新車販売低迷の中で日韓メーカーがシェア拡大(スペイン)
生産は電動化への移行過渡期

2023年10月4日

2022年におけるスペインの乗用車販売・生産は、ウクライナ情勢による物流混乱の悪化や先行き不透明により、いずれも引き続き回復が遅れた。乗用車の新車登録台数は81万3,376台で、前年比5.4%減だった。新車登録台数に占める電気動自動車(EV)の割合は約4割で、依然としてハイブリッド車(HV)が大半を占める。また、2022年の乗用車生産台数は221万9,436台で、5.8%増。EV比率は1割強と低いものの、復興基金による車載バッテリーや電動車の生産支援を対象とした助成がいよいよ本格化しつつある。

新車登録の上位5位に日韓3メーカー・ブランドがランクイン

スペイン自動車工業会(ANFAC)によると、2022年の自動車全体の新車登録台数は前年比7.3%減の95万8,978台となった。ウクライナ情勢や中国のゼロコロナ政策による生産活動の制約により、車載半導体などの部品の供給不足、エネルギー高騰に伴うインフレや金利上昇で景気が減速したことや、海上・道路輸送の混乱などが響いた。2020年の新型コロナ感染拡大以降、3年連続で以前の水準を3割下回る低迷が続いている。新規登録のうち乗用車は81万3,376台(前年比5.4%減)、小型商用車は11万9,672台(21.2%減)と減少したが、産業用車両(トラック、バス)はメーカーによるトラックの大手フリート事業者への直接販売の動きにより2万5,930台と13.9%の増加になった。

乗用車の新車登録台数上位5モデルは、現代「ツーソン」(2万1,985台)、ダチア「サンデロ」(2万782台)、セアト「アロナ」(1万7,462台)、トヨタ「カローラ」(1万6,998台)、フォルクスワーゲン(VW)「T-ROC」(1万6,595台)。

主要メーカー・ブランド別の新車登録台数は、1位がトヨタ(レクサスを含め7万8,187台、前年比14.2%増)、2位が起亜(6万3,345台、10.7%増)と、いずれも2桁の伸びになった。現代(5万9,503台、3.5%増)もシェアを伸ばし4位になった。一方、セアト、プジョー、ルノーなどは2桁の落ち込みで、現地生産の欧州勢が上位を占める例年とは様相が大きく異なった(表参照)。トヨタと現代・起亜のシェアはそれぞれ9.6%、15.1%で、EU市場全体での平均をそれぞれ2.4ポイント、5.9ポイント上回った。

表:主要メーカー・ブランド別新車登録台数とシェア(2022年)(単位:台、%、ポイント)(△はマイナス、-は値無し)
メーカー・ブランド 登録台数 前年比 シェア シェア
(前年との差)
トヨタ/レクサス 78,187 14.2 9.6 1.6
起亜 63,345 10.7 7.8 1.1
セアト/クプラ 62,676 △ 23.2 7.7 △ 1.8
現代 59,503 3.5 7.3 0.6
フォルクスワーゲン(VW) 58,853 △ 4.7 7.2 0.1
プジョー 54,737 △ 18.6 6.7 △ 1.1
ルノー 45,515 △ 12.0 5.6 △ 0.4
シトロエン 43,161 △ 8.3 5.3 △ 0.2
ダチア 37,682 2.5 4.6 0.4
メルセデス・ベンツ 36,480 8.3 4.5 0.6
アウディ 35,137 1.2 4.3 0.3
BMW 30,683 △ 12.8 3.8 △ 0.3
フォード 28,963 △ 1.3 3.6 0.2
オペル 26,583 △ 12.4 3.3 △ 0.3
シュコダ 23,254 △ 12.1 2.9 △ 0.2
日産 18,122 △ 30.5 2.2 △ 0.8
マツダ 12,628 △ 9.3 1.6 △ 0.1
その他 97,867 △ 2.5 12.0 0.4
合計 813,376 △ 5.4 100.0

注:トヨタはレクサス含む、セアトはクプラ含む。
出所:スペイン自動車工業会(ANFAC)

2022年は世界的な部材供給の混乱により納車遅れが顕在化し、半導体などの調達で優位性のある日韓メーカー・ブランドの納車期間が相対的に短くなり、シェアが拡大したとされる。しかし、スペイン独自の要因として、環境税制の適用変更も影響したと考えられる。スペインでは2022年から、新車購入時の自動車登録税[二酸化炭素(CO2)排出量基準課税]の税率を決定する際に、より厳格な燃料測定基準「国際調和排ガス・燃費試験方式(WLTP)」が適用されるようになった。その結果、従来は免税基準内(走行距離1キロ当たりのCO2排出量が120グラム以下)に収まっていた車種の多くが同基準を上回って課税対象となり、実質的な車両価格上昇をもたらした。HVが販売の9割近くを占めるトヨタは、ほとんどの車種が引き続き免税基準内に収まっており、このことも競争優位に寄与したとみられる。現代・起亜は、半導体不足の影響が比較的軽微だったうえ、低・中価格帯のスポーツ用多目的車(SUV)の販売が好調だった。都市部で従来燃料車の乗り入れ規制が広がる中、ガソリン、ディーゼル車の両方に対応したマイルドハイブリッド、HV、プラグインハイブリッド(PHEV)から、100%電動のバッテリー式電気自動車(BEV)まで、幅広い電動車オプションで買い手に訴求した。

なお、上海汽車傘下のMGやリンク・アンド・コー(吉利汽車とボルボの合弁)、奇瑞汽車が欧州でノックダウン生産するDRオートモビルズなどの中国系メーカー・ブランドも、SUVやBEV/PHEVを中心に近年、急速に売り上げを伸ばしており、2022年の合計登録台数は前年の6.6倍の1万520台となった。また、中国からの乗用車輸入額は前年の31.4倍と大きく増加し、日本、韓国を抜いた。うち8割はEVであった。

EVは登録台数の約4割も、BEV/PHEVはまだ1割弱

乗用車の新車登録台数を燃料別にみると、代替燃料車のシェアは40.9%(前年比6ポイント増)と過去最高を更新し、ガソリン車(3.2ポイント減の41.9%)に迫った(図1参照)。代替燃料車から天然ガス/液化石油ガス車を除いたEVのシェアは39.1%(前年比5.8ポイント増)で、前年比11.1%増の31万7,988万台。このうち、政府が上限9,000ユーロの購入補助金を支給して導入拡大を図るBEV(3万521台)とPHEV(4万7,791台)、燃料電池車(4台)は、依然として登録台数全体の9.6%にとどまっている。充電ポイントの整備もあまり進まず、欧州代替燃料観測所(EAFO)によると、2022年末時点のスペインにおける設置数は2万8,209基と、国土面積がほぼ同じフランス(10万6,074基)の4分の1程度に過ぎない。

図1:乗用車新車登録台数の燃料別シェアの推移
ディーゼル車の割合は、2015 年62.9%、2016 年56.8%、2017 年48.3%、2018 年35.8%、2019 年27.9%、2020 年27.7%、2021 年19.9%、2022年17.2%。ガソリン車の割合は、2015年35.1%、2016 年40.2%、2017 年46.6%、2018 年57.5%、2019 年60.1%、2020 年49.8%、2021 年45.1%、2022年41,9%。代替燃料車の割合は、2015 年2.0%、2016 年3.0%、2017 年5.1%、2018 年6.7%、2019 年12.0%、2020 年22.5%、2021 年34.9%、2022年40.9%。

注:代替燃料車は、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)、天然ガス自動車(NGV)、LPG(液化石油ガス)自動車を含む。
出所:ANFACのデータを基にジェトロ作成

こうした中、スペインではHVが引き続き現実的な選択肢となっている。HV(23万9,672台)の新車登録台数は前年から9.2%伸び、EVの4分の3、新車登録台数全体の29.5%を占めた。うち6割近くはトヨタ、現代、起亜、ルノーだった。

なお、購入補助対象車(BEV、PHEV、FCV)の上位登録車種は、BEVではテスラ「Model 3」(2,676台)、フィアット「500」(1,867台)、テスラ「Model Y」(1,866台)、起亜「ニロ」(1,517台)、シトロエン「C4」(1,442台)となった。PHEVではプジョー「3008」(2,738台)、リンク・アンド・コー「LYNK & CO 01」(2,701台)、フォード「クーガ」(2,326台)、メルセデス・ベンツ「A250」(2,006台)、現代「ツーソン」(1,944台)。いずれもディーラーの自社登録を含む。

生産も物流混乱や先行き不透明で回復遅れる

ANFACによると、2022年の自動車生産台数は世界9位の221万9,436台だった。前年比5.8%増と小幅の回復で、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年を依然2割下回る水準(図2参照)。自動車の輸出額は351億6,400万ユーロと前年から微減になった。前年からの半導体不足に加え、ウクライナ情勢の影響でワイヤーなどの一部部品、アルミニウム、ニッケル、パラジウムなどの原料の供給も逼迫し、各メーカーの生産拠点では断続的な稼働停止が秋まで続いたことが理由とされる。

輸出台数も前述の要因や物流ボトルネックにより、193万2,629台と2.9%の微増にとどまった(生産台数全体に占める輸出比率は87.1%)。輸出の9割は欧州・トルコ向けだが、それ以外では、イスラエル、メキシコ、米国、日本向けが中心。日本は、アジア最大の輸出先(2万1,309台)となった。

図2:スペインの自動車生産・輸出の推移(2018~2022年)
生産台数は、2018 年282 万台、2019 年282.3、万台、2020年226.8万台、2021 年209.8 万台、2022年221.9万台。うち乗用車の生産台数は、2018 年226.7 万台、2019 年224.8 万台、2020 年180.1 万台、2021 年166.3 万、2022年178.7万台。小型商用車・バンの生産台数は、2018 年49.7 万台、2019 年52.5 万台、2020 年43.1 万台、2021 年38.3 万台、2022年37.6万台。トラックの台数は、2018 年5,500 台、2019 年5,000台、2020 年3,700 台、2021 年5,200 台、2022年5,600台。輸出台数は、2018 年230.4 万台、2019 年231 万台、2020 年195.1 万台、2021 年188.8 万台、2022年193.3万台。

出所:ANFAC

生産台数に占めるEV比率は12%、OEM生産の日本車も

スペインは、欧州でドイツに次ぐ自動車生産国だ。欧米の主要メーカーが11の完成車組み立て拠点を置いている。生産の8割は、小型SUVなど小型車を中心とした乗用車で、そのほか小型商用車・バン、トラックも製造されている。アウディ「A1」やシトロエン「C3エアクロス」、オペル「クロスランド」、VW「Tクロス」など、世界向けに全量生産している車種も多い。

2022年の自動車の生産台数全体に占めるEVの割合は、12.0%(26万6,496台)と初めて10%台を上回った。うち、BEVは12万7,028台(66.1%増)、PHEVは13万9,468台(17.8%増)となり、HVも6万3,315台(前年の2.9倍)と大きく伸びた。

スペインで生産されている全46車種のうち、電動モデルは22車種ある。小型車ではフォード、セアト、ルノーなどの既存車種の電動モデルが中心で、ルノーがOEM(相手先ブランド生産)供給する三菱自動車「ASX」も含まれる。商用車・バンではメルセデス・ベンツ「eVito」、プジョー「e-リフター/e-パートナー」(およびステランティスのOEM供給によるトヨタ「プロエース」のBEVモデル)などがある。

復興基金による電動車・バッテリー生産支援がいよいよ本格化

直近では、スペイン政府による自動車産業への電動化支援が加速している。EU復興基金を財源とする官民連携事業「電気自動車(EV)・コネクテッドカー分野の戦略的復興・変革プロジェクト(PERTE-VEC)」は、2022年に公募第1弾が実施され、VWのギガファクトリー建設を含む電動モビリティエコシステム構築計画や、メルセデス・ベンツの生産拠点のEV生産への切り替えなど、10件のプロジェクトに計約9億ユーロの支援が決定した。しかし、複数の企業からなるコンソーシアム形式での応募が必要であったほか、プロジェクト実施期間の制約、厳格な要件、手続きの煩雑さなどの理由により、当初予算の29億7,500万ユーロの3割の消化率となった。

2023年7月に発表された14億ユーロ規模の公募第2弾では、EUが3月に国家補助を暫定的に緩和したことを受け、要件や手続きが大幅に柔軟化、簡素化された。これにより、プロジェクト期間が延長され、単独企業での応募も可能となったほか、前回の競争形式から申請順に個別に審査する形式に変わり、要件を満たしていれば順次採択され、助成金が支給されるようになる。第2弾公募は、車載用バッテリーの生産支援と、EV生産バリューチェーン支援の2つに分け、それぞれ8億5,000万ユーロ、5億5,900万ユーロ(一部はソフトローン)の予算規模で公募が始まっている。また、政府は2024年にも約15億ユーロ規模の第3弾公募を行う方針を明らかにした。

前述のような改良が奏功し、今回公募は活発な応募状況となっており、「政府内では予算14億ユーロは完全消化される見込み」(9月1日付エクスパンシオン紙)という。少なくとも生産面では、電動モビリティへの移行に弾みがつきそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ)
2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。