低排出ガス車の販売がさらに加速(ドイツ)
2022年乗用車市場(後編)

2023年9月29日

ドイツ3大自動車メーカー〔フォルクスワーゲン(VW)グループ、メルセデス・ベンツグループ、BMWグループ〕の2022年の低排出ガス車〔バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)〕の世界販売台数は増加した。3社とも、二酸化炭素(CO2)排出量の削減をさらに推進している。

2023年については、ドイツ国内での乗用車の新規登録台数と生産台数はともに増加の予想だ。3大自動車メーカーともに、2023年の世界販売台数の予測を発表している。

低排出ガス車の販売は好調、各社が2022年の新車CO2排出量目標を達成

ドイツ自動車大手3社とも、低排出ガス車の拡大を推し進めている。特にBEVの販売台数は好調だった。また、各社とも脱炭素化を目指しており、2022年の欧州(注1)でのCO2平均排出量目標を達成した。

VWグループ

VWグループは、2022年の全世界での低排出ガス車販売台数が81万7,284台(前年比7.2%増)だった。グループ全体の大型商用車も含む新車販売台数(826万2,776台)全体に占める割合は9.9%で、2021年の8.6%を1.3ポイント上回った。低排出ガス車のうち、BEVは57万2,110台(26.3%増)で、全体に占める割合は6.9%。PHEVは24万5,174台(21.2%減)で、全体に占める割合は3.0%だった。

同社は2021年4月発表の「Way to ZERO」で、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた目標の1つとして、2030年までに電気自動車(EV)の販売台数の割合を、欧州で少なくとも70%に、北米と中国で50%以上に増加させることを目指すとした。2023年1月には、短・中期的な目標として、2023年のBEVのグループ全体の販売台数の割合を約11%に拡大させ、2025年には約20%とすることを目指すと発表。さらに、2030年までに、BEVの販売台数の割合を50%に拡大させるとした。同社は2023年に、「ID.3」「ID.7」「ID.Buzz Long Wheel Base」「CUPRA Tavascan」「Audi Q8 e-tron」などのBEVの新モデルを市場投入する。

VWグループの2022年の研究開発費は、189億800万ユーロ(前年比21.3%増)となった。また、2023~2027年の5年間の投資額は合計1,800億ユーロを予定しており、そのうち68%を電動化とデジタル化の分野へ投資するとした。前回の2022~2026年計画では、同比率は56%だった。

VWグループは、2022年の新車(注2)のCO2平均排出量目標を達成した。同社目標値の1キロ当たり122グラムに対して、119グラムだった。同グループは2025年、そして2030年のCO2平均排出量目標を達成できると予測している。

BMWグループ

BMWグループの2022年の全世界での低排出ガス車販売台数(BMWとMINIの合計)は43万3,792台(前年比32.1%増)だった。グループ全体の全販売台数(239万9,632台)に占める割合は、2021年の13.0%から18.1%に拡大した。低排出ガス車のうち、BEVは21万5,752台で前年比2.1倍と急増した。全販売台数に占める割合は9.0%。2023年にこの割合を15%まで伸ばすことを目指している。さらに、2030年までに世界販売台数の50%以上をBEVとする目標を挙げている。また、2030年までに、約1,000万台のBEVを販売するとした。一方、PHEVの2022年の販売台数は21万8,040台(2.9%減)にとどまった。PHEVが全販売台数に占めるシェアは9.1%となった。

BMWグループは2022年下半期に、BEVモデル「BMW i7」と「BMW iX1」を市場投入した。2023年には、BEVモデルの「BMW i5」と「BMW iX2」を市場投入する。また、2023年3月に欧州、日本、中国、韓国、米国といった主要市場において、燃料電池車(FCEV)「BMW iX5 Hydrogen」のパイロット車両を合計100台弱導入した。

2022年の研究開発費は66億2,400万ユーロ(前年比5.2%増)だった。今回の研究開発費は、BMWグループが2025年に導入予定の「ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)」を含む新モデルや次世代電気駆動の開発、デジタル化、自動運転技術向けが中心だった。

なお、BMWグループは、2022年の欧州における新車のCO2平均排出量目標を達成した。2022年の同グループの目標値である1キロ当たり127.5グラムに対して、105グラムだった。2023年は、CO2平均排出量をさらに削減できる見込みだ。

メルセデス・ベンツグループ

メルセデス・ベンツグループの2022年の全世界での低排出ガス車販売台数は33万3,500台(前年比22.7%増)だった。グループ全体の販売台数に占める割合は16.3%となり、前年比で2.3ポイント上がった。そのうち、BEVは14万9,200台(66.7%増)だった。BEVモデルでは、特に「EQA」(3万3,500台、35.1%増)、「EQB」(2万6,200台、29.1倍)、「EQS Saloon」(2万3,400台、9.4倍)などの販売が好調だった。一方、PHEVの2022年の販売台数は18万4,300台(1.1%増)にとどまった。同社は既に全セグメントでBEVを提供している。乗用車の設計思想となるアーキテクチャ(プラットフォーム)は、2025年からBEV向けのみとする。具体的には、(1)中・大型乗用車向けの「MB.EA」、(2)高級スポーツカー向け「AMG.EA」、(3)小型商用車とバン向けの「VAN.EA」のBEV専用アーキテクチャを2025年に導入の予定。また、市場動向によっては、2030年までに全新車販売をBEVにする可能性もあるとしている(2023年1月4日付ビジネス短信参照)。2022年後半には、BEVモデルの「EQS SUV」と「EQE」を市場投入した。

メルセデス・ベンツグループでは、2022年の研究開発費が85億4,100万ユーロ(前年比6.2%減)となった。そのうち、グループ傘下のメルセデス・ベンツ・カーズ(乗用車部門)による研究開発費は79億8,600万ユーロ(10.8%増)だった。研究開発費が振り向けられたのは、主に(1)BEV向けアーキテクチャの開発、(2)デジタル化、(3)自動運転技術などの分野。加えて、2022~2026年の5年間に、電動化とソフトウェア開発に総額600億ユーロ以上を投資する計画としている。一方で、メルセデス・ベンツ・カーズは固定費を2025年までに2019年比で20%削減する目標を掲げた。

メルセデス・ベンツは、欧州における2022年の新車のCO2平均排出量目標を達成した。同社目標値の1キロ当たり127グラムに対して、115グラムだった。同社は2023年には、CO2平均排出量目標を大きく上回ると予測している。

VDA、2023年はドイツ国内乗用車の市場・生産はさらに回復と予測

ドイツ自動車産業連合会(VDA)は2023年7月、2023年の乗用車市場の見通しを発表した。ドイツ乗用車市場については280万台(前年比6%増)と予測、前回予測(2023年5月)での4%増を約5万5,000台上方修正した。しかし、新型コロナ禍以前の2019年の水準を22%下回る。ドイツを含む欧州市場(注3)は1,230万台(9%増)とした。前回予測では1,200万台(7%増)だった。

VDAはドイツ国内での乗用車生産台数の見通しも上方修正し、400万台(前年比15%増)と予測した。前回予測(2023年5月)の379万台(9%増)から6ポイント上がった。ただし、2019年の水準を14%下回る。

2023年は3社ともに世界全体でBEV販売拡大が継続の見通し

ドイツの自動車大手3社は、2023年の販売や生産についてどのように見通しているのか。

VWグループ

VWグループは、材料や部品のサプライチェーンの状況が回復に向かうことと物流事情の改善を前提に、2023年の世界乗用車販売台数を約950万台と予測している。同グループによると、例えば西欧だけでも受注残は180万台で高水準を維持しており、そのうちの31万台がBEVとなっている。また、2023年は通年で、特に(1)世界乗用車市場における競争激化、(2)材料やエネルギーの供給不安、(3)エネルギー市場や為替環境の変化、(4)CO2排出量削減への一層の要求などの課題に直面することを見込む。

BMWグループ

BMWグループは、2023年通年で、新型コロナ禍が売上高などに与える影響は少なくなると予測している。他方、中国における新型コロナ感染拡大予防措置による生産・販売台数への影響についてまだ不安があるとした。また、半導体や部品の供給状況が回復に向かうものの、特にBEV向けバッテリーの生産に必要なリチウム、ニッケル、コバルトなどの原材料の不足が悪化する見込みがある。併せて、人員不足、部品供給への制限、エネルギー価格や原材料価格の高騰などがサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があるとした。エネルギー供給については、再生可能エネルギーの利用とエネルギー効率化により、供給を安定化できるとした。

BMWグループは、2023年のBMW、MINIおよびロールス・ロイスの世界販売台数が2022年比で微増すると予測している。その理由として、部品供給の安定化と高い水準の受注残を挙げた。ニコラス・ペーター財務担当取締役は「ハンデルスブラット」紙(2022年9月26日)のインタビューで、「微増する」というのは「1~5%増加する」という意味だと明らかにした。また、同財務担当取締役は、2023年通年のBEVの販売台数が24万~24万5,000台に増加すると予測している。2024年のBEVの販売台数は40万台となる見込みだ。

メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツグループ傘下のメルセデス・ベンツ・カーズは、2023年の世界販売台数は2022年と同じ水準にとどまるとしている。同社は、特に「EQS SUV」や「メルセデス・マイバッハEQS SUV」のような高級車の販売がわずかに増加すると予測している。また、2023年のBEV販売台数は、前年比でほぼ倍増すると予測している。


注1:
EU加盟国、ノルウェーとアイスランドを含む。
注2:
2022年からVWグループ傘下のランボルギーニとベントレーを含む。
注3:
EU27カ国、EFTA加盟国(スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)および英国。

2022年乗用車市場

  1. 乗用車生産・新規登録台数とも増加(ドイツ)
  2. 低排出ガス車の販売がさらに加速(ドイツ)
執筆者紹介
ジェトロ・ミュンヘン事務所
クラウディア・フェンデル
2020年よりジェトロ・ミュンヘン事務所で調査および地域間交流を担当。