2021年の対内直接投資と対外直接投資はともに増加(フランス)

2022年12月14日

フランスの2021年の対内直接投資は前年から約210億ユーロ増加した。戦略産業の保護を目的に外資審査制度の強化措置が延長された。対外直接投資は前年比77.3%増だった。日本からの直接投資、対日直接投資はともに引き揚げ超過を計上した。

対内直接投資は大幅増、中でも直接投資額は3倍に

フランス銀行(中央銀行)によると、2021年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は228億800万ユーロと、前年の18億8,600万ユーロから大幅増を記録した。企業買収や工場建設など株式に関わる直接投資額は328億5,400万ユーロで、前年からほぼ3倍となった。再投資収益は65億ユーロと、前年の引き揚げ超過からプラスに転じた。国外の親会社からフランス子会社への貸し付けといった「その他の直接投資額」は前年に続き、165億4,500万ユーロの引き揚げ超過だった。

業種別にみると、製造業は52億7,800万ユーロと、前年の引き揚げ超過からプラスに転じた。内訳をみると、自動車が前年の20億800万ユーロから142億6,800万ユーロと、ほぼ7倍増となった。医薬と化学はそれぞれ、前者が23億800万ユーロ、後者が91億1,200万ユーロの引き揚げ超過だった。非製造業では、金融・保険が109億3,200万ユーロで、前年からほぼ倍増し、情報・通信が44億3,400万ユーロと、前年の13億200万ユーロから大幅増を示す一方、商業・修理業、運送・倉庫業はいずれも引き揚げ超過に転じた(表1参照)。

表1:フランスの業種別対内・対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値、-は値なし)
業種 対内直接投資 対外直接投資
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
金融・保険 5,618 10,932 94.6 15,465 △ 10,286
製造業 △ 3,913 5,278 △ 8,633 21,677
階層レベル2の項目自動車 2,008 14,268 610.6 △ 1,095 1,637
階層レベル2の項目衣類、繊維 236 918 289.0 17,345 △ 2,151
階層レベル2の項目設備機械 △ 282 896 △ 385 356
階層レベル2の項目その他の輸送機械 6,343 171 △ 97.3 △ 2,297 △ 88
階層レベル2の項目情報・電子・光学機器 47 168 257.4 338 △ 1,196
階層レベル2の項目ゴム・プラスチック 604 54 △ 91.1 228 29 △ 87.3
階層レベル2の項目金属製品 △ 1,761 29 △ 1,088 △ 97
階層レベル2の項目木材、製紙 561 △ 173 △ 45 47
階層レベル2の項目精油 551 △ 284 △ 1,156 854
階層レベル2の項目食品 △ 3,866 △ 551 △ 4,850 2,617
階層レベル2の項目医薬 △ 7,317 △ 2,308 △ 15,208 1,654
階層レベル2の項目化学 872 △ 9,112 △ 1,691 △ 256
情報・通信 1,302 4,434 240.6 △ 1,704 △ 31,518
階層レベル2の項目テレコム 181 2,786 1,439.2 466 △ 2,852
階層レベル2の項目情報関連サービス 542 1,618 198.5 △ 1,871 △ 341
専門的な知識・技術を必要とする法人向けサービス(法務・監査、コンサルタントなど) 2,477 2,024 △ 18.3 342 △ 1,785
不動産 364 1,038 185.2 1,688 7,535 346.4
建設 △ 1,428 474 △ 1,710 △ 470
電力・ガス・蒸気・空調 △ 1,990 320 5,719 3,429 △ 40.0
鉱業 △ 1,449 73 △ 4,236 △ 2,732
水・廃水処理、廃棄物処理、汚染浄化 △ 186 △ 114 2,973 580 △ 80.5
ホテル・レストラン △ 679 △ 179 △ 2,615 114
商業・修理業 1,504 △ 2,339 △ 4,779 △ 1,345
運送・倉庫業 1,422 △ 3,875 5,100 1,492 △ 70.7
合計(その他含む) 1,886 22,808 1,109.3 7,400 13,118 77.3

出所:フランス銀行

国・地域別にみると、EUが前年比94.4%増の221億7,900万ユーロだった。ユーロ圏は230億4,600万ユーロと、前年の89億9,100万ユーロを大幅に上回った。首位のオランダ、3位のスペイン、4位のルクセンブルクからの投資額が増加に貢献した。スペインの通信事業者セルネックス・テレコムは2021年10月、通信インフラ事業者イボリーの買収を完了したと発表した。買収額は52億ユーロで、セルネックスはイボリーを通じフランス国内の通信インフラ事業に進出し、さらに9億ユーロの追加投資を行う方針を明らかにした。EU域外では、2位の米国が61億1,900万ユーロ、7位の英国が16億6,000万ユーロと、前年の引き揚げ超過からプラスに転じた。中国(香港を含む)は22億9,600万ユーロの引き揚げ超過だった。米国アマゾンは2021年9月、モゼル県オルニーに物流センターを開設した(表2、3参照)。

表2:フランスの国・地域別対内・対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー) (単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値、-は値なし)
国・地域名 対内直接投資 対外直接投資
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
欧州 8,835 14,511 64.2 7,708 14,136 83.4
階層レベル2の項目EU 11,411 22,179 94.4 5,478 11,288 106.1
階層レベル3の項目ユーロ圏 8,991 23,046 156.3 7,056 9,104 29.0
階層レベル4の項目オランダ 7,534 10,827 43.7 △ 2,634 2,192
階層レベル4の項目スペイン △ 2,311 5,853 △ 6,066 2,335 △ 138.5
階層レベル4の項目ルクセンブルク 1,358 5,088 274.7 2,680 △ 51
階層レベル4の項目ベルギー △ 2,747 2,016 4,461 2,473 △ 44.6
階層レベル4の項目ドイツ 4,006 1,525 △ 61.9 438 3,215 634.0
階層レベル4の項目イタリア △ 1,730 △ 1,915 4,323 △ 209
階層レベル3の項目非ユーロ圏 △ 7,105 △ 238 344 4,013 1,066.6
階層レベル4の項目ポーランド 1,717 120 △ 93.0 △ 993 596
階層レベル4の項目チェコ △ 147 3 108 258 138.9
階層レベル4の項目ルーマニア 11 △ 12 498 143 △ 71.3
階層レベル2の項目英国 △ 4,814 1,660 3,965 2,541 △ 35.9
階層レベル2の項目スイス 1,319 △ 9,541 △ 2,258 3,625
階層レベル2の項目ロシア 156 △ 8 2,262 △ 514
階層レベル2の項目トルコ 53 △ 30 349 △ 30
米州 △ 6,776 9,539 △ 8,966 3,835
階層レベル2の項目米国 △ 5,958 6,119 △ 3,873 △ 2,899
階層レベル2の項目カナダ △ 417 3,234 △ 6,114 5,652
中近東 1,374 706 △ 48.6 1,174 1,008 △ 14.1
アフリカ △ 65 155 1,233 △ 1,265
アジア 937 △ 1,678 8,420 △ 1,061
階層レベル2の項目韓国 △ 41 597 277 96 △ 65.3
階層レベル2の項目シンガポール △ 563 133 3,030 △ 3,620
階層レベル2の項目インド 32 △ 2 3,017 304 △ 89.9
階層レベル2の項目日本 532 △ 130 △ 322 △ 416
階層レベル2の項目中国(香港含む) 214 △ 2,296 958 1,077 12.4
合計(その他含む) 1,886 22,808 1,109.3 7,400 13,118 77.3

出所:フランス銀行

表3:フランスの主な対内直接投資案件(2021年1月~2022年5月)

M&A以外
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
石油化学 イネオス 英国 2021年10月 20億ユーロ(フランス以外への投資額を含む総額) イネオスは10年間でノルウェー、ドイツ、ベルギー、英国、フランスにグリーン水素製造工場を建設すると発表した。
製紙 ノルスケ・スコグ ノルウェー 2021年6月 2億5,000万ユーロ ノルスケ・スコグはゴルベイ工場の設備を近代化し、コスト競争力のある二酸化炭素(CO2)排出量が少ない段ボール製造能力を拡大すると発表した。20人を新規雇用し、2026年後半にフル稼働する予定。
情報・通信機器 ファーウェイ 中国 2021年1月 2億ユーロ 華為技術(ファーウェイ)は欧州市場向けワイヤレス機器の部品工場の着工式を行った。東部ストラスブール近郊のブリュマト工業団地に建設される同工場は2023年に稼働し、当初は300人、長期的には500人の新規雇用を創出する予定。
製薬 エボテック ドイツ 2021年4月 1億5,000万ユーロ エボテックはトゥールーズにバイオ治療薬の製造工場を建設すると発表した。フランス政府やオクシタニー地域圏などから総額5,000万ユーロの公的支援を受ける。
流通 アマゾン 米国 2021年9月 非公表 グラン・テスト地域圏は、アマゾンがモゼル県オルニーに物流センターを9月23日に開設し、278人の正規雇用を創出したと発表。アマゾンは2021年5月、同センターを開設予定であり、3年間に1,000人の正規職員を雇用する旨、発表していた。
M&A
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
通信インフラ イボリー セルネックス・テレコム スペイン 2021年10月 52億ユーロ 通信事業者セルネックス・テレコムは通信インフラ事業者イボリーの買収を完了したと発表した。8年間にインフラ整備に9億ユーロを追加投資する。
医薬 HRAファーマ ぺリゴ・グループ アイルランド 2022年5月 18億ユーロ ぺリゴ・グループはセルフケア製品を製造するHRAファーマの買収を完了したと発表した。
化学 アルケマ トリンセオ 米国 2021年5月 11億3,700万ユーロ トリンセオはアルケマのアクリル樹脂(PMMA)事業の買収を完了したと発表した。トリンセオのアジア太平洋地域の既存顧客へソリューションを提供することを目指す。
塗料 クロモロジー 日本ペイント 日本 2022年1月 11億2,800万ユーロ 日本ペイントホールディングスは、欧州で建築用塗料等の製造・販売を手掛けるクロモロジーの株式を、英国に新設した子会社DGLインターナショナルを通じて取得完了し、孫会社化した旨を発表した。欧州主要都市での市場拡大が狙い。
エネルギー RESメディテラネ ハンファ 韓国 2021年11月 非公表 ハンファは再生可能エネルギー事業会社RESの親会社であるRESメディテラネの株式100%取得を完了したと発表した。買収により、欧州での風力発電プロジェクトを初めて所有するなど、欧州におけるポートフォリオを強化する。

出所:各社発表と報道などから作成

外資規制の対象投資件数が328件に増加

フランス政府は新型コロナウイルス禍の中での国益保護の観点から、外資規制の強化策として、2021年11月、事前認可の対象となる欧州経済領域(EEA)外の企業が所有するフランスの上場企業の議決権の比率を25%超から10%超に引き下げる特例措置を2022年12月まで継続すると発表した。経済・財務・復興省財務総局の2022年3月の発表によると、2021年に事前認可の審査対象となった投資件数は328件で、前年の250件から増加した。審査の結果、124件を認可したが、このうち67件は条件付きでの認可となった。

対外直接投資、EU向け軸に77.3%増

フランス銀行によると、2021年の対外直接投資額は131億1,800万ユーロで、前年から77.3%増加した(表1参照)。株式資本に関わる直接投資額は前年の108億6,100万ユーロから36億3,300万ユーロの引き揚げ超過に転じた。再投資収益は242億ユーロで、前年の引き揚げ超過から大幅な増加を示した。他方、フランスの親会社から国外子会社への貸し付けといった「その他の直接投資」は、前年の98億2,400万ユーロから、74億5,000万ユーロの引き揚げ超過に転じた。

業種別にみると、前年は引き揚げ超過だった製造業が216億7,700万ユーロと、プラスに転じた。内訳をみると、食品が26億1,700万ユーロ、医薬が16億5,400万ユーロ、自動車が16億3,700万ユーロの一方、衣類・繊維、情報・電子・光学機器は前者が21億5,100万ユーロ、後者が11億9,600万ユーロの引き揚げ超過となった。非製造業では情報・通信、金融・保険が大幅な引き揚げ超過を計上した。

国・地域別にみると、EUが112億8,800万ユーロと、前年からほぼ倍増した。ユーロ圏は前年比29%増の91億400万ユーロだった。3位のドイツが32億1,500万ユーロと、前年の7倍強となったほか、6位のスペインと7位のオランダがそれぞれ23億3,500万ユーロ、21億9,200万ユーロと、前年の引き揚げ超過から大幅増に転じた。7月に光学機器エシロールルックスオティカがオランダの眼鏡販売グランドビジョンの株式76.72%を取得した案件や、12月に建設バンシがスペインの同業ACSグループのエネルギー事業を買収した案件が寄与したとみられる。EU域外では、前年引き揚げ超過だったカナダとスイスがそれぞれ1位と2位に浮上し、4位の英国が前年比35.9%減の25億4,100万ユーロとなった。2021年のM&A以外の案件では10月、ベオリアがブラジルの3つの廃棄物処理工場内でバイオガス発電所を稼働し、ジオディスが英国2カ所に物流センターを新設した(表2、4参照)。

表4:フランスの主な対外直接投資案件(2021年)

M&A以外
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
製薬 サノフィ カナダ 2021年3月 6億ユーロ超 サノフィはトロント工場の敷地内にカナダ・米国・欧州市場向けインフルエンザのワクチンの製造施設を新設すると発表した。2026年の稼働を目指す。
産業ガス エアリキード 中国 2021年6月 7,000万ユーロ エアリキードはエレクトロニクス産業が集積する武漢市で、最新鋭技術による高純度ガスの製造工場を建設し、顧客である中国の半導体メーカーに供給すると発表した。2022年に稼働予定。
化学 アルケマ 中国 2021年2月 非公表 アルケマは2021年2月、中国の常熱市にあるフッ素樹脂工場を拡張し、2022年末までに生産能力を35%(2022年1月に50%へと上方修正)増強すると発表した。
廃棄物処理 ベオリア ブラジル 2021年10月 非公表 べオリアは、ブラジルの3つの廃棄物処理工場に設置したバイオガス発電所を稼働したと発表した。発電容量は合わせて12.4メガワット(MW)。
物流 ジオディス 英国 2021年11月 非公表 ジオディスは2021年10月に英国2カ所に新たな物流センターを開設したと発表した。欧州第3の小売市場である英国で、Eコマースの隆盛に伴う需要増に対応する。
M&A
買収企業名 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
業種 企業名 国籍
エシロールルックスオティカ メガネ販売 グランドビジョン オランダ 2021年7月 72億ユーロ エシロールルックスオティカはHALオプティカル・インベストメンツからグランドビジョンの株式76.72%を取得したと発表した。販売網を補完する。
アルストム 鉄道車両製造 ボンバルディア カナダ 2021年1月 55億ユーロ アルストムはボンバルディアの鉄道事業の買収を完了したと発表した。モビリティー市場でのリーダーシップを強化し、グリーン輸送への需要に応える。
バンシ 建設 ACS スペイン 2021年12月 49億ユーロ バンシはACSのエネルギー部門および進行中の再生可能エネルギープロジェクトの買収を完了したと発表した。
ラクタリス 食品 クラフトハインツ 米国 2021年11月 33億ドル クラフトハインツは、北米市場での成長を目指すラクタリス・グループ傘下の企業へのチーズ事業の一部売却を完了したと発表した。
クレディ・アグリコル・アシュランス エネルギー FTソラレ イタリア 2021年1月 非公表 クレディ・アグリコル・アシュランスはイタリアの太陽光エネルギー事業FTソラレの株式30%をイタリアのインフラファンドF2iSgrから取得することで合意したと発表した。

出所:各社発表や報道などから作成

対日直接投資は引き揚げ超過を計上

フランス銀行の国際収支統計によると、2021年のフランスの日本からの直接投資受入額は1億3,000万ユーロの引き揚げ超過だった。株式資本に関わる直接投資額は前年から微減の7,000万ユーロとなった。再投資収益は1億500万ユーロと前年から倍増した。その他の直接投資は3億600万ユーロの大幅な引き揚げ超過に転じた。

ブランド品買取・販売のバリュエンスグループは2021年1月、グループ傘下のバリュエンスインターナショナルヨーロッパを通じ、パリ市にフランス初の店舗を開設した。2021年のM&A案件では、伊藤忠商事が3月、欧州を中心に植物油製造・販売事業を展開するプロバンス・ユィルの株式を追加で取得し完全子会社化した。また、三菱総合研究所は4月、ビッグデータ解析のフォアパースと企業のデータ駆動経営を支援することで合意し、同社が発行する転換社債型新株予約権付き社債を引き受けたと発表した。日本ペイントホールディングスは10月、欧州で建築用塗料などの製造・販売を手掛けるクロモロジーの株式資本を、英国に新設した子会社DGLインターナショナルを通じて取得し孫会社化すると発表、翌2022年1月には11億2,800万ユーロで取得完了した。

2021年の対日直接投資額は4億1,600万ユーロの引き揚げ超過を計上した。株式資本に関わる直接投資額は前年の7,400万ユーロから6,000万ユーロの引き揚げ超過に転じた。再投資収益は3億9,700万ユーロとプラスに転じたが、その他の直接投資額は前年に続き、7億5,400万ユーロの引き揚げ超過だった。

化粧品ロレアルは2021年2月、スキンケア製品を製造販売するタカミの買収を完了したと発表した。タカミの専門知識と販売網により、ポートフォリオを補完する 。物流ボロレ・ロジスティクスは11月、顧客へのきめ細かいサービス提供を目的に名古屋支店を開設した。

執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
山﨑 あき(やまさき あき)
2000年よりジェトロ・パリ事務所勤務。
フランスの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。