動車(BEV、注2)、(3)プラグインハイブリッド車(PHEV、注3)、(4)天然ガス車(CNG)、(5)水素自動車(FCEV)で構成される〕の新規登録台数が伸びた。前年比59.2%増の10万6,149台で、市場シェアは過去最高の44.5%になった(表2、図1参照)。

なおスイスでは、連邦環境・運輸・エネルギー・通信省が主導して、2018年「Eモビリティーロードマップ2022(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を作成していた。このロードマップ上、新車登録に占めるBEVとPHEVのシェアは「2022年までに15%」にするのが目標だった。実績では、2020年に14.3%(BEV8.2%、PHEV6.1%)、2021年には22.4%(BEV13.3%、PHEV9.1%)に拡大。掲げた目標は達成されたかたちだ。

表2:スイスの乗用車新規登録台数(カテゴリー別)(△はマイナス値)
カテゴリー 2021年
台数 シェア(%) 前年比(%)
ガソリン車 99,916 41.9 △ 15.6
ディーゼル車 32,416 13.6 △ 37.4
代替燃料車 106,149 44.5 59.2
階層レベル2の項目ハイブリッド車(HEV) 52,181 21.9 62.3
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 31,823 13.3 63.2
階層レベル2の項目プラグインハイブリッド車(PHEV) 21,790 9.1 51.0
階層レベル2の項目天然ガス車(CNG) 282 0.1 △ 49.8
階層レベル2の項目水素自動車(FCEV) 66 0.0 57.1

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

図1:代替燃料車の市場シェア推移
バッテリー式電気自動車(BEV)は2019年4.2%、2020年8.2%、2021年13.3%。プラグイン・ハイブリッド車は2019年1.4%、2020年6.1%、2021年9.1%。ハイブリッド車は2019年7.1%、2020年13.6%、2021年21.9%、天然ガス車は2019年0.4%、2020年0.2%、2021年0.1%と推移。

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

乗用車新規登録台数をモデル別にみると、テスラモデル3とシュコダのオクタビアがほぼ5,000台になり、突出した。首位のテスラモデル3は、上位10モデルの中で唯一のBEVだ(図2参照)。

図2:乗用車の新規登録台数の上位10位(モデル別、2021年)
首位のテスラ モデル3が5,074台。2位のシュコダ オクタビアが4,974台。続いてアウディ Q3が3,960台、フォルクスワーゲン ティグアンが3,842台、フィアット 500が3,620台、メルセデス・ベンツ Aクラスが3,472台、ボルボ XC40が3,439台、トヨタ ヤリスが3,410台、BMW X3が3,376台、シュコダ カロックが3,376台。

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

BEVとPHEVの新規登録台数の上位10モデルでは、首位のテスラモデル3が2位との差を2,500台以上つけた(図3参照)。日本勢はいずれも、10位以下にとどまり、トヨタRAV4 (PHEV)が628台、日産リーフ(BEV)が394台、三菱アウトランダー(PHEV)が393台だった。

図3:バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の
新規登録台数の上位10位(モデル別、2021年)
首位のテスラ モデル3がバッテリー式電気自動車(BEV)5,074台。2位のフォルクスワーゲン ID.3がバッテリー式電気自動車(BEV)2,419台。続いてシュコダ エンヤックがバッテリー式電気自動車(BEV)2,184台。ボルボ XC40はバッテリー式電気自動車(BEV)952台、プラグインハイブリッド車948台の合計1,900台。ボルボXC60がプラグインハイブリッド車1,714台。ルノー ゾエがバッテリー式電気自動車(BEV)1,557台。フィアット 500がバッテリー式電気自動車(BEV)1,465台。テスラ モデルYがバッテリー式電気自動車(BEV)1,392台。フォルクスワーゲン ID.4がバッテリー式電気自動車(BEV)1,370台。BMW X3はバッテリー式電気自動車(BEV)356台、プラグインハイブリッド車788台の合計1,144台。

出所:オートスイスの発表データを基にジェトロ作成

CO2平均排出量は前年に続き上限超え、目標には近づく

スイスは新規登録車について、走行距離1キロ当たりの二酸化炭素(CO2)平均排出量の上限目標を設定している。上限を超えた場合、自動車の輸入事業者は超過排出量に対して、新規登録車数に応じて罰金を支払わなければならない。2022年末までは、平均CO2排出量の計算上の数値を減らして罰金を減額するための段階的経過措置として、フェーズイン(注4)とスーパークレジット措置(注5)が適用されている。

燃料測定基準には、2020年までは「新欧州ドライビングサイクル(NEDC)」(注6)を適用していた。当年のCO2平均排出量の上限目標は、乗用車が95グラム、小型商用車が147グラムだった。しかし、実際の測定値は乗用車が123.6グラム、小型商用車が176.4グラムと、いずれも上限を超えた。2021年以降は、より厳格な燃料測定基準「国際調和排ガス・燃費試験方式(WLTP)」を適用することになる。新方式でCO2平均排出量の上限目標値は、乗用車が118グラム、小型商用車が186グラムになった。連邦エネルギー局の2022年6月23日の発表(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2021年の測定値は乗用車が129.8グラム、小型商用車が217.2グラム。前年に続き、上限を超えたかたちだ。NEDCによる前年測定値と、単純には比較できない。しかし、上限を超えた排出量を乗用車について比較すると、前年の28.6グラム超過から11.8グラム超過へ減少し、目標には近づいた。これに伴って、罰金額は前年の1億3,210万スイス・フラン(約187億5,820万円、CHF、1CHF=約142円)から2,810万CHFへ大幅に減少。オートスイスは、これを排出量削減努力の成果と評価している。

目下、CO2排出に関してスイスが掲げる目標は、(1)温室効果ガスを2030年までに1990年比で50%削減すること、(2) 2050年までに気候中立を達成することだ。

気候政策の要とした改正CO2法は、2021年6月の国民投票で否決された。しかし同年12月、経済的インセンティブや補助金に重点を置いた改正案を改めて策定。輸送に関する施策には、CO2排出量の上限目標値を引き下げ、超過排出量に対する罰金を財源に、充電インフラ拡充事業に約2億1,000万CHFを充てることや、ディーゼルバスの税制優遇措置廃止により見込まれる約9,000万CHFの税収入を電動・水素燃料バスへ投資することなどが含まれている。この新たな改正CO2法は、2025年1月に施行予定だ。

新ロードマップの下、2025年までにBEV・PHEVシェア50%を目ざす

「Eモビリティーロードマップ2022」の目標が達成されたことを受けて、新たな目標が掲げられることとなった。

そうした中、ビールビエンヌにあるスイス・イノベーション・パークで2022年5月、行政(連邦、州、都市、自治体)と民間企業(主に自動車ディーラー、リース会社、電力、不動産)など59の企業・団体が、「Eモビリティーロードマップ2025」に署名(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。このロードマップでは、(1)2025年までにBEVとPHEVのシェアを50%にすること、(2)充電ポイント数を2万カ所に拡充すること、(3)住宅や職場、道路など、全ての場所で使いやすく電力供給に配慮した充電環境を整備すること、が目標として掲げられた。

2022年6月時点でBEVとPHEVのシェアは25.0%(BEV16.4% 、PHEV8.6%)、充電ポイントは8,059カ所になった。今後、BEVとPHEVのシェアの倍増と、充電ポイント1万2,000カ所の増設が必要となる。両方の目標が達成された場合、仮にBEVとPHEVの新規登録台数が2021年と同レベルとして、6台につき1カ所の充電ポイントがある計算となる。

連邦エネルギー局は、連邦地形局やスイスエナジー(注7)と連携し、スイスの充電インフラの情報を提供している(ウェブサイトで国内の全ての公共充電ポイントとその利用状況(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをリアルタイムで確認できる)。また、スイス自動車連盟スイスツーリングクラブは、スイスを含む欧州17万カ所の充電ポイントの情報を表示するアプリ「TCS eCharge」を提供。同アプリによって、充電ポイントの接続タイプや最大電力、アクセス、料金、利用状況などの情報のほか、事前予約や支払いもすることができる。

オートスイスは、EV普及には充電インフラの拡充が欠かせないとその重要性を説いてきた。オートスイスのアルベルト・レスティ会長は2022年7月、現在の充電インフラは急成長したEV市場に見合うにはほど遠いと指摘。世界的なエネルギー不足と2022年冬の電力不足が懸念されている中、購買層はEVの購入をためらっているとの見方を示した。

今や、4台に1台の新車登録がEVになった。充電インフラの拡充と持続的な電力の供給が急務になる。


注1:
HEVは外部電源からの充電は不可。統計には、マイルドハイブリッド車(MHEV)を含む。
注2:
電動車(EV)は、電気でモーターを駆動して走行する車両の総称。大きく分けて、HEV、BEV、PHEV、FCEVの4種類がある。
注3:
PHEVは外部電源からの充電が可能。統計にはレンジエクステンダー (REX)が含まれる。
注4:
CO2排出量を計算する際に対象になる自動車の割合。 例えば2020年の場合、85%分だけに適用される。すなわち、排出量が最も多い上位15%の台数は規制対象から除外される。この割合は、年々引き上げられる(2021年:90%、2022年:95%、2023年:100%)。
注5:
CO2排出量が走行1キロ当たり50グラム未満の車両に対して適用される台数カウント方法の特例。例えば、2020年のスーパークレジットは2.00とされていた。すなわち、CO2平均排出量の算出に当たって、販売台数1台を2台としてカウントすることができた。この比率は、年々引き下げられる(2021年:1.67、2022年:1.33、2023年:1.00)。
その結果、走行1キロ当たりCO2排出量50グラム未満の車両のシェアが高いメーカーほど、目標を達成しやすくなる。
注6:
1992年以降に採用された欧州の燃費測定基準。フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題をきっかけに、2018年9月以降に販売された全ての車両について、実走行により近い計測結果が得られる新方式「WLTP」が採用されることになった。
注7:
スイスのエネルギー効率や再生可能エネルギーを推進する連邦政府のプラットフォーム。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
竹原 ベナルディス 真紀子(タケハラ ベナルディス マキコ)
金融機関、監査法人、自動車メーカーでの勤務を経て、2018年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
マリオ・マルケジニ
ジュネーブ大学政策科学修士課程修了。スイス連邦経済省経済局(SECO)二国間協定担当部署での勤務を経て、2017年より現職。