農水産・食品輸出が過去最高、FTAと韓流コンテンツも支えに(韓国)

2023年2月21日

2022年の韓国の農水産品・食品輸出が、120億ドルに達した。過去5年間、着実に輸出額を伸ばしている。その理由として、(1)韓国食品などのプロモーション(注1)や、(2)ブランド化(注2)、(3)販路開拓が功を奏したことが考えられる。加えて、(4)自由貿易協定(FTA)の関税引き下げによる競争力強化や、(5)韓国産農水産品・食品のイメージ向上も一役買っているようだ。このうち特に(5)については、韓流コンテンツ(Kコンテンツ)が普及したことも寄与したと考えられる。

本稿では、(1)主要国の最前線で、韓国産農水産品・食品がどのような状況にあるのか、(2) Kコンテンツ普及に伴う消費財への波及効果、(3)韓国政府の新たな農水産品・食品輸出政策についてまとめた。

農水産品・食品輸出が2年連続で100億ドル突破

農林畜産食品部・海洋水産部は2023年1月3日、2022年の韓国の農水産品・食品の輸出額(暫定値)を発表。前年比5.3%増の120億ドルに達した。実に、過去最高の水準だ。2年連続で100億ドルを突破したことにもなる。世界的な物流難など厳しい環境の中でも、農食品分野では輸出が堅調に増加したかたちだ。より具体的には、コメ加工食品をはじめとするホーム・ミール・リプレイスメント食品や、ナシ、ゆず茶などの輸出が増加した(図1、表参照)。

図1:韓国の農水産品・食品輸出額の推移
韓国の農産品・食品輸出額は、2018年93億ドル、2019年95億ドル、2020年99億ドル、2021年114億ドル、2022年120億ドルだった。 韓国の農産品・食品輸出額の前年比は、2019年2.5%増、2020年3.6%増、2021年15.3%増、2022年5.3%増だった。

注:2022年は暫定値。
出所:農林畜産食品部・海洋水産部

表:主な品目別輸出額(単位:100万ドル)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年 増減率(%)
農畜産食品 8,558.2 8,830.9 3.2
階層レベル2の項目コメ加工食品 164.0 180.6 10.1
階層レベル2の項目ラーメン 674.4 765.5 13.5
階層レベル2の項目飲料 485.1 513.3 5.8
階層レベル2の項目ゆず茶 52.9 56.4 6.6
階層レベル2の項目ナシ 71.8 74.3 3.5
水産食品 2,825.3 3,159.7 11.8
階層レベル2の項目ノリ 692.9 655.7 △ 5.4
階層レベル2の項目マグロ 579.2 602.5 4.0
階層レベル2の項目メロ(注) 45.2 90.8 101.1
階層レベル2の項目アワビ 54.4 65.2 19.8
農水産・食品(合計) 11,383.5 11,990.6 5.3

注1:メロはスズキ目ノトセニア科の大型深海魚。
注2:2022年は暫定値。
出所:農林畜産食品部・海洋水産部

日本・米国・フランスでの輸出最前線で、今

韓国農水産品・食品の輸出が成長を続けている理由は複合的だ。農林畜産食品部は、新型コロナを契機にした世界的な健康志向と韓国食品との親和性を挙げている。しかし、韓国食品輸出の最前線に立つ側がらの意見は、必ずしもそれだけではないようだ。KコンテンツやFTAによる輸出拡大効果に着目し、主要輸出先(日本、米国、フランス)の現状や現地の声を以下で取り上げる。

  • 日本と初のFTA発効がチャンスに(日本)

    銀座のコンビニエンスストアに、韓国のフレーバー焼酎が陳列されるようになった。2022年10月(韓国の有名ドラマのリメイクが日本で放送された直後)以来のことだ。韓国大手の食品メーカー日本支社の担当者は、「日本のコンビニエンスストアでは、売り上げ(の見通し)が立たなければ陳列できない。そこに韓国焼酎が並ぶことになった」と、その意義を説明。あわせて、「韓国食品の対日輸出拡大は、韓流ブームだけが理由ではない。地域的な包括的経済連携協定(RCEP)による関税の引き下げも大きなチャンス」との考え方を示した(注3)。さらに、韓国にとってRCEPは「日本との間で初のFTA」になったことを強調。「その他の酒類や果物の市場も開放された」と韓国産品の競争力向上につながることにも触れた。

    別企業の関係者は、RCEPの発効により恩恵を受ける品目としてネクタリンを挙げた。実際、韓国からの輸出拡大に寄与しているようだ(注4)。

    また、水産物の対日輸出では、ノリ(海苔)が常に上位にある。韓国農水産食品流通公社(aTセンター)によると、ノリの対日輸出は、2021年は2020年からやや減少した。しかし、2022年には需要が再び盛り返したという。この要因として、製品開発に取り組んだ成果が考えられる。その対象は、シート型の一般的な「韓国ノリ」にとどまらない。最近は、韓国ノリを生かしたスナックなども開発された。

  • おいしい・健康的・安心イメージが浸透(米国)

    米国では、韓米FTAの発効により、キムチに課されていた11.2%の関税が撤廃された。aTセンターによると、FTA発効前の2011年、キムチ輸出額は280万ドルだった。これに対し、2020年は2,800万ドルまで拡大。韓国の対世界キムチ輸出額に占める米国の割合も、跳ね上がった(韓米FTA発効前には平均2.6%に過ぎなかったのが、発効後6~10年目の平均で13.8%に成長)。aTセンターの米州本部長は、韓国農水産品・食品のトレンドについて、「米国では韓国食品に、『おいしい、健康的、安心できる』というイメージが浸透している」と話す。毎年ニューヨークで催される「Summer Fancy Food Show」でも、一定の手応えを感じたようだ。例えば、トッポギをはじめとするコメ加工食品やスナック類に米国バイヤーの関心が集まったという。

    ただ、米国向け輸出には課題もある。同本部長は「韓米間には物理的な距離があるため、生鮮産品は輸送コストが高い。価格競争力の確保が難しいことになる。物流への様々な支援策と果菜類の鮮度を維持できるコンテナ技術の開発が必要」と語った。同時に、更なる韓国農水産品・食品の普及に向けて、意気込みをみせた。韓国式バーベキュー(サムギョプサル)文化の広報は、その一例だ。韓国では、ニンニク、キノコ、キムチと一緒にサンチュやエゴマの葉を巻いて、肉を食べるというのが一般的。そうすると、野菜も同時に摂取でき、健康的だ。そうしたことを訴え、米国で浸透させたいとした。

  • Kコンテンツが食材普及を後押し(フランス)

    パリのサンタンヌ通りには、日本食レストランや日本食材店が並ぶ。その中に、韓国食材を扱う店舗もある。韓国食材を扱うスーパーマーケットに頻繁に足を運ぶというフランス人は「韓国ドラマを見て、キムパプ(キンパ)を食べるようになった」と、韓流コンテンツが食生活に影響したことを語った。aTセンター・パリ支社によると、2021年の韓国からの食品輸入額は4,479万ドル。前年比50%増の伸びだった。その中で最も大きいのが麺類(ラーメンなど)で、38%を占める。これに、加工果物、ノリ類が続いた。ノリの場合、2021年の輸入額が913万ドルと、2020年比で47%の増加になった。コチュジャンやカンジャンなどの調味料も80%増加した。

    韓国食品の人気は加工食品だけでなく、農産品まで広がっている。特にエリンギは、食感や風味がフランス人から好評だ。韓国食材を扱うスーパーマーケットはもちろん、地場大手のスーパーでも韓国産エリンギが手軽に購入できるようになった。さらに、ナシ、ブドウなどの果物についても、フランス向け輸出が開始された。実際、有力食品見本市として知られる「SIAL Paris 2022」では、韓国館で地域営農組合や農産物流通業者などがナシとシャインマスカットをプロモーションした。なお、韓国とEUは、2009年にFTA交渉で妥結。2011年から、関税の撤廃・引き下げが開始された。その結果、ラーメン、海苔、キムチなどが韓国EU・FTAに基づいて、全て無税で輸入できるようになった。このことも、韓国農水産品・食品の輸出拡大に貢献していると言えよう。

    フランスでの韓国食材のラインアップは、ここ数年で顕著に増えた。2022年7月の「2022パリKフードフェア」(注5)では、途中で入場者数を制限するほどの活況ぶりだった。こうしたことも、韓国食材人気の表れといえよう。aTセンターでは、その要因としてKコンテンツ人気を挙げた。Kポップに始まり、映画、ドラマなどの人気が韓国食品への関心も呼んだというわけだ。

Kコンテンツで、輸出1.8倍増

それでは、Kコンテンツの普及と食品輸出拡大の相関関係は、どのように説明することができるのだろうか。

韓国輸出入銀行では、ゲーム、映画、音楽などのKコンテンツの輸出が増加するに連れて、化粧品や加工食品といった消費財の輸出が1.8倍に増加したという分析結果を発表している(注6)。

なお、その効果は、地域別に異なる。非中華圏向けには、Kコンテンツ輸出額が1億ドル増加すると、消費財輸出が2億2,900万ドル増加した。これは、中華圏と比較して経済効果が高いことを示したかたちだ。また、コンテンツ別にも相違が認められる。例えばゲームの輸出が1億ドル増加すると、消費財輸出が1億3,800万ドル増加。他方で、ゲームを除く音楽・放送・映画などで輸出が1億ドル増加すると、消費財の輸出が4億5,600万ドル増加すると試算された。

この調査結果からすると、韓国の消費財の輸出効果は、「非中華圏」と「音楽・放送・映画」がキーワードになりそうだ。さらに、消費財やKコンテンツの生産の過程で、就業誘発効果が2,982人に達するとの推計も示している(図2参照)。

図2:Kコンテンツを1億ドル輸出する場合の生産誘発効果および就業誘発効果
Kコンテンツを1億ドル輸出すると、5億1,000万ドルの生産誘発効果と2,982人の就業誘発効果がもたらされる。

出所:韓国輸出入銀行資料に基づき、ジェトロ作成

支援は、FTAの利活用にも及ぶ

韓国国内で食品を輸出する企業数は、約1万社と推計されている。しかし、この分野で成功を収めている企業は必ずしも多くないのが現状だ。輸出市場を開拓するには、各種の通関業務や検疫などに伴う障壁、現地に合った商品開発とマーケティングなど、多くの課題を克服しなければならないためだ。しかも、農水産品・食品の商品特性から、そのために投入を要する費用・時間負担が重い。

この問題の解決を期し、aTセンターでは、輸出企業の規模に応じて支援。加えて、各種の輸出障壁に苦しむ企業への指導役を担うことで、輸出企業をトータルサポートしている。各種にわたる支援の中でも評価の高い「優秀農食品パッケージ支援事業」について、以下で紹介する。

aTセンター輸出食品部によると、零細企業は、おおむね輸出業務に精通した専門人材を求める傾向がある。その一方で、比較的輸出業務にたけた企業が求めがちなのは、マーケティング支援だ。このように異なる要望に応えるためaTセンターが力を入れることにしたのが、「優秀農食品パッケージ支援事業」だ。この事業では、支援先に採択された企業が自ら必要なメニューを選択し、上限金額の範囲で支援を受けることができる。上限金額は、輸出初期段階にある企業(注7)の場合、8,000万ウォン(約840万円、1ウォン=約0.105円)になる。また、輸出規模が一定規模ある企業(注8)に対しては、1,200万ウォンまたは2,000万ウォンに設定されている。

具体的には、輸出初期段階の企業であれば、(1)輸出コンサルティング、(2)輸出専門人材の育成、(3)製品開発、(4)パッケージングの開発、(5)認証の取得、(6)サンプル通関輸送などから選択できる。一定の輸出規模がある企業には、(1)現地市場調査、(2)展示会などへの参加費用、(3)バイヤー招聘(しょうへい)、(4)オンラインでの販売促進などが選択肢になる。予算の範囲内で、発展的な支援を柔軟に提供することも可能だ。例えば展示会に参加し、そこで商談した企業と商談がある程度進んだ場合、展示会支援の枠内で、商談したバイヤーを韓国に招聘することができる。従って、展示会参加とバイヤー招聘、それぞれの事業について補助申請を個別に提出する必要がなくなる。手続きが簡素化する点で、中小・中堅企業にとっては大きなメリットになる。

2021年はこの事業を通じ、1億6,000万ドルの輸出実績を達成した。特に輸出実績額が10万ドル未満の企業の場合、同事業を通じ輸出額が平均で51%もの伸び率を記録したという。2022年度は中小の輸出企業46社を選定。対象企業に対して全面支援に乗り出している。

なお、韓国企業が輸出する際、一般的にはFTA利用率が高い。産業全体では、74.4%に及ぶとされる。しかし、農林水産物に限ってみると、64.4%と低めだ。そのためaTセンターでは、農水産食品企業を対象に、FTA・RCEP専門のコンサルティンググループを設置。HSコードの分類、関税の実益分析、原産地証明書発給などについて、無料で支援している。

「Kフードプラス本部」始動、1年で輸出12%増を目指す

農林畜産水産部は2023年1月、一層の輸出振興を期して「Kフードプラス輸出拡大推進本部」を立ち上げた。韓国の農産品・食品だけに限定せず、関連する商品・産業なども促進活動の対象に加える。例えば、スマートファーム、農業機械・資材、動物用医薬品、ペットフードなどが一例だ。なお、目標は、農産品・食品と関連産業をあわせて、2023年の輸出額を130億ドルにすることだ。2022年116億ドルだった(注9)ので、12%増を目指していることになる。

具体的には、 (1)300億ウォン規模の輸出物流費支援や4,600億ウォン規模の輸出金融支援、(2)イチゴ、ブドウなど10の主力輸出品目やフードテックなど新成長・有望品目の海外マーケティング支援の強化、(3)韓流コンテンツと韓国料理を連携した海外の優秀な韓国料理店の指定(20カ所)、(4)輸出国への入港から消費地までのコールドチェーンの拡大、(5)粉米やペットフードなど、有望品目の発掘・育成推進、などが挙げられた。

また、関連産業・分野に関しては、以下のような計画が目を引く。

  • スマートファーム:中東・東南アジアなど新市場に「韓国型試験温室」を構築する。これによって、イチゴなど差別化した品種と連携して輸出を拡大するという。
  • 農業機械:北米市場で高まった認知度をもとに、中南米や東南アジアへと市場多角化を進める。
  • 動物用医薬品:効能・安全性評価センターおよび試作品生産施設を設置。
  • 肥料:原料購入資金融資(6,000億ウォン規模)の支援対象を12原料に拡大。
  • 種子:国際種子博覧会を開催、海外品種展示圃の運営、など。

今後も、韓国の農水産品・食品の輸出戦略から目が離せない。


注1:
見本市出展や商談会開催など。
注2:
新商品の開発や製品の改良など。
注3:
韓国からの焼酎(ソジュ)を輸入する場合の関税は、RCEP発効21年目までに段階的に撤廃される。なお、協定発効前までの税率は16%だった。
注4:
HS0809.30「桃(ネクタリンを含む)」を韓国から日本に輸入する場合、MFN税率は6.0%。これに対し、RCEPでの譲許税率は4.9%。
注5:
2022パリKフードフェアは、aTセンターが主催して実施。2022年7月、ルーブル美術館地下のコンベンションセンターで開催された。
注6:
Kコンテンツと消費財、それぞれ輸出実績額から、相関関係を分析した。 調査対象期間は、2006年から2020年にかけて。輸出対象市場は、中華圏、日本、東南アジア、北米、欧州だ。また、ここで言う消費財とは、化粧品、加工食品、衣類、IT機器などを意味している。
注7:
直近3年間の平均輸出実績が、1万ドルから10万ドル未満、かつ国内の売上高が10億ウォン以上の企業。
注8:
(1)直近3年間の平均輸出実績が10万ドルから500万ドル未満の場合と、(2)直近3年間の平均輸出実績が500万ドル以上の場合で、支援額の上限が異なる。
注9:
2022年は、農産品・食品の輸出が88億ドル、関連商品・産業の輸出28億ドル。その合計で116億ドルになる。なお、この中に水産品は含まれていない。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所 副所長
当間 正明(とうま まさあき)
2020年5月、経済産業省からジェトロに出向。同年6月からジェトロ・ソウル事務所勤務。