金融機関などが続々参入(インド)
GIFTシティーにビジネス集積(前編)

2022年7月11日

「GIFTシティー(Gujarat International Finance Tec-City)」は、インド初の国際金融経済特区だ。国家プロジェクトのスマートシティ事業として、グリーンフィールドから設置された。立地は、インド西部グジャラート(GJ)州の州都ガンディナガールに隣接する地域だ(2022年3月22日付地域・分析レポート2021年4月1日付地域・分析レポート参照)。ここでは、(1)オフショア銀行、(2)資本取引市場、(3)オフショア資産管理、(4)オフショア保険、(5)ITサービス、(6)IT技術が創出するサービス(ITeS)、(7)関連ビジネスサービス(法務、会計、人材雇用、コンサルティングなど)が、ターゲットセグメントとされている。国際的なビジネス主体の集積と機能統合によるユニークな街づくりが、GIFTシティーが目指すコンセプトだ。

GIFTシティーの日々の動きは、公式ツイッターからうかがい知ることができる。本レポートでは、インド初の先進的な経済特区で着々と進む様々な機能統合など、最新の状況についてSNSや各種報道を踏まえて報告する。


街づくりが進むGIFTシティーの全景(ジェトロ撮影)

外国・地場銀行:優遇措置を得られる上、外貨直接融資なども可能に

GIFTシティーでは、通常、オフショアローンの利息に課せられる源泉税が免除される。加えて、10年間の法人税免除など、税制面のインセンティブを受けることも可能になる。そのため、近年、外資系・地場を問わず多くの金融機関が拠点開設を進めている。 例えば外国銀行としては、これまでに、バンク・オブ・アメリカ(BofA)、スタンダード&チャータード銀行、香港上海銀行、シティバンクNA銀行、バークレイ銀行、ドイツ銀行、JPモルガン・チェース銀行など設立済みだ。それらの中には、既に取引業務を開始しているところもある。

邦銀では、三菱UFJ銀行(MUFG Bank)が2022年5月26日、GITFシティーに支店開設すると発表した(2022年5月30日付ビジネス短信参照)。邦銀としては初のGIFTシティー進出になる。それにより、インド国内で原則禁止されている外貨建て貸し出しが可能となる。すなわち、これまで主にインド国外から行っていた外貨貸し出し業務が、インド国内でできるようなる。銀行内手続きの簡素化を見込める。インドに進出している邦銀他行も、これに続く可能性がありそうだ。

ちなみに同行は2022年3月に、インド国内のスタートアップ企業を対象に3億米ドルの投資ファンドを設定済み。同ファンドは、デジタル技術を活用したフィンテック企業、環境ビジネス関連企業など、社会課題解決型企業を念頭に資金調達を投資するものだ。

一方、GIFTシティーはそのコンセプトとして、ITサービスや情報技術対応サービス(ITeS)分野の企業集積も目指している。特にフィンテック分野を中心に、有望スタートアップ企業の育成支援のためのプログラム(ハッカソン、ブートキャンプ、ピッチ・コンテストなど)を、インド政府系シンクタンクなどとともに主催してきた実績がある。今後、GIFTシティーからフィンテック分野のユニコーン企業が育つ可能性がある。そうなると、「フィンテック分野スタートアップ企業の集積地」として、国際金融ハブ機能の新たな側面に注目が集まるだろう。

2022年4月18日には、インド最大の市中銀行State Bank of India(SBI)が、国際金融サービスセンター(International Finance Service Center:IFSC)GIFTシティー支店を通じて、5億米ドルを調達したと発表した。これは、SBIがGIFTシティー支店を通じて調達した初のオフショアでの担保付翌日物調達金利(SOFR)連動シンジケートローン(注1)だ。通常の融資で4億米ドルの調達を受けたのに加え、グリーン・シュー・オプション(注2)として1億米ドルが提供されたという。MUFG、BofA、JPモルガンが今回の募集の共同融資先になり、フィスト・アブダビ銀行がファシリティ・エージェント(注3)を務めた。SBIは、GIFTシティーを国際的な金融ハブとして発展させることにコミットしている。今回の資金調達の成功は、そのコミットメントに向けた新たな一歩としている(「フィナンシャル・エクスプレス」紙2022年4月18日)。

また、新開発銀行(New Development Bank:NDB、注4)も、インドのインフラを持続可能に開発するニーズに応えるため、インド地域事務所(IRO)をGIFTシティー内に開設する計画を明らかにした。同行のプレスリリースによると、IROは、NDB本部と緊密に連携しながら、プロジェクトの初期準備や技術支援、情報ルートの開拓、プロジェクトの実施、モニタリング、地域ポートフォリオ管理などのプロジェクト組成に注力する。その上で、業務の質の向上と高度化、ビジネスと開発機会のネットワーク構築を目指すという。

GIFTシティーのタパン・レイ最高経営責任者(CEO)は「NDB IROの誘致は、GIFTシティーの全体的な機能に、多国間で国際的な新次元をもたらすだろう」と述べた。あわせて、「NDBの中核的な機能とGIFTシティーが、国際金融市場で拡大しつつあるネットワークとの間で、相乗効果を促進する突破口になる」と、その設立を歓迎している(「ビジネス・トゥディ」紙2022年5月20日)。

証券取引所、保険、AIF、支援ビジネスの参入も活発

GIFTシティーには、銀行業界以外の動きもみられる。例えば、(1)証券取引所の業務提携開始や、(2)保険会社の拠点格上げ、(3)代替投資ファンド(Alternative Investment Fund:AIF、注5)や(4)これらビジネスを支援する外国大手コンサルティング会社の参入、などが相次いでいる。

(1)の一例として、シンガポール証券取引所(SGX)とインド証券取引所(NSE)との共同取引事業がある。2022年5月には、その業務を7月から本格的に開始する予定を発表した(2022年5月12日付ビジネス短信参照)。

また(2)に関する動きもあった。インド国営大手再保険会社(GIC Re)は、GIFTシティー事務所(2017年に開設)を子会社に格上げするという。子会社は、最近閉鎖したドバイ事務所の中東アフリカ案件を引き継ぐ。将来的には、他国の海外支店と連携し、海外事業を集約する拠点とする計画だ。金融特区GIFTシティー内に立地する子会社は、税制上の優遇措置を受けることができる。加えて、海外の直接保険と再保険の両方の取り扱いが可能となる。同社は、すでに世界各地で航空分野の直接保険事業を展開済みだ。GIFTシティー事務所でも、その一部を担うことになる(「タイムズ・オブ・インディア」紙2022年5月30日)。

GIFTシティーIFSCAのインジェティ・シュリニヴァス会長によると、既に認可が出ているものに加え、2022年度内にさらに50以上のAIFがGIFTシティーへの参入に向けて待機中(注6)。「GIFTシティーには、これまでに既に40のAIFが拠点設置を済ませた。これらは、海外から資本を導入するための任意の投資ファンドだ」と述べた(「インディアン・エクスプレス」紙 2022年6月5日)。

さらに(4)関連で、2022年4月に、英国大手会計事務所グラント・ソントンが業務を開始した。同所は、GIFTシティーというエコシステムの発展に向け、必須なサービスのプロバイダーとして貢献していくという。


注1:
融資団(シンジケート)を組成して実施する大型信用供与。融資団の中心的立場を受け持つ幹事銀行の下で、複数の金融機関が協調して対応する。
注2:
売り出し後に株価が堅調に推移している局面で、引受証券会社は、追加売り出し分について自らが売出人になることがきる。追加売り出し分については、借り入れで株式を発行する。そのため、資金調達する必要がある。その調達方法として、引受契約に基づき、売出人から追加で株式を取得する権利を行使する方法がある。り、この権利を指す。
注3:
エージェントは、シンジケートローン期間中の事務代行として、元利金の受け渡しや契約の管理を担う。通常、アレンジャーに就任した金融機関がエージェントに就任する。
注4:
NDBは、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)により設立され、中国・上海に本部を置く。
注5:
AIFとは、ヘッジファンド・商品ファンド・不動産などを運用対象に投資するファンド。 伝統的に投資の対象とされてきたのは、株式または債券だった。従来にない資産に代わるもの(オルタナティブ)を対象にするのが、その特徴だ。
注6;
この発言にあたりシュリニヴァス会長は、資本を呼び込むには、(1)外国の銀行、(2)保険・再保険、(3)AIFのいずれかを誘致するのが方法という旨も付け加えた。

GIFTシティーにビジネス集積

  1. 金融機関などが続々参入(インド)
  2. 都市機能や海事仲裁も充実(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。